第50話 『嘘つき』の真実
「実はね。この王都の地下には巨大な遺跡が眠っているらしいんだ」
……そこまで聞いて、なんとなーく察してしまった。
「アレですよね、壁が光ってる謎のダンジョンに鉄のゴーレムがいてってやつ」
「……な、なぜそれを!?」
ディートが目を丸くする。
「いや、今日たまたま教えてもらったもので。ギルドで」
「な、なんてこった。で、でもまだデタラメと決まったわけじゃ……」
「……ふん、ゲオルグの奴め、まだ言いふらしておったのか」
突然、背後から低い声がした。
庭の手入れをしていたバルガスが、窓際で腕を組んで立っていた。
「バルガスさん」
「坊主、聞いたのだろう?『嘘つき・バルガス』の話を」
「ぶ、ぶらふ……」
「そのうわさ話の元になったのはワシだ」
バルガスは自嘲気味に笑った。
「大方、暗闇の恐怖で幻覚でも見ていたのだろう。壁がひとりでに光るなど、あり得るはずがないからな」
「げ、幻覚……それじゃ、地下の遺跡に眠るお宝ってのは……」
「ふん、次からは甘い儲け話には気をつけるんだな」
崩れ落ちるディート。
それ見たことか、と冷ややかな視線を向けるリゼ。
バルガスは踵を返して立ち去ろうとする。
「待ってください」
僕はバルガスを引き止めた。
「なんだ、小僧。嘘つきと呼びたいなら好きにして構わんぞ」
「いいえ。その話、僕には嘘とか夢には聞こえないんです」
「なに?」
「ねえ、ヘルプ、アイディ。この話ってどう思う?」
僕は腰のケースからタブレットを取り出した。
何の確信もないけど、何か引っ掛かるのだ。
(そうですね……この座標から見て、可能性はゼロではないかと思うです)
ヘルプが画面の中から答える。
(ああ、俺様も同感だぜ。なあ、ゴツイおっさん、そのダンジョンについてもう少し詳しく話してくれよ)
「な、なんだこの……使い魔、か? それにしては……」
バルガスが目を白黒させている。
(あーもうそういうの良いから、ほれ、話してみ)
アイディに急かされ、バルガスはポツリポツリと当時の状況を語った。
壁の質感、継ぎ目のない床、ゴーレムの形状、光線の色。
(……鉄のゴーレムというのは恐らく『警備ロボット』だと思うです)
(床とか天井が光ってるのは非常電源がまだ生きてるって事だろうな)
「しかし、あれからどのくらい経ったと……にわかには信じられませんですよ」
「あのー。それで、どうなの」
(ああ。ゴツイおっさんの言ってることはたぶん嘘じゃねーぞ)
(恐らく、何かの弾みでロックされた扉を開けてしまったですね)
「そ、それじゃ!」
(ただ、お宝があるかはわかんねーぞ。とっくの昔に朽ちてる可能性の方が高いんだからよ)
「それで十分だよ、アイディ」
僕はディートに向き直った。
「なあ。それで一体、どうなるんだい?」
「行ってみる価値はあるって事だよ、アゴのニイちゃん」
「本当かい!? ほらリゼ、聞いたろ!」
ディートがガバッと跳ね起きた。
「やったねお兄! これで貧乏生活とおさらばだ!」
「い、いえ、お宝と言っても金品であるとは……」
ヘルプの忠告は耳に入っていない様子。
なんかダンスとか踊り始めたし。
あまりの騒がしさに、もしこの話に誰かがこっそり聞き耳を立てていたとしても気づけないだろうと思う。
まあ、そんな人がいるとは思えないけど。
*
――翌日。
遺跡探検の準備を終えた僕たちは、バルガスの案内で王都の地下に張り巡らされた下水道を進んでいた。
バルガスさんの話によると、これは王都ができる以前から存在していたそうだ。
王都の下に下水道がある、というより下水道の上に王都を作り上げた、と言う方が正しいらしい。
たしかに、壁一つとっても何の継ぎ目も凹凸もない、みたことのないような作りだった。
「……ここだ」
数時間ほど歩いた先。行き止まりの壁の前で、バルガスさんが足を止めた。
今まで見てきたのと同じ、何の変哲もない、灰色の壁だった。
扉や鍵穴のようなものは見当たらない。
「ふうん。で、次はどうするんです?」
ディートさんが壁をペタペタと触る。
「しらん。それが分かればブラフなどと呼ばれておらん」
「えーっ、ここまで来てそんなのってないですよおー」
「ヘルプ」
僕はタブレットを構えた。
(はい、それでは、カメラを起動してくださいです)
「うん」
(『潜伏探索』モードに切り替えてくださいです)
画面をタップすると、カメラ越しの景色が緑一色に変わった。
(カメラのレンズをあの壁に向けてくださいです)
「あっ、なんか赤い四角が。中に何か数字書いてある」
肉眼では見えないが、画面の中には壁の一部が赤く光り、番号が振られていた。
(はい、では壁の赤くなった辺りを数字の順に押し込んでくださいです)
「わかった。……1、2、3、4……」
指示されたとおり、順番通りに壁の四角を押していくと……
――ガコン、シュイーン。
重厚な音と共に壁が下方向に下がり、新たな通路が現れた。
その奥からは、松明とは違う、青白い光が漏れ出している。
「こ、これだ……! ワシがあの時みたものは!」
バルガスさんが震える声で言った。
長年、幻覚だと言い聞かせてきた光景が、今、目の前にある。
(まあ、真っ暗な中で壁を触りまくったときにたまたま開いちまったんだろうなあ)
「バルガスさん、案内ありがとうございました」
僕はバルガスさんに向き直った。
「この先は危険です。バルガスさんは屋敷にお戻りください」
「……いや、断る」
バルガスさんは短く告げると、背中に背負っていた荷物を下ろした。
中から出てきたのは、使い込まれた大盾と、武骨なハンマーだった。
「えっ? バルガスさん、それは……」
「ワシの目が曇っていなかったことを、この目で最後まで確かめたい。それに……」
バルガスさんは武器を構え、ニヤリと笑った。その顔は、頑固な管理人ではなく、現役の冒険者の顔だった。
「こんな若造どもだけで行かせて死なせたら、元冒険者の名折れだ。引退した身だが、盾くらいにはなれるだろう」
「……バルガスさん」
「へえ、『元』、は取った方がいいんじゃないかい?」
ディートが嬉しそうに口笛を吹く。
「危ないと思ったら全部この男に押しつけて良いですからねー」
リゼが口元を少し緩ませ、ディートを指差す。
「ふん。若造どもに心配されるほど、焼きが回ってはいないわ」
バルガスさんは鼻を鳴らすと、重いはずの大盾を軽々と構え、先頭に立った。
「よし、行こう!」
僕たちは頷き合い、4人で光の中へと足を踏み入れた。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!
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