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第4話 害敵排除プログラム

「ちょっと、こいつにチクられたらウチらやばいって」


「メンバーを見捨てたのがバレたら、資格はく奪って聞くぜ」


「ああ、分かってるさ。だが、幸いにもここには誰もいねえ」


「なーる。死人に口なし、ってワケね」


 三年の間、僕の尊厳そんげんを削り続けた声。

 胸の奥が、嫌な熱で満たされていく。


 僕は鉄棒を回す手を止めた。

 そして、ゆっくり振り返る。


 そこにいたのは三人。

 僕を見捨てた元パーティーメンバーだ。


 悪びれもしていない。

 それどころか、今度は僕を消す相談をしている。


 確かに、僕にも非はあったのかもしれない。

 でも、姿を見た瞬間にいた感情は抑えられなかった。


 敵意。

 いや、もっと濃い何かだ。


(なんだ。あの頭の弱そうなガキどもは)


(マスターのお知合いですの? 聞き間違いでなければ、マスターを亡き者にしようとしているみたいですが?)


「うん。僕をあのモンスターの餌にしようとしてた、『元』パーティーメンバーだよ」


(ほーん。で、どうすんだあ?)


「ちょっと痛い目に遭ってもらおうかなって」


(まあ! 勇ましいマスターも素敵ですわ!)


 僕はタブレットを構えた。

 さっき聞いた説明を思い出す。


 命令を書き換える。

 今ある材料だけで、組み立てていく。


『モード:<オフェンシブプログラム>』

『プログラム名:急所狙い』

『命令:<分岐>』

『分岐1:<敵対者>の<性別>が<男の場合>』

『真のとき:<顔面>を<殴る>』

『偽のとき:<分岐2へ>』

『分岐2:<敵対者>の<性別>が<女の場合>』

『真のとき:<腹部>を<殴る>』

『偽のとき:<なにもしない>』


 思ったより『対象』が少なくはあったものの、ひとまずはこれで十分だろう。


 近くの敵を判定する。

 男なら顔面パンチ。女ならボディー。

 シンプルで、分かりやすい。


「これで、よし」


 ヘクターが鼻で笑う。


「おい『不明』。そんなガラクタ持って何してやがる」


 トイーアも続けた。


「はは。きっと恐怖でいかれちまっ――」


 最後まで聞く必要はなかった。

 僕は指を動かしていた。


 実行。

 叩いた瞬間、体が勝手に走り出す。


 標的は、棒立ちの弓使い。

 距離が一気に縮まった。


挿絵(By みてみん)


「――ぐべぇっ!」


 どごぉっ、と音が鳴る。

 拳に、人を殴った感触が伝わった。


 トイーアは大股開きでごろごろと転がっていくと、最後は街の外壁に激突した。

 一撃で意識を失ったようで、白目をむき、泡を吹いている。


「こ、このキモ野郎っ! 『世界に漂う火の精霊よ!――』」


 スレイアが詠唱を始めた。

 でも、この距離で詠唱は無茶だ。


 僕の体が勝手に動く。

 次の瞬間、柔らかい手応えが拳に返る。


「我が言葉に――ごぶあっ!」


 腹を殴られたスレイアは膝から崩れた。

 そのまま前のめりに倒れ込む。

 せっかく顔は避けてあげたのに、みずから顔面から落ちるとは。

 地べたに顔をこすりつけ、尻だけを上げたその格好は、ヘクターの恋人に相応しいポーズだろう。


「トイーア! スレイア!」


 ヘクターが二人の名を呼んだ。

 外道のくせに、仲間意識はあるらしい。


 だったら――

 僕にも少しでいいから向けてほしかった。


「――それを、ほんの少しでも僕に向けてほしかったよ」


「てめっ――!」


 僕は冷えた声のまま、指を叩いた。

 実行。もう一度。


 直後、ぼぐぁっ、と気味の悪い音。

 カウンター気味に入ったらしい。


 ヘクターが吹っ飛んだ。

 綺麗きれいな放物線で、遠くへ飛ぶ。


 これはさすがにやりすぎたかもしれない。

 張本人の僕ですら、少し引いてしまった。


 でも、あっちは殺す気で来ていた。

 それなら、これも自業自得じごうじとくだろう。


(おおっ! やるじゃねーか、お前!)


(マスター! 理想的な『プログラミング』ですわ!)


