第58話 神の僕・第4位階
~ここまでのあらすじ~
王都エル・ガルドに到着したロイドたち。しかし、幼馴染アミリーへの面会は『金貨10枚』という法外な壁に阻まれる。
金策に悩むロイドの前に現れたのは、エムリアで共闘したSランク兄妹、ディートとリゼだった。彼らが掴んだ『古代遺跡のお宝』の噂話は、護衛している侯爵令嬢・セルフィナの屋敷を管理する元冒険者・バルガスが長年『嘘つき』と呼ばれてきた過去の体験と奇妙に一致していた。
金貨のため、そして真実を確かめるため、王都の地下下水道へと潜入する一行。
ロイドのタブレットで隠し扉を開けた先には、失われた古代文明の遺産――巨大な『データセンター』が眠っていた。
そこで仲間達は高価な報酬を、ロイドはタブレットをランク2へと強化し、様々な新能力を手に入れたのだった。
満足して部屋を出ようとした一行。しかし、扉の外にはエムリアで見たあの『爆弾魔法』が――!
扉の隙間に仕掛けられた白い物体が、カッ! と視界を白く染め上げるほどの強烈な光を放った。
回避は間に合わない。
至近距離での起爆。先頭で扉に手をかけていたリゼが、その致死の光に飲み込まれる――
「間に合わねえッ!」
ディートが叫んだ。
彼はガントレッという選択肢を捨て、身を挺してリゼに覆い被さる。
ドォンッ!!
鼓膜を破るような爆音と共に、熱波が広い室内を駆け抜ける。
二人の体は、まるで嵐の日の木の葉のようにまとめて吹き飛ばされた。
赤黒い爆炎の中を回転しながら、彼らはサーバールームの床を何度もバウンドし、さらに奥にあるラックの残骸に激突してようやく止まる。
もうもうと立ち込める黒煙。
焦げた臭いが鼻をつく。
「お、お兄!?」
瓦礫を押しのけ、リゼが顔を上げる。
彼女はディートの腕の中に抱え込まれていて無傷だ。
だが、彼女を庇った兄は――
「……おー、いてて……」
ディートはうつ伏せに倒れたまま、掠れた声で呻いた。
緑色の軍服の背中は焼け焦げ、露出した皮膚が痛々しく赤く爛れている。
「いててじゃないよバカ兄! こんな大けがして!」
リゼが涙目になりながら、ディートの上半身を抱きかかえる。
「ああ、なんてこった。天国が見えてきたぜ……がく」
ディートが白目を剥いて、ガクリと力尽きたフリをする。
「兄ちゃん!」
慌てて駆け寄っていくミアを、冷めた声のリゼが制した。
「……あー、いつものことだから。気にしなくてもいーよ」
リゼはふざけた兄の態度に一瞬で真顔になり、乱暴にソレを床に放り出した。
ゴチン、と頭を打つ音がして、小さく「いて」という声が聞こえてきたが、まあ、軽口が叩けるなら生きてはいるようだ。
いや、それはともかく。
「あの爆発……まさか……」
僕は入り口の方角を睨む。
ただの罠じゃない。誰かが意図を持って設置し、起爆させたものだ。
「ふ、Aランクの『自分本位な爆弾』でも一網打尽というわけにはいきませんか。これは手強そうだ」
爆煙の向こうから、一人の男が現れた。
そう、あいつは――
「――――あいつ、誰?」
例の爆弾魔が出てきたのかと思いきや、そこにいたのはどこにでもいそうな、特徴のない普通の中年男性の姿だった。
「ああ、これは失礼しました」
男は懐から取り出した小さな『黒い板』を、指で操作する。
すると、彼の姿がノイズのように揺らぎ――変貌した。
灰色のフォーマルな服に身を包み、肌は土気色の灰褐色。
髪は真っ白で、几帳面に七三に分けられている。
そして、黒い白目に、血のような紅い瞳。
「神の僕……か!」
「いかにも。私は神の僕第4位階、ミュズガルと申します」
ミュズガルと名乗った男は、慇懃無礼に一礼した。
