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第75話 鉱山都市ガランド


 ――出発から4日後。

 僕たち『災禍を断つもの(コード・ブレイカー)』の一行は、西の鉱山都市ガランドに到着した。


 モーレッドの暴走馬車により、数日もの短縮に成功したことになる。

 これは紛れもない『成果』だろう。

 (僕達の尻の痛みとの引き換えになってしまったことを除けば)


 だが、本業であるはずの戦い《バトル》の方は問題だらけだった。


 道中、何度か遭遇した魔物の群れとの戦い。

 そこで僕は思い知ってしまったのだ。

 僕らのパーティーがいかに()()()()なのかを。


 基本的には前線に突っ込んでいき敵にボコられるモーレッド。

 銅貨1枚で『そのへんの石ころを投げたほうがマシなんじゃないか、という攻撃をするアーチェ。

 やっぱりポンコツなアズライト……。


 すべてが噛み合ったときは『最強』でも通常時は空回りしかしない。

 僕達のバランスは、アイディいわく『Nニュートラルと5速しか無いギア』のようなものらしい。

 よく分からなかったけど、ヘルプも訂正してこなかったのでおおむね正しい表現なのだろう。


 結局、出現した魔物は取り回しの利く僕とミアでほとんど片付けたようなものだった。


「ひー、やっと着いたあ……」


 横からやけに実感のこもったミアの声がする。

 もはや車内組は全員が尻か腰を抑えていた。


 *


 着いてそうそう入口近くの宿へ馬車を預け、僕達はさっそく動く。


「では、打ち合わせ通りに」


「うん。よろしくね」


 そう言って僕らは解散した。

 とはいってもアズライト以外の4人は途中までは一緒なのだが。


「じゃ、僕らも行こうか」


 彼女は役場に赴き、監査官権限で住民台帳や建築許可書の写しなどを確認する役割だ。

 足早に目的地へと向かうアズライトの背中を見送り、僕らも街の中央広場へと歩を進める。


「まあ、どう見てもあっちが本命にゃし、にゃあたちはのんびり行くにゃ」


「監査官って凄いんだな!」


「モーレッド、声が大きい」


「ああ、すまんすまん! これは極秘任務だったな! あはははは!」


 モーレッド・サンフレイム。

 王国軍の中でも超が付くほどのエリートである近衛騎士に所属。

 更に、(一般的には)誰もが羨むSランク神具(アイテム)まで持っている。


 ……そんな輝かしい経歴を持つこの人が『災禍を断つもの(コード・ブレイカー)』に回されてきた理由は、割とすぐに分かってしまった。


 きっと、近衛騎士の偉い人たちも大いに頭を抱えたに違いない……。


 僕も最近になってようやく『言っても無駄』ということが分かってきた。

 なので、余計な口を滑らさないよう祈りつつ、僕はガランドの街を歩き始める。

 しかし――


「なんかさ。聞いてた話と違うね」


 横を歩くミアに小声で話しかける。


「うん。寂れてる、って聞いてたけど」


 『廃坑寸前の寂れた街』――

 宰相からはそう聞いていたのに、大通りは多くの人で賑わい、活気に溢れていたのだ。


「……なんか、お祭り騒ぎだにゃあ」


 後ろを歩くアーチェが、猫耳をピコピコ動かす。

 通りすがりの立派な建物――聖堂教会の前には、黒山の人だかりができていた。


「おおぉぉぉ!」


「すげえ! Aランクだってよ!」


「うちの街から3年ぶりのAランクだ!」


 中から爆発的な歓声が上がり、拍手が巻き起こる。


「どんなのだ!?」


「『自分本位な爆弾(マイン・マイン)』だってよ! 自由に爆発できる爆弾を作れるらしい!」


「うっひょおお、じゃあ、あの岩盤も行けるっってことか!?」


 どうやら、『この街』的にも大当りだったらしく、更に歓声が強くなる。


「……なるほど。そうか、今日はこの街の『神授の儀式』だったのか」


 僕は納得した。

 年に一度、15歳になった子供たちが神具アイテムを授かる日。

 街全体が浮き立つのも無理はない。


 でも、僕とアーチェは神授の儀式にあまりいい思い出がない。

 モーレッドとミアもあまり興味がなさそうにしている。


 『今日は儀式の日だった』。

 それ以上は何を思うこともなく、僕たちは中央広場へと到着した。


「さて、と。予定通り手分けして情報収集だ」


「俺とアーチェはギルドと市場だ。酒場も回って噂話を拾ってくるぜ」


「経費はちゃんと請求するから安心してほしいにゃ」


「じゃあ、4つ鐘の後にここに集合ってことで」


「任せとけ!」


 どん、と胸を叩いたモーレッドとアーチェは、荒っぽい連中や裏社会の情報が集まる場所へ。

 そして最後に残ったのは、二人。


「そんじゃ、アタシらも行こっか」


 腰に手を当てたミアが、僕を見上げてニカッと笑った。


 *


 1時間ほど商店街を歩き回ったが、収穫はゼロだった。

 『ベル』という言葉を出しても、返ってくるのは実のないものばかり。

 あまりに()()()としすぎていて、『何でもナビ』でも検索に失敗してしまうほどの悪条件。


「……ふぅ。ちょっと休憩しようか」


 喉の渇きを覚えた僕たちは、近くの大衆食堂に入ることにした。


 昼時を過ぎているせいか、店内は空いている。

 僕は名物だという『冷やし果実水』を二つ注文し、椅子に腰を下ろした。


「ぷはーっ。生き返ぅ~」


 ミアの正直な感想を聞きながら、僕も冷たい液体で喉を潤す。

 爽やかな柑橘かんきつの香りと風味が鼻に抜けていき、とても心地良い。


 心身ともにリフレッシュしたことで、回りの様子に気を配れるようになってきたのだろうか。

