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第38話 従者たちの決意

 翌朝。

 僕は目覚まし用の神具アイテムよりも確実で、そして刺激的な方法で目を覚ますことになった。


「――あだっ!?」


 頬に走った鋭い痛みに飛び起きる。

 パチパチという音とげ臭い匂い。

 目を開けると、枕元にはつぶらな瞳で見下ろしてくる水色の生き物がいた。


「きゅう!」


「……おはよう。もう朝か」


 挨拶代わりの電撃で起こしてくれたのは、昨日連れ帰ったサンダーリザードの赤ちゃんだ。

 僕が起き上がると、嬉しそうに尻尾を振ってひざの上によじ登ってくる。


「お腹空いたのか? ちょっと待ってな」


 リュックから干し肉を取り出し、小さくちぎって差し出す。

 赤ちゃんリザードはそれをパクリと加え、小さな牙で一生懸命に咀嚼そしゃくし始めた。


(ふわぁ……。朝っぱらから騒がしいことで)


 テーブルの上に置いたタブレットから、寝起きの悪そうなアイディの声がする。


「おはよう、アイディ。今日もいい天気だよ」


(けっ。俺様には関係ねえよ。それより充電チャージが足りてねえぞ)


「昨日は遅かったからねー。馬車に乗ったら隙を見てクルクルするからもうちょっと待ってて」


(忘れんなよー。アプリもそこそこエネルギー食うんだからな)


「うん。分かってる」


 簡単な朝食を済ませ、身支度を整える。

 このボロ小屋とも、今日でお別れだ。

 3年間、雨風をしのいでくれた感謝を込めて、軽く掃除をしておく。


 荷物はリュック一つ。

 あとは、この小さな同居人をどうやって運ぶかだけど……。


「きゅ!」


 悩んでいると、ソイツは自らリュックのサイドポケットに頭から入っていった。

 どうやらそこが気に入ったらしい。

 顔だけひょっこりと出し、準備万端といった様子だ。


「よし。じゃあ行こうか」


 そう言ってドアノブに手を掛けた、その時だった。


 コンコン、と控えめなノックの音が響いた。


「ん? ドミニムさんかな? 忘れ物でも――」


 扉を開ける。

 そこに立っていたのは、予想外の二人組だった。


「おはようございます、ロイド様」

「……おはよ」


 丁寧にお辞儀をするカーラと、少し気まずそうに視線をらすミアだった。

 二人ともいつものメイド服ではない。

 動きやすそうな、けれど仕立ての良さが分かる上質な旅装りょそうに身を包んでいる。


「カーラに、ミア?」


「ふふ、ようやく名前を覚えて頂けたのですね」


「あ、はい。まあ」


 そりゃさすがにこの短期間でこれだけ会えば……って、いや、そうじゃなくて。


「どうしたの、こんな朝早くに」


「お迎えに上がりました。出発のお時間も迫っておりますので」


 カーラは微笑みながら、手に持っていた革製のかばんを差し出してきた。


「うわ、もうそんな時間か」


 と言った瞬間に、教会の一つ鐘が鳴り響いた。

 「ね?」といった感じに笑顔のままのカーラが首を傾ける。


「それと、こちらをお持ちしました。お嬢様より、旅の支度金と追加の装備品です」


「えっ、装備品?」


 受け取ると、中には予備の衣服や食料、そして見慣れない革製の……長方形の何かが入っていた。


「これは……?」


「ロイド様の神具アイテム、『漆黒の板』専用のケースです。職人に急ぎで作らせました」


「ええっ! 専用ケース!?」


 手に取ってみる。

 滑らかな手触りの革で、内側には衝撃吸収用の布が張られている。

 ベルト通しも付いていて、腰に装着できるようになっていた。


(おおっ! いいじゃねえか! いつまでも服の下でこすれるのは御免だったんだ!)


(まあ、素敵なお家です! これなら外の景色も見やすくなりますね!)


