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第73話 コード・ブレイカー、出陣!


 王都を出発して数時間。

 僕たちを乗せた馬車は、西へ向かう街道を爆走していた。

 そう、爆走だ。


「うぉおおお! 風になるぜぇぇぇッ!」


 御者台からモーレッドの雄叫びが聞こえる。

 彼は手綱を握ると人格が変わるタイプ……ではなく、元からこういう性格らしい。

 馬車の車輪が火花と悲鳴を上げ、景色はどんどんすっ飛んでいく。


「……お、降ろせ……吐く……」


 車内では、アズライトが青い顔をして口元を押さえていた。

 彼女は極度の乗り物酔い体質らしい。


「酔い止め薬~いかがですかにゃ~今にゃら~たったの銀貨5枚だにゃ~」


 そんなアズライトに、妙な宣伝文句を歌うアーチェが薬の入った小瓶を見せつけている。


「足元を見るな……! うぷっ」


「モーレッドの兄ちゃん! もっと静かに運転してくれよ!」


 上品な環境に慣れきったミアがとうとう耐えきれずに大声を上げるが、暴走する御者には届かない。


「モーレッド! モーレッドってば!」


「うおおおおおおおおおっ!」


(おい相棒ロイドぉ、加速度センサー切ってくれえ)


(こっこっこここ、これではマスターのサポートが万全に行えませんですよ~)


 何をしても壊れることのなかったタブレット。

 それに初めてダメージを与えたのはまさかの味方だった。


「仕方ない、直接止めるしか無いか」


 とはいえ、こんなことで能力強化なんて使っていられない。

 僕は揺れる室内でなんとか立ち上がり、御者台の方へ進もうとした――その時だった。


「敵襲だァ!」


「わわわっ!」


 モーレッドの嬉しそうな声とともに馬車が停止した。

 僕たちも馬車を飛び降りる。


 街道を塞ぐように現れたのは、30体ほどのオークの群れだった。

 武装しており、一際大きな個体を中心に統率が取れている。

 おそらく、ただの野良魔物じゃない。


「う、あれはオークロードも……ううっ、わ、私が指揮を……うぷっ」


 アズライトはふらふらと馬車から降りてきたものの、剣を杖代わりにして立つのが精一杯のようだ。

 残念ながら、完全に戦力外である。


「僕がやります」


 僕達『災禍を断つもの(コード・ブレイカー)』の初陣だ。

 まずは、僕が隊長としての実力を示しておかないといけないだろう。

 それに、この程度の数、ランク2になった今の僕なら――


「<マルチスレッド>起動。

 スレッド1:<熱エネルギー生成>、

 スレッド2:<空気弾>、

 座標指定:<指先>」


 複数のプログラムを同時に走らせる。

 右手に熱を集め、左手で風を圧縮する。そして、それを同時に解き放つ。


「いけっ、<並列接続>――、<火炎龍>!」


 ゴオオオオオッ!


 指先から放たれた炎と風が螺旋を描き、巨大な龍となってオークの群れを飲み込んだ。

 断末魔を上げる暇もなく、敵集団が一瞬で消し飛ぶ。


(ちっと大盤振る舞いしすぎだが、ま、隊長らしく最初は多少張り込んでも実力チカラを見せつけてやんねえとな)