 こうして三人は、あっさり返り討ちになった。

 正直、人を殴るのは良い気分じゃない。


 それでも。

 前に進むきっかけにはなったと思う。


 ただ――


「――これって、僕の本当の力じゃないんだよね」


 僕は指を三回動かしただけ。

 勝ったのはタブレットとアイディの力と言うべきで――

 自分の力で勝ち取った、とは言えない気がした。


(は? 何言ってんだオメー。あのパンチ力は、お前の本来の力だぞ?)


(この悪魔に同意するのは不本意ですが、その通りですわ、マスター)


 ヘルプが真面目な声になる。


(マスターがどう鍛えたかは分かりませんが、下半身、背筋、握力。どれも一級品ですです)


「そうなんだ……僕が、そんな力を……」


 下半身。背筋。握力。

 荷物持ちの三年で、体だけは鍛えられていたのか。


 つまり、こういうことだ。


 『とっくに体は出来ていた』


 ――なのに僕は、試そうとしなかった。

 あの三人から離れようともしなかった。

 無為むいな時間を、ただ過ごした。


 ……僕は、何をやってたんだろう。


 そんなことを思いながら、手の平を見る。

 掴めたものはごくわずか。

 その代わりにこぼれ落ちたものが多すぎる。


(で。ムカつく奴らは全員ぶっ飛ばしたわけだが)


(これからマスターはどうされるのです?)


 俯いたままの僕に、二人が声を掛ける。

 顔を上げると、二つの目が揃ってこちらを見ていた。


 三白眼の小悪魔。

 きらきらした碧眼の天使。


 これからどうするか。

 確かに、具体的には考えてなかった。


 でも、どうしたいかなら分かる。

 ずっと燻っていた、あの気持ちだ。


「――実はさ。僕には幼馴染おさななじみの女の子がいるんだ」


(……ほー。可愛いのかあ?)


「うん。とっても」


 僕は少し笑ってしまう。


「彼女はいつも元気で、頼りない僕の手を引っ張ってくれて」


 脳裏に浮かぶのは、アミリーの顔。

 楽しい時、嬉しい時、怒った時、困った時。

 ……そして、あの時の悲しそうな顔。


(まあ! もしかして、その方はマスターの恋人なのです!?)


「はは。まさか」


 笑ったけど、胸は痛む。


「だって彼女は……僕が手を伸ばしても届かない、遠い存在になったんだ」


(何だよ、それ)


 3年は重い。

 15から18になる3年は、特に。


 神授の儀で道が分かれた。

 そして、それぞれが自分を作っていく。


 この町に来て少し経った頃だ。

 風の噂を聞いた。


 彼女は『獅子の誇り』に加入した。

 この国最強の冒険者パーティーだ。


 最高の環境にいる銀髪の少女。

 きっと、もう別人みたいになっている。


「だからさ。もう諦めてたんだ。忘れたと思い込んでたんだ」


 でも、と僕は続ける。


「タブレットとアイディとヘルプに出会ったせいで、全然そんなことなかったって分かった。やっと気づいたよ」


(じゃあ、次にやることなんて決まってんじゃねえか!)


「うん」


 僕は息を吸った。

 そして、はっきり言う。


「過去を振り返ってウジウジするのは、もうおしまいだ」


 言葉が熱を帯びる。


「僕は夢をかなえるために、前へ進む。ただ前へ、真っ直ぐ前へ」


 拳を握る。


「もし立ち塞がるやつがいたら……全員ぶん殴ってでも進むよ」


 アイディが、にやりと笑った。


(けっ! れた女を取り返すだなんて、燃えること言ってくれるじゃねーかよ!)


 小悪魔姿の『友達』は、さらに威勢良く言葉を続けた。


(こりゃ久々の娑婆しゃばは楽しいことになりそうだぞ、ヘルプ!)


(そうですわね。わたくしたちも、しっかりサポートしないとですわよ!)


「ありがとう。二人とも。これからもよろしくね」


 僕は二人と握手をした。

 そのまま、心の中で誓う。


 一つ。

 今度こそ、アミリーを諦めない。


 もう一つ。

 世界中を巡り、人々を苦しめるモンスターを倒す。


 そして――世界一の冒険者になる。

 そう呼ばれるところまで行く。


 今日は、僕が生まれ変わった日だ。

 第二の誕生日。


 だから、赤ちゃんらしく。

 出来ることから、確実にやっていこう。

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「急所狙い」の分岐1は、 真のとき:   <股間>を<蹴る>   <自分の足>を<洗浄> で良いのでは!?彼が今までにされて来た事を思えば…
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