その態度は、以前会ったエディミルとも、エムリアで暴れていたテロリストとも違う。より冷徹で、機械的な印象を受ける。
「やっぱり、お前達には仲間がいたんだな」
「ええ。それなりには」
「何の用だ」
「ここに来たのは偶然、なのですがね」
「偶然だと?」
「はい。『聖地』の入り口を探していましたところ、地下深くから巨大な衝撃が観測されましてね」
恐らく、さっきディートが『放出』した一発で感付かれたのだろう。
僕たちの行動が、敵を呼び寄せてしまったのだ。
「いやはや、まさか本当にこの場所に『聖地』があるとは! 長年の探索が報われましたよ」
「ここはもう動かないよ。エネルギーは全部使っちゃったからね」
「ふふふ、まあ、私から言わせればこのような場所、宝の持ち腐れでしかありません」
「なに?」
「だって、そうでしょう? どんなに貴重な情報があったとして、取り出すための鍵がないのでは意味がありません」
ミュズガルの視線が、僕の左腕――端末に向けられる。
貪るような、粘り気のある視線だ。
「タブレット、か。僕に仲間になれっていうなら――」
「――いえいえ。それはエディミル様のやり方でしょう。私は少々違うのですよ」
ミュズガルは冷ややかな笑みを浮かべた。
「何が違うって言うんだ」
「あの方と違って私は少々短気でしてね」
彼が端末を操作すると、背後の空間が歪んだ。
ボゥン、ボゥン、と低い音を立てて、そこから十個以上の神具が浮き上がってくる。
剣、槍、杖、弓……。その中には、あのエムリアで捕まった爆弾魔がしていたブレスレットもあった。
「殺して奪い取るのが最も楽で、最も早い――」
ミュズガルが指を鳴らす。
浮遊していた神具が一斉に火を噴いた。
「みんな、くるぞ!」
「――そうは思いませんかッ! ロイド・アンデールさん!」
自動追尾する光の矢、岩をも両断する大剣、真空の刃を飛ばす杖、そしてあらゆるものを吹き飛ばす魔法爆弾。
恐らくはどれもA~Bランクと思われる神具の嵐が、僕たちを襲う。
「ぐあっ!」
「お兄!」
「さーすがに少しだけしんどいかなーなんて」
ディートがガントレットで防ぐが、爆発のダメージが大きいのか、片膝をつく。
吸収はできても、体がついていかないようだ。
「ぬうっ!」
バルガスが前に出る。
彼が展開したのは、緑色の光を放つ障壁だ。
ランクCの神具、『活精鉄壁』。
その効果は「自分の生命力を防御力に上乗せした広範囲防御壁を展開する」というもの。
並の使い手なら、自分と、精々もう一人を守るのが精一杯で、まさにCランクに相応しい性能だ。
でも、そんなありふれた神具にも関わらず彼がAランクパーティーで活躍できたのは、バルガス青年には人並み外れた生命力があったから。
そして、その生命力が加齢と共に衰えた現在は――
「いかん、防ぎ切れん!」
自分の前方に、人ひとり分ほどの小さな防御壁を展開するのがやっとだった。
飛来する数本の矢を弾くが、衝撃でバルガスの足がずるずると下がる。
「ぐあっ!」
「ロイ!」
僕も『対象』に記録していなかった氷柱での攻撃に対応できず、まともに肩に食らってしまう。
鋭い痛みが走り、よろめいた。
「こんのぉっ! よくもロイを!」
ミアが飛び出し、双剣でミュズガルに斬りかかる。
風を纏った神速の一撃。だが――
「おやおや、随分と元気の良いメイドですね」
まるでダンスでも踊っているかのように攻撃をかわし、かすり傷さえつけることができない。
きっと、あいつも回避特化型の防御プログラムを設定しているのだろう。
「く、くそ、なんだこいつ、全然当たんねえぞ!」
「ほら、足下がお留守ですよ」
ミュズガルが指先を動かす。
ミアが着地しようとする地点には、いつの間にかあの爆弾があった。
あれに触れたら爆破する――!
