第5話 はじめの一歩
さて。
今、最優先でやるべきことは――これだ。
「そう言えば、あのクルクルってどのくらいやればいいの?」
そう。
タブレットの管理方法を聞くこと。
大事な場面でエネルギー切れ。
そんな地獄は見たくない。
(一日一回、八時間――)
「ええっ!?」
(――ってのは冗談だぜ! がっはっは!)
(マスター、こんなアホの言うことは聞かなくていいです)
「ああ、うん」
ヘルプが咳払いする。
(タブレットには定期的な『充電』が必要なのは確かです。でも、使い方を守れば大変なことにはなりませんです。例えば――)
そこからしばらく、メンテナンス講座が始まった。
棒を回すのは急速充電用。
普段は近くに置くだけで、ゆっくり回復する。
使わない時は『睡眠』にもできる。
そうすれば、活動時間をさらに伸ばせるらしい。
大体の使い方が分かってきた頃。
ようやく、あの三人が目を覚ました。
「ひ、ひいいいい! ご、ごべんばざいい!」
「命だけは! どうか命だけは!」
「見逃してくれるなら、身体を好きにしていいから! ねえっ!」
顔を見るなり、全力の謝罪。
でも、正直もう興味はなかった。
三年、荷物持ちをした。
体も鍛えられた。
自分の弱さにも気づけた。
そう考えれば、無駄ではなかったのかもしれない。
……それでも、けじめは必要だ。
「僕、君たちのパーティー抜けたいんだけど。手続きしてきてくれない? 今回はそれでいいや」
「は、はいい! 喜んで!」
彼らに、復讐しに来る度胸はない。
むしろ、距離を取りたいはずだ。
思った通り、三人は逃げるように走っていった。
ギルドの方角へ。
「さてと。それじゃ、僕もギルドに戻るかな」
(さっきからギルド、ギルドって何なんだ?)
言われて、少し考える。
ギルドは常識すぎて、説明しづらい。
(ギルドとは、この世界における職業組合のことですわ)
ヘルプが助け舟を出してくれた。
こちらにウインクして、説明を続ける。
(マスターの言うギルドは『冒険者ギルド』です。各地から依頼が集まり、冒険者はそれを解決して報酬を得る仕組みです)
(要するに日雇い労働者じゃねえか)
(野暮ですわ。魔物が多い世界では、人の命と町を守る高潔な職業なのです)
(高潔ねえ。さっきの連中が?)
(ど、どこにでも例外はあるです! ですよね、マスター?)
「うん……まあね。なりたくてなった人ばかりじゃないし」
僕は続ける。
「特に神授の儀で武器や魔法の神具を貰った人は、兵士か冒険者になるしかないみたいだし」
(ああ、あの訳の分からん儀式か。呼び出されて、何十年も拘束される。いい迷惑だな)
(仕方ないです。こうでもしないと人間が生き残れないって、おとう――むぐっ!)
「おとう?」
(あーっ! 今のは忘れろ! 今のお前には関係ねえ! それよりギルドだ、急ぐぞ!)
アイディがヘルプの口を塞いだ。
ヘルプは顔を真っ赤にして暴れている。
「え、あ、ああ。うん。行こうか」
(ぷはーっ! 何するですか、このゲジ眉悪魔!)
ようやく解放されたヘルプが噛みつく。
……やっぱり生物なんだろうか。呼吸してるし。
(余計なこと言うからだろ、このちんちくりん!)
(な、なんですってえ!)
(やるか? 俺様の『領域暴食』でぶっ飛ばすぞ?)
このままじゃ収まりそうにない。
少し怖いけど、止めるしかない。
「二人とも、そこまでにしてよ。ケンカは良くないって」
(あ……申し訳ありませんです、マスター……)
(けっ。人を殴ったお前が言うかよ)
「……それは言い返しづらいけどさ。それでも、仲良くしてほしいな。たぶん長い付き合いになるし」
二人は黙った。
どうやら納得してくれたらしい。
(……まったく、甘ちゃんだな)
これで一安心。
ただ、一緒に呼び出すのは危険かもしれない。
緊急のとき以外は配慮した方がいいだろう。
(では、私たちはタブレットに戻りますです。何かあれば呼んでくださいです)
短い別れを告げ、教わった通り操作する。
タブレットを『睡眠』状態にした。
さて、これから忙しくなる。
ギルドでの手続き。
家に帰って操作の練習。
聞きたいことも山ほどある。
光を失ったタブレットを懐にしまって、僕はギルドへ歩き出した。
足取りは軽い。
町の景色が、昨日より明るく見えた。
やることが多い。
それなのに、うんざりしない。
『やらなきゃいけないこと』と『やりたいこと』。
その違いだけで、世界はこんなに変わるらしい。