 アイディの声も弾んでいた。

 そう、こういう『必殺技』に心がときめいてこその冒険者。

 そして、思ったとおりにプログラムが動くことに快感を覚えてこその開発者プログラマー、だ。

 僕は密かに右手をグッ、と握りしめた。


「すっげえ! なんだありゃあ! 超かっこいいじゃねえか!」


 モーレッドが大絶賛し、アズライトも目を丸くしている。


「そ、その漆黒の板は情報処理用の神具アイテムではなかったのか!?」


「そ、それでタダにゃ!? 弾代がかからないなんて反則だにゃ!」


 アーチェもなんだかんだ褒めてくれた。


「……もう何でもありだな、それ」


 ミアが呆れたように呟いた、その時。


「――上だッ!」


 上空からの殺気に気づいたミアが、叫ぶと同時に動いた。


「きゃっ!?」


 ミアがアズライトにタックルし、地面をごろごろと転がる。

 その直後、アズライトが立っていた空間を、鋭利な鉤爪が切り裂いた。


「ミア!」


「アタシは大丈夫!」


「アズライトさん……も大丈夫そうだね」


「め、眼鏡っ、眼鏡!」


 アズライトは(3 3)の目になり、四つん這いの姿勢で地面を手探りしていた。

 どうやら、眼鏡がないと何も見えないらしい。


「あ、あれはワイバーンにゃ!」


「マジかよ! S級指定の魔物がなんだってこんな場所に……」


 上空を旋回する巨大な飛竜。

 硬い鱗に覆われ、口からは炎を漏らしている。


 僕は再びタブレットを構えようとした。

 もう一度、火炎龍を――


(マスター、いけませんです)


 ヘルプが制止する。


標的ターゲットとの距離がありすぎますです。加えて、あの速度ですと最低でも6.35倍のエアショットによる弾速が必要です。しかし、その場合はフィードバックが……)


「くっ……!」


 届かない。無理に撃てば、僕が自滅する。


「ちょっと待ってくれ、隊長。さっきから何で自分一人でやろうとしてるんだ」


 横から、ややかすれ気味の低い声が掛かった。

 モーレッドだ。彼は不満そうに僕を見下ろしている。


「俺達に『戦え』と命令すればいいだろう」


「えっ……」


「命令が嫌なら『アイツをぶちのめそうぜ』でも良いんだ。俺達は仲間じゃねえのかよ」


 ハッとした。

 僕はまだ、どこかで「自分が何とかしなきゃ」と思っていたのかもしれない。

 ここはもう、僕一人の戦場じゃないんだ。


「……そうだね! よし、みんな。アイツをぶちのめそう!」


 僕は嘲笑うようにはるか上空を旋回する翼手竜を指差した。


「おう! ――じゃあまず俺を殴ってくれ!」


「……?」


 僕は耳を疑った。今、なんて?


「なんだよ、聞こえなかったのかよ、さあ、『俺をぶん殴れ』!」


「なんで?」


「なんで、って。その拳で、に決まってるだろうが!」


 いや、「なにで?」じゃなくて「どうして?」の()()()、なんだけど。


 言っている間に、ワイバーンが急降下してくる。

 鋭い爪がモーレッドを襲った。


「ぐあっ!」


 モーレッドの胸当てが火花を散らす。彼は後退りながらも、嬉々として叫んだ。


「拳が嫌なら蹴りでも良いぜ。それがダメなら猫ちゃんの腰のモンでもいい!」


「ああ、思い出したにゃあ。にゃるほど、さすがはコードブレイカー。厄介者の寄せ集めにゃだけはあるにゃねえ」


 アーチェが納得したように頷き、腰の後ろから――黄金に輝く、奇妙な形状のものを取り出した。


「これは……?」


「これは、銃っていう武器にゃ。まあ、これでもれっきとした神具アイテムにゃよ」


 彼女が握っていたのは、『銃』というらしい金ピカな筒だった。

 アーチェがくるくるくる、と回してチャキ、という音とともに構える。

 すると――


『へへへ、どーもどーも。細かいことは、この後で挨拶ついでに色々教えてあげますさかいに』


 ――その『銃』から、甲高い男の声が聞こえてきた。


 ……やっぱり、喋ってるよなあ?

 でも、今はツッコミを入れている場合じゃないらしい。


「赤にゃあさん、遠慮無しでいくにゃよ?」


「おうっ! 全力で来い!」


 アーチェは懐から、昨日ディートたちから買い取った『輝石』を取り出し、銃に押し込んだ。

 するん、と石が飲み込まれる。


『う、うおおおおおおっ!? これはキタで!? 高級品やないかい!』


 メキメキ、と音を立てて銃の形状が変化していく。

 その時、旋回していたワイバーンが今度は爪ではなく大口を開けて突っ込んできた。


「また来るぞ! モーレッドの兄ちゃん!」


「くっ……早く、早く俺を……!」


 一方、アーチェは腰だめの姿勢になり、4倍くらいの長さまで()()した銃の筒の先をモーレッドの方へと向けていた。


「やっぱりこの石、とんでもない価値だったにゃ。明らかに赤字だにゃ」


『いつも言うてますが、返金は受け付けてまへんでえ!』


「ならせめて、役に立ってくるにゃ! 『商魂弾丸トレード・レイド』!」


 ドギュウウウウウウン!


