第59話 スキルランク:2の実力
「うわ、なんか急にムキムキに!?」
「うはは、なんだいこれ、背中がこそばゆい」
「なんだ、急に足がシャカシャカって!?」
「こ、この感覚は若いときの――いや、それ以上だ!」
全員の体に、爆発的な力が漲る。
「い、一体何が起きたというのです! ふ、良いでしょう、こちらもそろそろ本気で――ゲへっ」
ミュズガルが端末を操作しようとした瞬間、その顔面に足跡がついた。
「あ、ごめん。あまりにすっとろいから蹴っちゃった。てへ」
防御プログラムを上回る速度を得たミアが、ニカッと笑う。
「このっ!」
ミュズガルが焦って神具を一斉にミアへ向ける。
だが、その射線上に巨大な影が立ちはだかった。
「『偉大なる鉛』!」
バルガスが大盾を地面に叩きつける。
展開されたのは、巨大で分厚い防御壁。
全ての攻撃を弾き返し、ミアにはかすり傷一つ入らない。
「爺ちゃん! すげーじゃん!」
「守りはワシに任せろ! お前達があの青二才に分からせてやれい!」
「よーし、なら私も! 『贈答品は私』!」
リゼが自分自身を『幽霊の略奪』の対象にして、射出した。
砲弾のように飛んで行ったリゼの拳が、相手が展開した防御用の神具ごと、ミュズガルの顔面を殴り抜く。
ドゴォッ!
「ぐ、このお」
ミュズガルが吹き飛ぶが、すぐに起き上がる。
「あいつ、タフだね」
(致命傷を避けるようなアプリでも動かしてるんだろ)
アイディが分析する。
ミュズガルは口元の血を拭い、憎々しげにこちらを睨んだ。
「おのれ……これは使うなと言われていましたが……こうなっては仕方ありません」
彼が懐から取り出したのは、赤黒く脈打つ不気味な球体。
あれは……想具!?
「しねえっ!」
ミュズガルが想具を投げつける。
放たれたのは、毒々しい色の光線だ。
「『吸収』!」
ディートが前に出て、ガントレットで受け止める。
「なにいっ!?」
「ディートさん! それに長時間触れるのはまずいです! すぐに吐き出して!」
僕は叫んだ。あれは呪いだ。溜め込めばディートさんが危ない。
「そ、そうなの? 『放出:1』!」
ディートは即座に排気口を開き、濁った泥を横の壁に向かって吐き出した。
「うわ、なんだこの気持ち悪いの」
「あ、あんなのがミナ姉に……許せねえ!」
ミアが短剣を握りしめて突っ込もうとする。
「ダメだミア、あれだけは食らっちゃいけない!」
「……冗談だろ、おい」
ミアが顔を引きつらせてバックステップで距離を取る。
ディートが吐き出した黒いヘドロが付着した壁は、ジュワジュワと嫌な音を立てて溶解し、ドロリと崩れ落ちていた。
物理的な破壊力ではない。触れたものを侵食し、腐らせる「毒」だ。
「悪いね。俺の可愛い『暴食の顎』でも、あんなゲテモノは消化不良を起こしちまう。次はないと思ってくれ」
ディートが苦虫を噛み潰したような顔で、まだ熱を持って燻っているガントレットを振る。
最強の盾による防御が封じられ、触れれば終わりの猛毒が目の前にある。
僕たちの足が、完全に止まってしまった。
それを見たミュズガルが、嗜虐的な笑みを深める。
「くくく、どうやら形勢逆転のようですね? さあ、来るが良い! 想具の呪いを恐れないならばね!」
ミュズガルが想具を掲げ、再び攻撃の構えを取る。
これじゃ近づけないぞ……どうしよう。
あ、そういえばライブラリでまだ試してないのがあったな。
そうそう、空気弾。
あいつには遠隔攻撃の方が良いだろうし、ここは試しに、このサンプルプログラムを使ってみるか。
ショートカットの……これこれ、『デモ用』。
僕は右手を突き出した。
なんかこれ、ちょっと恥ずかしいな。まあいいか。
「え、空気弾!」
(ま、マスター! それはデモ用で何も調整して――)
ヘルプの制止も間に合わず、残念ながらデモ用プログラムは『実行』されてしまった。
――ズッッッドオオオオオオオオオオオン!
