第52話 鉄の守護者と疾風の少女
ガキンッ!
バルガスの大盾が、小型の鉄人形が振り下ろした鋭い爪を受け止める。
「ふんッ!」
バルガスは盾で弾き返すと同時に、右手のハンマーを横薙ぎに振るった。
ドガァッ! と鈍い音が響き、鉄人形がたたらを踏む。だが、倒れない。
表面が僅かにへこんだ程度だ。
「硬いな……! 数は多いが、個々の動きは単調だ! 囲まれるなよ!」
バルガスの指示が飛ぶ。
僕もセルフィナからもらったミスリルの剣を抜き、襲い来る鉄人形を迎え撃つ。
「<オフェンシブ・プログラム>、<急所狙い>!」
体が勝手に動き、最短距離で敵の首筋へと刃を走らせる。
ガギッ!
硬い手応えと共に剣が弾かれた。
「くっ……効かない!?」
首を斬っても、心臓の位置を突いても、敵は止まらない。
やはり、こいつらは生き物じゃない。生物用の急所攻撃プログラムじゃ意味がないんだ。
すぐ隣では、ディートたちも交戦に入っていた。
「っと、危ねえな!」
ディートが左手のガントレットを掲げ、鉄人形が振り下ろした鋼鉄の腕を真っ向から受け止める。
普通なら腕ごと粉砕されそうな衝撃。だが――
「『吸収』!」
ガントレットの掌にある排気口が開き、衝撃を瞬時に飲み込む。
それと同時に、全体がほんの少し輝きを増した。
「お返しだ! 『放出:1』!」
直後、掌から吸収した打撃のエネルギーが、爆発的な運動エネルギーとなって叩き返される。
ドォン!
鉄人形は弾き飛ばされ、壁に激突。だが――
『ギギ、ガガ……。任務、継続シマス』
何事もなかったかのように、きしむ音を立てて起き上がった。
「おいおい、冗談だろ? 今の直撃だぜ?」
ディートが顔をしかめる。
物理的な破壊力では、あの装甲を貫けないのか……?
「お兄! こっちもダメ! 『幽霊の略奪』じゃ掴めない!」
リゼは鉄人形に半透明の帯を絡めようとしていたようだったが、どういうわけか、すり抜けるだけで何も掴むことができていない様子だ。
「リゼ、どうしたってんだ!」
「私にも分かんないよ! だってあんなの見たことないもん!」
明らかに浮き足立つ僕たちに対して、敵は一切の油断も躊躇もしない。
冷徹に、的確に、『侵入者を排除する』という目的のためには一切の例外も許さないだろう。
そう。まるで、僕のプログラムのように。
「あっぶなッ!」
上空の死角から降ってきた鉄人形のカカト落としを、リゼは間一髪でかわす。
伸ばした『幽霊の略奪』で掴んだ床を自分に引き寄せるのではなく、掴んだ先に自分を飛ばしたのだ。
「坊主! チャンスだ!」
「食らえッ!」
奇襲が不発に終わり、無防備となっていた鉄人形の背中をミスリルの剣が突き刺した。
ズドッ!
「通った!」
剣の先が何かを貫いた感触が手の平に伝わってくる。
それと同時に、ガシャン、というやけに乾いた音がした。
『ギ、ギ、ギ、戦闘、不能……救援、ヲ、ヨウセイ……』
僕の渾身の一撃を受けた鉄人形はその場へ崩れ落ち――
やっと、動かなくなった。
「みんな! 背中なら攻撃が通りやすいみたいだ!」
「そうしたいのはヤマヤマだけどねっ!」
「こいつら、速い!」
どうやっても倒せないわけではない、ということは分かった。
けど、あんな致命的な隙はそうそう晒してくれるわけもなく、じりじりと押し込まれる状況には変わらない。
それどころか――
「おいおい、マジかよ!」
壁に穴が開いた、と思ったらそこから鉄人形がゾロゾロと出てきたのだ。
一体倒すのだけでもあれだけ苦労したのに……!
「くっ、キリがない」
バルガスの声に焦りが混じる。
彼は盾で攻撃を受け止めているが、衝撃までは殺しきれていない。老いた体に疲労が蓄積していくのが見て取れる。
一瞬、バルガスの足がもつれた。
「しまっ――」
その隙を突き、鉄人形がバルガスの懐へ飛び込む。
「危ないッ!」
さらに別の一体が、カバーに入ろうとした僕の死角から襲いかかってきた。
「ヒーロー君!」
――バチチチッ!
その瞬間、僕のリュックから青白い光が飛び出した。
「きゅーっ!」
飛びかかってきた鉄人形に向けて、ルミルが精一杯の威嚇射撃――電撃を放つ。
バヂッ!
その威力は決して高いものではなかったと思う。
「ガ、ガガ……」
だけど、電撃を浴びた鉄人形の動きはピタリと止まった。
さらに、不気味な痙攣が始まったかと思ったら、カシャ、という音と共に――
胸当てのような胸部の金属板がポロリと外れ落ちたのだ。
装甲の下から、紫色の光を放つ球体が露出する。
(マスター! アレが動力源です! あそこに攻撃を!)
ヘルプの声が響く。
僕は迷わず剣を突き出した。
ガシャンッ!
ガラスが割れるような音と共に球体が砕け散る。
その瞬間、鉄人形は糸が切れたように崩れ落ちた。
「……そうか、あれが弱点か!」
さっき背中から貫いたときはたまたまアレを壊せていたのだろう。
(そうです! あの球体は全ての源です! 場所さえ分かればリゼさんの神具で干渉できるですよ!)