 轟音と同時に、緑のオーラに包まれた極太の魔法弾が発射された。

 その狙いは――ワイバーンではない。


「う、うおおおおおおおおおっ! これを待ってたぜえええ!」


 狙い通りの直撃を受けたのは、やはりモーレッドだった。

 味方の背中を撃つ。正気の沙汰じゃない。


 だが、モーレッドは倒れない。

 それどころか、緑の光を全身に吸い込み、爆発的な輝きを放ち始めた。


「いくぜ! チェーンジ・バーニング・フォーム!」


 光の中で、彼の胸当てが展開し、全身を覆う鎧へと変形していく。

 直後、ワイバーンが激突した。


 ズガンッ!!


 凄まじい砂煙が上がる。


「モーレッド!」


 煙が晴れると、そこには頭の先から爪先までを真紅の装甲で覆った、フルプレートアーマーの戦士が立っていた。


「グエエエエ!?」


 ワイバーンが困惑の声を上げる。


「友情戦士、モーレッド! 爆・参!」


 そんな怪物を尻目に、モーレッドは独特のポーズを決めていた。

 頭を丸かじりされたまま。


「……なんだ、アレ」


 ミアが呆けたような声を上げる。


「そう、これが俺の神具アイテム――『友情重鎧メイト・プレート』だぜっ!」


 わけのわからない展開に巻き込まれ、慌てて離脱しようとするワイバーン。

 だが、モーレッドが抑えているわけでもないのに、怪物はその場から動けない。

 いや、それどころか……


「ワイバーンの、体が……?」


 翼や胴体、首などが不自然に曲がってモーレッドの鎧に密着していく。


「よーし、今だ! コイツを俺ごとやれぇっ!」


 モーレッドが叫ぶ。

 もう、ワイバーンとモーレッドはほとんど一体化したような姿になっている。


『だ、そうでっせ。姐はん、ほれ、おかわり』


 銃から、にゅーん、と受け口のようなものがせり出してくる。

 アーチェはため息をつきながら、もう一つの輝石を取り出した。


「今回は初回限定サービスってことにしといてあげるにゃ。 次からは請求書を回すからにゃ?」


 そう言って僕にウインクして、受け口に青い輝石を放り込む。


『うっひょおおおおおお! これまた、まったりとしていて、それでいてしつこくなく――』


「そんにゃことはどうでも良いから、さっさと片付けるにゃ」


 スイッチのような金具に指をかけたアーチェが、それを引くと同時に轟音が響く。

 今度は青色の極太光線が飛んでいき、モーレッドごとワイバーンを飲み込んだ。


 カッ――――!


 閃光が収まると、ワイバーンは跡形もなく消滅していた。

 焼け跡立っていたのは、すすにまみれ、髪がチリチリになったモーレッド。

 鎧は解除されていて、本人は無傷……ではないようだが、満面の笑みだ。


「ナイスな痛みだったぜ、ダチ公!」


 彼は真っ白な歯を見せて、親指を立てる。


 ……なんて連中だ。

 僕は呆気にとられ、そして自然と笑みがこぼれた。


 どうしてこう、『普通の剣と魔法の戦い』ができないんだ、僕の周りは。

 遠い昔に夢見た戦いの姿とは程遠いけど、でも、これはこれで面白い。


「さあ、行くぞ」


 いつの間にか眼鏡を拾って復活していたアズライトが、何事もなかったかのように言う。


「――うん。でも、その前に」


 騒がしくて、最高にイカれた仲間たちとの新たな旅路。

 僕たちはハイタッチの音を響かせた後、再び西を目指して走り出したのだった。

というわけで、新キャラ二人の能力お披露目会でした!次回もお楽しみに!

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>思ったとおりにプログラムが動くことに快感を覚えてこそのプログラマーだ ただ一言、「よくぞ言ってくれた!」
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