 グラスをテーブルに置いたタイミングで、隣のテーブルの話が耳に入ってきた。


「それにしても、あの『マイン・マイン』がありゃあ、硬い岩盤もイチコロだぜ」

「ああ、まったくだ。ガランドもこれで安泰だな」


 どうやら、地元の鉱夫たちのようだ。

 話題の中心になっている少年、あるいは少女が――

 この世界に入ることがすでに決まっているかのような、そんな口ぶりだった。


 そんなとき、カラン、とドアベルが鳴る。

 店員の「いらっしゃい」の声とともに入ってきたのは中年の男性だった。

 質素な黒い法衣の装いを見た感じ、この街の神父なのかもしれない。

 彼は店内を見渡すと、カウンターの隅で突っ伏している少年の隣にそっと座った。


「……こんなところにいましたか、トーマス」


 神父が穏やかに声をかける。

 少年――トーマスと呼ばれた子は、ビクリと肩を震わせて顔を上げた。

 その目は赤く腫れていて、彼の手には小さなスコップが握りしめられている。


「……神父様。俺、もうダメだ……。Fランクなんて……」


「そんなことはありませんよ、トーマス。私だってFランクです」


 神父は少年の背中を優しくさする。


「神父様は頭が良いじゃないですか。俺は頭が悪いし……」


「いいえトーマス。あなたには何事にも諦めない、粘り強さがあります。それは神より与えられた何よりの贈り物(ギフト)ではありませんか」


「……慰めなんていらないっ! あいつはAランクなのに! 俺は一生、あいつの下っ端で……!」


「いいえ。神具アイテムは、道を照らす明かりに過ぎません」


 神父の声は、静かだが芯が通っていた。


「明かりがなくても、慎重に歩けば転んだりはしません。人間は、皆さんが考えているよりずっと強い生き物なんですよ?」


 その言葉に、少年がゆっくりと顔を上げる。


「で、でも」


「良いですか、トーマス。立ち止まるのは構いません。ですが、自らの不幸を呪って他人を羨むより、前だけを見て、真っ直ぐに進むことが最も大事なのです。見る方向は、上でも、横でもありませんよ」


「し、神父様。俺、うまくやっていけるかな」


「ええ。トーマスなら。私が保証します」


 神具(アイテム)中心のこの世界で、神に仕えるはずの彼が口にするには、あまりに異質な言葉だった。

 まあ、落ち込む若者を励ますための、方便も混ざっているのかもしれないけど。


「へいへい、神父様は相変わらずお優しいこって」


 近くで飲んでいた鉱夫が茶々を入れる。


「にしてもよ、いいのかよ、こんなところで油売ってて。今日は儀式でてんてこ舞いだろ?」


「ああ、シェリーが全部やってくれますのでね。私がいても、最近ではのろまの邪魔者扱いです」


 神父は「やれやれ」といった様子で肩をすくめる。

 店内が和やかな笑いに包まれた。


 ふと、神父がこちらを向いた。

 目が合う。


「おや。このあたりでは見ない顔ですが?」


 穏やかな瞳。

 僕は愛想良く会釈を返す。


「ええ、旅のものです。……つい聞き耳を立ててしまいました。僕も神授の儀式では苦労したタチでして。神父様の言葉が、とても響きました」


「そうですか」


 神父は嬉しそうに目を細める。


「もしよろしければ私の教会にいらっしゃいますか? 是非、旅のお話などをお聞かせ願いたいです」


 僕は少し迷った。

 地元の顔役に話を聞けるのはチャンスかもしれない。

 でも、合流まではあと1時間もない。

 今から行っても込み入った話はできないだろう。


「いえ、お気遣い感謝します。ですが実は、急ぎの探しものをしておりまして」


「探し物、ですか?」


「はい。……神父様、もしやお心当たりはありませんか?」


 僕は声を潜めて尋ねた。


「『ベル』という言葉に」


「……ベル、ですか」


 神父は視線をわずかに伏せ、そしてゆっくりと首を横に振った。


「残念ですが、心当たりはありませんね……」


「そうですか……」


 やっぱりダメか。

 神父ですら知らないとなると、やはりもっと専門的な知識が必要なのかもしれない。


「……それでは、私は教会に戻りますので。さあ、行きますよトーマス」


 神父は席を立ち、少年を促して店を出て行った。

 その背中を見送りながら、僕はグラスに残った果実水を飲み干す。


「……行こうか、ミア」


「うん。次はどこ行く?」


「もう少しこの辺りで聞き込みしてみよう。何がヒントになるかわからないし」


「りょーかいっ!」


 果実水のおかげか、すっかり元気になったミアと僕は席を立ち、代金を置いて店を出た。


 まあ、公的な文書(アズライト)が一番で、情報の集まる場所(モーレッドとアーチェ)が二番。

 僕達なんて、『ヒントにカスれば上出来』くらいの期待度だ。

 あまり気を張ってもしょうがないし、とりあえず、手当たり次第やるしかないか……。


 そう考え、僕は雑踏に足を向けたのだった――

というわけで、ここからガランド編がスタートです!

ただし……今日でお休みも終わってしまうので、『1日15時間執筆』という狂った作業もできなくなります。

というわけで、ハイペース更新も今回で終了となりますですよ……。(ヘルプ感)

明日以降は1日1回更新ペース(を目指す方向)でがんばりますので、ここまで読んでいただいた方は見失わないようブックマークボタンをポチ、としていただけるときっとWin-Winになると思います!笑

では、次回もお楽しみに~

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