「――ミアッ! 下!」
「っ! うわわっ!」
間一髪、ミアは猫のように体をひねって四点倒置で爆弾を避けて着地した。
「あっぶねー、ロイ、ありがとな」
「ミア、あいつに近接攻撃は相性が悪い! 後方でサポートを頼む!」
「ちっ、わーったよ!」
下がるミア。
となると頼みは遠隔攻撃のできるリゼ、となるのだが……
「何アイツ!『幽霊の略奪』で神具を引き寄せても動きが止まらないよ!」
リゼが浮遊する剣を透明な布で掴み、手元まで引っ張っても剣は動きを止めるどころか、さらに激しく暴れ回り、布を切り裂いてしまった。
なぜだ。神具は持ち主から離れると動かなくなるはずなのに。
「ははは、だって私は持ち主ではありませんからね! 一時的に借りて操作しているだけです!」
ミュズガルが高笑いする。
黒い板による遠隔操作。
物理的に奪っても、制御権が向こうにある限り攻撃は止まらない、という理屈らしい。
「そういうのは反則でしょっ!」
「戦いに反則などないんですよ!」
サーバールームは完全に戦場と化した。
あちこちで鉄と鋼と魔法が交差する音が聞こえてくる。
僕もさっきから回避に防御に大忙しだ。
――でも。
こんな感じで、またしてもなし崩し的に始まった『敵』との戦いなわけだけど。
防戦一方に見えるこの状況で、僕はずーっと、ある違和感を覚えていた。
(……こいつ、そんなに強くなくない?)
神の僕の第4位界。複数の神具を操る強敵。
確かに攻撃は激しい。
けれど、ここまでの戦いを冷静に見る限り、どうしても『とある一つの結論』に至ってしまう。
あれだけ攻撃しているのに、致命傷どころかまともなダメージを受けたのは、不意打ちのディートと、不慣れな攻撃を受けた僕だけ。
攻撃の密度は高いが、一つ一つの威力は分散しているし、狙いも甘い。
防御だけは黒い板の性能もあり、一筋縄にはいかないレベルだけど。
それでも足りないのは――あと一押しする「決定打」だけ、だと思う。
そう結論づけた僕は必死に応戦するみんなに声を掛ける。
「……みんなっ! 聞いてくれ!」
「何だよ、ロイ!」
「無駄話をしている暇はないぞ」
バルガスが盾を構えながら叫び返す。
僕はタブレットの画面を展開しながら、ニヤリと笑った。
「ああ、じゃましてごめん。みんなにちょっと聞きたいんだけど、アイツのこと、ぶっ飛ばしたい?」
「はあ?」
「ヒーロー君、いきなり何言い出すの!」
「いいからいいから。そう思う人は手を挙げてよ」
一瞬の沈黙の後。
おお、全員挙手だ。あのバルガスも、盾の裏で小さく右手をあげてる。
「よし、オーケー。じゃあ、明日1日は筋肉痛で動けなくなるらしいけど頑張ってね!」
「え」「おい」「何言って」「ま、待てワシには屋敷の仕ご」
僕は腕の端末を操作し、新機能『マルチスレッド』と『身体能力拡張』をフル稼働させる。
対象は4人同時。
各仲間に、最適な強化プログラムを配っていく。
<スレッド1:対象・ミア><瞬発力強化><強度:3.0>
<スレッド2:対象・ディート><自己治癒力強化><強度:3.0>
<スレッド3:対象・リゼ><筋力強化><強度:3.0>
<スレッド4:対象・バルガス><活力強化><強度:3.0>
そして全員を視界に収め、力強く『音声認識』でプログラムを実行させる。
「……<パーティー強化、3倍>!!」
僕がそう叫んだ瞬間、戦場の空気が変わった。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!
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