 タブレットの中の二人も大喜びだ。

 確かに、これならすぐに取り出せるし、落とす心配もない。


「ありがとうございます。すごく助かります」


「喜んでいただけて何よりです。……それにしても」


 カーラは少し困ったように眉を下げた。


昨夜ゆうべはお屋敷にお泊まりいただくよう、お部屋も用意しておりましたのに」


「あ、あはは……すみません」


 僕は頭をく。


「ちょっと、片付けが長引いちゃって。それに、やっぱり住み慣れた家の方が落ち着くかなって」


 サンダーリザードの卵を返しに行っていた、とは言えない。

 適当な理由で誤魔化ごまかすと、カーラは「左様でございますか」と納得してくれたようだ。


 その時、リュックのポケットがもぞもぞと動いた。


「きゅ?」


 ひょっこりと、水色の顔が現れる。


「ひっ!?」


 ミアが短く悲鳴を上げ、カーラの後ろに隠れた。


「な、ななな、何だよそれ! 魔物!?」


「あ、ごめん。驚かせちゃったね」


 僕はリザードの頭をでて落ち着かせる。


「昨日、ちょっと拾ったんだ。サンダーリザードの子供だよ」


「サ、サンダーリザードぉ!? あんた、正気!?」


 ミアが目を丸くする。

 まあ、普通はそうなるよね。


「親とはぐれちゃっててさ。放っておけなくて」


「きゅう!」


 リザードがミアに向かって、愛想あいそ良く鳴いた。

 パチッと小さな火花が散る。


「……!」


 ミアはおっかなびっくり顔をのぞかせ、


「……べ、別に、可愛くなんかねえし」


 と言いつつも、その視線は釘付けだった。

 どうやら動物は嫌いじゃないらしい。


 場の空気が少し和んだところで、ミアが意を決したように前に出た。

 もじもじと指を組んでいる。


「あー……その……」


「うん?」


「昨日は……悪かった」


 ボソッと、蚊の鳴くような声。

 でも、はっきりと聞こえた。


「アンタのせいじゃないって、分かってたんだ。お嬢様にも叱られたし、カー姉にも説教されたし……」


 ミアは唇を噛み、顔を上げる。

 その瞳は、真っ直ぐに僕を見ていた。


「ミナ姉を守ってくれて、ありがとな。……あと、八つ当たりして、ごめん」


 深々と頭を下げるミア。

 あの勝ち気な少女が、ここまで素直に謝るとは思わなかった。

 それだけ、ミネルバのことが大切で、心配で、どうしようもなかったんだろう。


「ううん。気にしてないよ」


 僕は笑って答える。


「僕だって、もっと上手くやれてればって後悔してる。だから、謝らなくていいよ」


「……お人好しだなあ、コイツ」


 ミアは顔を上げ、照れ隠しのように鼻を鳴らした。


「でも、借りは返すからな。絶対に」


「うん。期待してるよ」


 これで、わだかまりは消えた。

 晴れやかな気持ちで、僕はリュックを背負い直す。


「よし。じゃあ、荷物も受け取ったし、行こうか。セルフィナ様をお待たせしちゃ悪いし」


 僕が歩き出そうとすると、二人は動かなかった。

 むしろ、当然のように僕の左右に並ぶ。


「えっ?」


「はい、参りましょうか」


 カーラが微笑む。

 ミアも、腰の短剣の位置を直しながら頷く。


「……えーと、二人とも?」


「はい?」


「見送り、だよね? 荷物を届けに来てくれたんじゃ」


 僕の問いに、カーラはきょとんとして、それからクスリと笑った。


「いいえ、ロイド様。私たちも同行いたします」


「えええっ!?」


 思わず大声を上げてしまった。

 二人も一緒に王都へ?


「だって、私たちエドール家のメイドですもの。お嬢様の旅にお供するのは当然ですわ」


「そ、そうだけど……屋敷の方は大丈夫なんですか?」


「お屋敷は旦那様と他の使用人に任せてあります。それに……」


 カーラは少し声を潜めた。


「今のあのお屋敷は、少し息が詰まりますので。お嬢様がいない屋敷を守るより、お嬢様をお守りする方が、私たちの性に合っております」


「アタシは護衛役だ!」


 ミアが胸を張る。


「ミナ姉の代わりにはなれねえかもしれねえけど、戦えるメイドとしてお嬢様とアンタの背中は守ってやるよ!」


「それに、ロイド様の身の回りのお世話係も必要でしょう?」


 カーラがウィンクする。


「『型固定の櫛(モールド・ホールド)』の便利さも、もうお分かりいただけたかと思いますし」


「あ、ああ……確かに」


 あの櫛で整えてもらった髪は、昨日の激戦でも全く崩れなかった。

 旅の間、髪や身だしなみを整えてもらえるのは地味にありがたい。

 それに、ミアの戦闘力も未知数だけど、あのミネルバを姉と慕うくらいだ、きっと頼りになるはず。


「分かりました。二人とも、よろしくお願いします」


「はい、お任せください!」

「おう、任せな!」


 強力な仲間が増えた。

 一人(と一匹)で心細かった旅路が、一気に賑やかになりそうだ。


「きゅう!」


 リザードも歓迎するように鳴いた。


 僕は小屋の扉を閉めた。

 ガチャリ、という音が、この生活の終わりを告げる。


 振り返ると、朝日の中にカーラとミア、そしてその先には僕たちを待つ馬車が見えた。


「さあ、行きましょう。ロイド様」


「うん!」


 僕は新しい仲間たちと共に、未来へと続く道を歩き出した。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!

本作を少しでも面白い・続きが読みたいと思って頂けましたら、下の☆☆☆☆☆をタップ、ブックマークへの追加をして頂けますとモチベーションが10倍になります!

あと、作者にもこの作品の何が良くて何がダメなのかよく分かってません!できれば感想を頂けますと本当に助かります。

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