ヘルプの分析を聞き、僕は叫んだ。
「リゼさん! こいつらの動力源は『胸の中央』にある『紫色の玉』です! そこを狙ってください!」
「おっけー、あそこねっ!」
弱点の位置と形状を聞いたことで、リゼの認識が確定する。
彼女は右手のガントレットを向けた。
「『幽霊の略奪』!」
射出された半透明の布が、鉄人形の胸に吸い込まれる。
「強制徴収ッ!」
リゼが腕を引くと、胸当てをすり抜けて紫色の球体だけが引きずり出された。
動力源を失った鉄人形は即座に活動を停止し、勢いのまま壁に激突していく。
「それっ、ほい、はいよっ!」
勢いに乗るリゼの出す帯は既に10本以上になっていた。
それらが次々に紫色の球を引きずり出していく。
「へえ、やるじゃねえか」
ディートが感心したように口笛を吹く。
このまま小型の鉄人形を一掃すれば、あとは奥に鎮座したまま何も攻撃してこない大型だけだ。
――勝った。
そう確信した、その時だった。
『戦力低下ヲ確認。脅威度判定、上昇。……判定、EX』
広場の中央に鎮座していた『巨大な卵』のような鉄塊から、低い唸り声のような音が響いた。
『殲滅モード、起動シマス』
ガガガガガガッ!
卵の表面が割れ、装甲がスライドしていく。
台座から太い鋼鉄の脚が生え、側面からは巨大な腕が展開される。
黄色と黒の縞模様が不気味に蠢き、それは『巨大な卵』から『歩く要塞』へと変貌した。
「……おいおい、なんか生まれちまったぜ?」
ディートが顔を引きつらせる。
変形した大物の胸部装甲が展開し、中から黒光りする筒と、赤熱する太い管が現れた。
あれが何かは分からない。
でも、『危険』だということだけは確実だ。
「散れッ!」
バルガスの叫びと同時に、圧倒的な火力が解き放たれる。
ドォォォォォンッ!
爆音と閃光が広場を埋め尽くす。
バルガスが大盾を構えるが、衝撃でジリジリと後退させられていく。
ディートも吸収で手一杯で、反撃どころじゃないようだ。
二人が耐えている脇からリゼが『幽霊の略奪』を、ルミルが電撃を放つ。
「あ、あれは!」
が、大型機の表面に張られた見えない壁に弾かれ、届かない。
あれはまるで、僕の『無効化バリア』じゃないか――!
(マスター! あの障壁がある限り、電撃も透過能力も通じません!)
「僕のバリアと同じような性能なら対象外の攻撃は防げないんじゃ!?」
(ダメだ、ありゃあ戦うためだけに作られた戦闘マシーンだぞ! 対象なんて何万、何億と記録されてるに決まってらあ!)
(いえ、その分『近接』か『遠隔』のどちらかにのみ対応しているケースが多いです!)
(そうか! なら近づいてドカーン! だな!)
「む、無理だよ! あんなのに近づけるわけない!」
プログラムで『速く』動くことは可能だけど、それはあくまでも直線の動き。
あの大物が放つ光線や火矢が相手では的になるだけだろう。
方法が分かったところでそれを実践できる人材がいないのでは意味がない。
ここ都合良く、あの弾幕の中を掻い潜れる人間なんて、いるわけが――
「――『風妖精の突撃』!」
手詰まりか、と思ったその時。
緑色を纏った疾風が、爆風を切り裂いて戦場に飛び込んできた。
「み、ミア!?」
「へへっ、来ちゃったぜ!」
メイド服を着た少女は直線と曲線を交えながら弾幕のわずかな隙間を縫い、あっというまに大物に肉薄していく。
「ど、どうしてここに!?」
「ああん? 決まってんだろ!」
そして至近距離まで近づいたところで、今度は大物の周囲を跳ね回るように動き始めた。
「コソコソとお宝探しなんて面白そうなことしやがって!」
ミアは床、壁、時には敵の体自体を巧みに使って動き回る。
その速度は徐々に上がっているようにさえ見えた。
「アタシを仲間外れにするなんてズルいんだよ!」
それに加え、双剣で管や関節、継ぎ目のような部分を的確に攻撃し、ダメージを蓄積していく。
「お嬢様には『ロイがなんか危ないことしてるから連れ戻してきます!』って言ってきたんだ! 手ぶらじゃ帰れねえぞ!」
「それでよく許したね!?」
呆れる僕を他所に、ミアの動きはキレを増す一方。
翻弄された大型がたまらず放った攻撃はかすりもせず、それどころか自分の救援に来た鉄人形を巻き込んで粉砕してしまっていた。
「すごい……! すごいよ、ミア!」
「はんっ、図体がデカいだけで、トロいんだよ!」
ミアが得意げに笑い、そして大型の背後へ回り込んだ。
首筋にある関節の隙間を狙い、双剣を突き立てようと振りかぶる。
だが、その瞬間――
大型の背部に穴が開き、何かが射出された。
それは、蛇のようにしなる細長い鋼鉄の鞭のようなもの。
今までの直線的な攻撃とは異なる変幻自在の罠が、ミアの足を捕らえた。
「しまっ――!?」
ミアの体が宙に吊り上げられ、逆さづりにされる。
「おわっ、ロイ、こっち見んな!」
『捕獲完了。排除シマス』
「ミアッ!」
僕が叫ぶのと同時に、大型機の単眼が赤く激しく明滅した。
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