次の瞬間、轟音が炸裂した。
圧縮された巨大な空気の塊が超高速で打ち出され、哀れなミュズガルは遥か彼方へ吹き飛ばされてしまう。
「ひぇぇえええええぇぇぇぇええぇぇッ!」
ドガンッ!
『神の僕』第4位階を名乗った男はサーバールームの端の壁まで吹っ飛び、めり込んだ。
余波で室内に暴風が吹き荒れる。
「きゃあッ!」
スカートを押さえ、ロイドにしがみつくミア。
手近なラックや柱を掴んで何とか耐える他3人。
そして、風は収まる。
僕にしがみついていたミアと目が合った。
「ろ、ロイ! そういうのやるなら先に言え!」
パッと離れていつものように悪態をつくミア。
「ご、ごめん、まさかこんなとは思ってなくて」
顔を上げ、状況を確認する。
あれだけ整然としていた室内は荒れに荒れ、黒い箱や透明な台座はメチャクチャに破壊されている。
あんなものを直す資材も技術も無い僕たちにはどうすることもできない。
(次からはちゃんと『テスト』してから使うんだな。ランク2になるともう今までみたいに『失敗しちゃった、テヘ』じゃ済まなくなることでも出てくるぜ。今回みたいにな)
ミアじゃ無いけど、そういうことは先に言って欲しい……。
いや、アイディが『失敗を体で覚えろ』派っていうのは知ってるけどさ。
「あ、そういやアイツはどーなったんだろ」
リゼはそう言ってミュズガルが吹っ飛んだ方へと近づいていく。
「あ、いたいた。……うわー」
彼は壁に埋まったまま、白目……いや、黒目をむいて気絶していた。
リゼは強化された肉体で男を壁からひょいっ、と簡単に引きずり出す。
「うわ。ほんとにすごいねー、この力」
「あれだけの傷がもう全快だよ! ヒーロー君のそれ、すごいじゃないか!」
「ワシも、あのような『偉大なる鉛』が出せたのは初めてだ」
「な、なあ。足が速すぎて落ち着かねえぞ、ロイ。どうなってんだ、これ」
「ああ、ごめん、今――」
左腕に装着したデバイスの画面に視線を移す。
「うわっなんだこれ! 全中断! 全中断!」
僕の目に飛び込んできたのは――
残りエネルギーを示す表示が9%から8%に変わった瞬間だった。
それを見た僕は慌てて全てのプログラムを停止する。
「さ、さっきまで70%くらいあったのに……」
(空気弾で32%、継続的に4つ平行で負荷の高いプログラムを動作させたことで30%のエネルギーを消費しましたです)
「……はあ。やっぱりそんなにうまい話は無いってことかあ」
ほんの数分でそこまでエネルギーを持って行くとは……。
そう言って僕が肩を落とすと、ぽん、と肩を叩かれた。
「なーに言ってるんだよ、ヒーロー君」
「そーだよ。あれだけの戦いで誰も死んでないんだよ。十分だよ」
「ふ。久しぶりに血が滾ったぞ」
「ミナ姉に良い土産話ができたよ!」
みんな服はあちこち破れてるし、顔も煤やホコリまみれだ。
だけど、その表情は明るく、充実に満ちあふれていた。
「そっか。そうだよね!」
「うんうん。そんじゃ、今度こそ帰ろうよ!」
――こうして。
僕たちの、誰も知らない王都地下での激戦は、規格外の破壊力と共に幕を閉じたのだった。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!
本作を少しでも面白い・続きが読みたいと思って頂けましたら、下の☆☆☆☆☆をタップ、ブックマークへの追加をして頂けますとモチベーションが10倍になります!
あと、作者にもこの作品の何が良くて何がダメなのかよく分かってません!できれば感想を頂けますと本当に助かります。




