第55話 マキシマム・ボルテージ
「ゆーぷーえす?」
(UPSです、マスター)
ヘルプが冷静な声で告げる。
(この規模のデータセンターなら、必ず独立した再起動用の電源ユニットがあるはずです)
(こういうのはな、大体部屋の隅っこにあるもんなんだよ)
アイディのアドバイスに従い、僕たちは奥の壁際へと近づく。
(あれです。間違いありませんです)
ヘルプが指差す先、そこには他とは違う、太い管が無数に繋がれた巨大な箱が置かれていた。
(ビンゴ。見たところ、まだ回路は生きてそうだ)
「じゃあ、これが動けば……?」
(施設全体が一時的に生き返るはずだぜ。だがなあ……)
言葉を濁すアイディから引き継ぐようにヘルプが口を開く。
(この施設を再起動させるには、かなりの『電圧』が必要です)
「電圧……?」
(はい。システムが冷え切っているため、生半可な力では入り口で弾かれてしまいます。分厚い鉄の扉を押し開けるような、凄まじい圧力が必要です)
(具体的に言うとだな……)
アイディが割り込み、画面に赤い数字を表示させる。
(電圧(V)66,000。電流(A)10,000。こいつを0.001秒で叩き込む必要がある)
「ろくまん……いちまん……!?」
単位の意味は分からない。だが、その数字の桁違いさだけは理解できた。
「そんな都合の良い神具、あるわけが……」
万事休すか。そう思いかけた時、リュックの中で「きゅ?」という声がした。
「……あ」
僕はリュックを下ろし、中からルミルを抱き上げた。
水色の鱗を持つ、サンダーリザードの子供。
「ルミルじゃ……ダメだよね。やっぱり」
(んー。まあ、全然だな。あんときのデカい奴でも全く足りてねえ)
確か、あの時のサンダーリザードのブレスでLV7、って表示だったよな。
ルミルのブレスは……まだ1か、良いとこ2ってとこだろう。
「レベルで言えばどのくらいあれば足りるの?」
(正確な数字はわかんねーけど……まあ、1000とか?)
「せっ、1000!?」
(そんぐらい必要だって事だ。ああ、でも1匹で用意する必要はねーぞ)
「ルミル500体分とか、どっちみち無理だよ」
(あ、いや。待てよ。なるほど。その手があったか)
アイディがニヤリと笑う気配がした。
「なに、どうしたの、アイディ」
アイディは僕に「良いこと思いついたぜ」とケケケと笑いながら、意外な人物に声を掛けた。
(おい、アゴのニイちゃん)
「ん? なんだい。悪魔くん」
(お前さんのソレ、さっきスッキリ出し切ったばっかだよな?)
「え? ああ、まあね」
アイディの指差す先にあるのは、ディートの神具だった。
(俺様の見たところ、アンタの神具は『コンデンサ』だ)
「こんでん、さ?」
(入ってきたエネルギーを溜め込んで、任意のタイミングで放出できる。そんな感じだろ)
「ああ、まあね。その通りさ」
(なら話は早え。そのビリビリトカゲにアゴ兄ちゃんの神具を噛ませろ)
「えっ? 噛ませる?」
(ルミルちゃんの放電能力ですと、『瞬間的な圧力』が不足していますです)
アイディの突飛な指示に困惑した僕に、ヘルプが補足する。
(手順を説明しますです。まずルミルちゃんが『暴食の顎』に噛みつき、継続的に放電してもらうです)
「ええ!? そんなこと、大丈夫かなあ」
たしか、サンダーブレスって1回吐いたらしばらく休まなきゃダメだったような……。
「きゅ! きゅ!」
(おお、チビはやる気みてーだぞ?)
「ルミル、無理しちゃダメだよ?」
(きゅう~)
僕の手に頭を擦りつけるその姿は、『だいじょうぶ、まかせて!』と言っている……
ような気がしないでも無い。
「そっちはまとまったみたいね。で、俺の方は?」
(ディートさんはそれを『吸収』し続け、限界までチャージしてください)
「……なるほど。少しずつ溜めて、ダムが決壊するような勢いで一気に叩き込むってわけか」
ディートが理解して、ニヤリと笑った。
「面白え。俺の『暴食の顎』の容量を試そうってんだな?」
「ルミル、頼んだよ」
僕が聞くと、ルミルは「きゅぅッ!」と力強く鳴き、尻尾をパチパチとさせた。やる気満々だ。
もし、これが上手くいったら腹一杯おいしいものを食べさせてあげるからな。
「よし。バルガスさんとリゼさん、ミアは下がってて。何が起きるか分からない」
「……あんま無茶すんじゃねーぞ」
「調子に乗ってミスんないでよ、お兄」
三人が距離を取るのを確認し、作戦を開始する。
「いくぞ、ルミル! ディートさん!」
「おうよ! 来な!」
ルミルがディートの左腕に飛びつき、ガントレットにガブリと噛みついた。
次の瞬間、眩い閃光が走る。
バチチチチチチッ!!
「ぐぉぉッ……! いい痺れだぜぇッ!」
ルミルの全身から放たれた高圧電流が、ディートを襲う。
だが、彼は逃げない。ガントレットの掌にある排気口を開き、その全てを飲み込んでいく。
「『吸収』ッ!!」
ガントレットが、微かな光から、直視できないほどの強烈な輝きへと変わっていく。
画面の中で、アイディが叫ぶ。
(入力開始! 電圧上昇……推定2000、3000……まだだ! 全然足りねえ! もっと絞り出せ!)
「きゅぅぅぅぅ……!」
(ルミルちゃん、頑張るです! あなたならきっとできるです!)
ルミルが苦しげな声を上げるが、放電を止めない。
ガントレットが赤熱し、限界を知らせる蒸気を吹き始めた。
(10,000……20,000……! おい兄ちゃん、漏らすなよ! 圧縮しろ! 中で練り上げろ!)
「くっ、無茶言うなよ……! 腕が……消し炭になりそうだ……!」
ディートの額に青筋が浮かぶ。
吸収したエネルギーが暴れ回り、ガントレットの中で渦を巻いている。
(50,000……60,000……よし! 電圧はクリアだ! 次は電流だ! 10,000まで持っていけ!)
「うおおおおおっ!」
ディートが咆哮する。
足元の床が、漏れ出した余剰エネルギーで焦げ付いていく。
(よし! 今だ! その穴に全弾ぶち込め!)
アイディの号令。
ディートはルミルを優しく振りほどくと、輝く左拳を装置の接続口に叩き込んだ。
「目覚めな、デカブツ!! 『放出:『最終段階』ッ!!」
ドォォォォォンッ!!
衝撃音と共に、圧縮された雷撃が古代の装置へと奔流となって流れ込む。
一瞬、空間が白く染まった。
……そして。
ブゥン……。
腹の底に響くような、重低音が鳴り響いた。
UPSの表面にあった小さな光が、赤から緑へと変わる。
ヒュン、ヒュン、ヒュン……。
連鎖するように、並び立つ黒い塔たちに光が灯っていく。
壁のラインが走り、天井の照明が明滅を繰り返した後、安定した光を放ち始めた。
「……こ、こりゃあ……」
誰かが呟いた。
暗闇に沈んでいた墓場が、光の宮殿へと姿を変えていく。
無数の光が点滅し、空中に見たこともない文字や図形が浮かび上がる。
それは、神具の力しか知らない僕たちが初めて目にする、失われた文明の輝き。
(システム、再起動を確認。……ようこそ、管理者様)
直後、ヘルプによく似た女性の声が、蘇った遺跡に響き渡ったのだった。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!
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