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第6話 自作プログラムに挑戦・始まり

「残念ながらそちらの品はお引き取りできません」


「そ、そんなあ」


 気まずそうな受付の女性。

 その前で僕は情けない声を出した。


 持ち帰った『サンダーリザードの卵』。

 それを換金しようとして、断られたのだ。


 理由は横取り防止のためのルール。

 受諾したパーティー以外からの達成報告は受け付けられない、とのこと。


 これを当分の資金にしようと思っていた僕にとって、この誤算は痛すぎる。


 同時に、三年も冒険者をやっていたのにこんな基本を知らなかった自分の無知さに落胆してしまう。


「どうしよう……さっきの銀貨が全財産だったのに……」


 夢と希望に満ち、壮大な目標に向けたスタートを切ったはずの僕は、現実(おかね)でいきなり足止めを食ってしまった。

 依頼用の掲示板も見た。

 でも、受けられそうな依頼はゼロ。


 パーティー募集は一件だけ。

 しかも、あの三人組だった。入れるわけがない。


 結局、ギルドで状況は変わらなかった。

 今日は諦めるしかないらしい。


 肩を落として外に出る。

 家路で、思わずため息が漏れた。


 その後も考えた。

 でも、答えはまとまらない。


 気づけば、下宿の小屋の前。

 町はずれの小さな家だ。


「おお、ロイド。お帰り。今日はどうだった?」


 大家のドミニムが声を掛けてきた。

 どうやら、家の前で待っていたらしい。


 こういう時の用件は大体一つ。

 家賃の催促だ。


 僕は身構えて口を開く。


「ドミニムさん、すみません。今日は持ち合わせがなくて――」


「ああ、いや。今日はそれじゃないんだ」


 充電チャージのために道具を買いそろえ、魔術師に依頼料を支払った僕の財布はほとんど空っぽだった。

 銀貨2枚(やちん)どころか、今日食べるパン代すら無いのだ。

 支払い延期を頼むしかない……と思っていたのだけど、今回は違う話らしい。


「家賃の件じゃないんですか?」


「払ってくれるなら大歓迎だよ。けど、相変わらず上手くいってないんだろ? 仕事」


「ええ――あ、いや。明日からはガンガン稼ぎますので!」


「ほー。景気がいいな。なら俺の話は余計なお世話かねえ」


 そう言って、ドミニムは額をぺちんと叩く。

 生え際がだいぶ後退している。


 彼は僕の大家だ。

 毎月、支払い日が近くなるとこうして様子を見に来る。

 厳しい時は簡単な仕事も紹介してくれるので、正直かなり助かっていたり。

 絶好のタイミングな助け船に、僕はすぐに前のめりになってしまった。


「い、いえ! お話を伺わせてください!」

「お、おお。実はな――」


 ドミニムは少し引きつつも話し始めた。

 そして、要点をまとめるとこうだ。


 床タイルの塗装。

 彼の神具アイテム、『金槌』では専門外の仕事。

 人手が足りないのに、どうしても断れない案件らしい。


「――ってわけでな。人手が足りなくて困ってんだ」


「なるほど……床のタイル塗りですか」


「こいつはエドール卿からの仕事だし、今さら断れねえ」


「……ちなみに、報酬は?」


「やってくれるならタイル一枚につき大銅貨一枚だ」


「だ、大銅貨一枚も?」


「ああ。働きぶりによっちゃ、もっと色を付けてもいい」


 僕の喉が鳴る。

 大銅貨一枚は大きい。


 勢いで聞いてしまう。


「ちなみに、何枚くらいあるんですか?」


「十掛ける十で、百枚だ」


「ということは……全部やれば銀貨十枚!」


 銀貨十枚。

 家賃も払えるし、しばらく余裕で暮らせる額じゃないか。


「はっはっは。他の奴もいるから独りじめは難しいぞ?」


「あ、僕一人じゃないんですね……」


「今のところ、お前を入れて四人だよ」


 そりゃそうか。

 素人の僕に全部任せるわけがない。


 でも二十枚でも十分。

 三十枚なら、かなり助かる。


「……それでも構いません。ぜひやらせてください!」


「おおっ、ありがたい。お前さんは素人なりに仕事が丁寧だからな。期待してるよ!」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


「じゃあ、明日の朝に迎えに来る」


 ドミニムと別れ、小屋に入る。

 すぐにタブレットの睡眠を解除した。


 起動はした。

 なのに、アイディがいない。


 表示も変だ。

 青地に、小さなシンボルが点在している。


「な、なんだこれ。ヘルプ、ちょっといい?」


(はい、マスター。何か御用です?)


 呼びかけると、ヘルプが右下から頭を出した。

 相変わらず、何でもありだ。


 でも、いちいち驚いていられない。


「青くなってるけど。アイディは?」


(今は休んでおりますです。御用があるなら『画面』の『IDE』と書かれた『アイコン』をタップするです)


「がめん……あいこん……こうかな」


 言われた通り、文字のある印を叩く。

 でも、反応がない。


「何も起こらないみたいだけど」


(この大飯喰らいは寝起きも悪いのです。何度も押すと嫌がらせしてくるので、少しお待ちくださいです)


「そうなんだ……それにしても、食べたり寝たりするんだね。ヘルプたちって本当に生きてるのかな」


 僕は思ったまま言う。


「握手もできるし、精霊みたいなもの?」


(うぅー……私たちが何者か、と聞かれると答えるのが難しいのです……)


「ヘルプにも分からないことあるんだ」


(い、いえ。荒唐無稽こうとうむけいすぎて、いきなり言うとマスターが混乱するのです)


 確かに。

 今でも理解が半分くらいだ。


 ここはヘルプの気遣いに甘えよう。

 それより、仕事に役立つ話が先だ。


「あ、今のは雑談だから気にしないで。それよりプログラムのことを教えてほしい」


(はい、何なりとお聞きくださいです)


「あれって戦い以外にも使えるの?」


(ええ、もちろんですわ。……あ、マスター。寝坊助ねぼすけが起きたみたいです)


 画面いっぱいに黒っぽい背景が戻る。

 そして、左上からアイディが出てきた。


 寝そべったままだ。


(ふあぁぁ。何だよ。せっかくいい気持ちで寝てたってのによお)


(ああ、もう! なんて態度してるですか!)


 このままだとケンカになる。

 僕は早めに本題へ突っ込む。


「ヘルプ、僕は気にしてないから。それで早速なんだけど、タイル塗りの仕事に行くことになって」


(かーっ! タブレット持ちがタイル塗りだと!? そんなつまんねーことのために俺様を使うな! 金が欲しいなら怪物を狩れ!)


 アイディは乱暴に吐き捨てる。

 そして寝転んだまま、ぷいと横を向いた。


 言い分は分かる。

 冒険者なら、クエストで稼げ。


 それは正論だ。

 しかも僕は、アミリーを取り戻すと言った。


 その第一歩が日雇い仕事。

 肩透かしに見えるのも当然だろう。


 でも、現実もある。

 ギルドの仕事は移動も準備もあるし、大半は数日がかりとなる。

 明日のパン代すらない僕には現実的ではない。


 高い場所に手を掛けるなら、まず足場が必要。

 それ以前に、足場をおくための土台を固めないといけない。

 そのためにはまず、頑張ってアイディを説得しなければ――。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

☆やブクマして頂けますと作者のやる気が100倍になります!(断言)

少しずつこちらの作品にも挿絵を入れていきたいと思います。(過去話にも入れ始めました!)

どうかよろしくお願いします!!

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