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第33話 神具強奪

 セルフィナの話は、衝撃的なものだった。


 僕がヘクターと戦うために戦線を離脱していた頃。

 町の南側、つまり、貴族たちが避難しようとしていた退路でも――

 事件は起きていたらしい。


「ライゼル様やその御父上のテンパレス伯爵、王国補佐官たちは、南の街道から王都へ逃れようとしていました」


 確かに、最後の方にそんなことを言っていたような気がする。


「私は、父に出陣の許可を求めました。町の危機に力を振るわずして何がSSか、と」


「でも――」


「ええ、その願いは聞き届けられることはありませんでした」


 今更考えても仕方のないことだけど、もしセルフィナが来てくれていたらずっと楽になっていたんだろうなあ。


「それどころか、最終的な父の命は『彼らの後を追い、護衛に加わるよう』といったものでしたわ」


 場に出せない切り札など、見せ札として使えば良い、ということだろうか。

 まあでも、貴族というのはそういうものなのかもしれない。

 彼女の場合、神具アイテムのせいでさらにややこしい事態になっているわけだし。


「しかし、王国補佐官のご一行はそのときには既に『灰色の男』と接触していたのです」


「灰色の男……」


 間違いない。エディミルだ。

 あいつは僕をそそのかしてヘクターの元へ送った後、すぐに南へ移動したのだろう。

 例の、瞬間移動で。


「その男は、たった一人で戦闘用の神具アイテムを持つ多勢に囲まれた場を制圧したそうですわ」


「全滅した、ってことですか?」


「いいえ。数名ではありますが、何とか生き延びた者もおりましたわ」


「何か、話は聞けたのでしょうか」


「ええ、もちろんですわ。彼らの話をまとめると――」


 ******


「おい、早くしないか!」


「は、しかしながら」


「言い訳は良い! 一刻も早くこの地から脱出するのだ!」


 神経質そうな中年男性は手綱を持つ御者ぎょしゃに無茶な指示を繰り返していた。


「こんな田舎にまできてみればこのザマだ……あの田舎貴族め、領地没収では飽き足らんぞ」


「閣下。これは災難でしたな」


「全くです、テンパレスきょう


 同じ馬車に乗り合わせた恰幅かっぷくの良い壮年の男性がすり寄るような笑顔で近づいていく。


「あのような家と縁を持とうとは、正直感心しませんな」


「ご安心を。今回の一件で婚約は破棄することに決まりましたゆえ」


「おお、それは素晴らしい! あのような気色の悪い娘はライゼル殿には不釣り合いと思っておったのだよ!」


「……そこで一つ相談がありましてなあ」


「何だろうか。これ以上、税逃れをもみ消すのは――」


「――いえ、今回はそちらでは!」


「では、何だというのかね」


「ライゼル、こっちに来なさい」


「はい、父上」


「今回の旅路にはご息女もご一緒でしたでしょう?」


 そう言ってテンパレス伯爵は後ろの馬車を指差した。


「ああ、いつまでも遊んでばかりの不肖ふしょうの娘だがな」


「実は、ライゼルがご息女のことを大層たいそう気に入ったようでして」


「ほう!? それは本当かね!?」


「はい。ご息女の聡明そうめいさ、勤勉さ、感情豊かなところに強くかれました」


「この旅ですっかり意気投合いきとうごうしたと」


「ははは、我が娘ながら見る目だけは確かなようだ!」


「しかし、我らの身内になるというのは」


「良い良い、構わん! SS神具(アイテム)をくらわば皿までよ!」


 馬車の中の密会。

 しかし、まあ、周りには丸聞こえなのだが。

 兵士達はその間抜けな密会にもう慣れっこなのだろう。

 特に気にした風もなく任務に就いていた。


 そんなときだった。


「おい、そこの男! 邪魔だ!」


 突然――何もなかった空間に人間が現れた。

 真っ白な髪、灰色のコート、黒い白目、赤い瞳。


「なんだ、あいつ。亜人族、か?」


「おい、聞こえないのか!」


「何事だ、騒々しい」


「はっ! あの者が街道を塞いでおりまして」


「構わん、力尽ちからづくで退かせよ」


「承知しました!」


 兵のリーダー格と思われる男がハンドサインを送る。「やれ」、と。

 それを見た部下達は男をつまみ出そうと近づいていく。


「悪いことは言わないからさ、止めといた方がいいよ? ボクの目的は君らじゃないんだ」


「なんだよ、言葉分かるんじゃねえか。ほら、怪我しないうちに――」


 兵士の一人が灰色の男に手を掛けようとした瞬間、彼の心臓は奇妙な形をしたナイフによって貫かれていた。


「も、モートンっ!? お前、何を!」


 混乱はしていても、『こいつは敵だ』ということだけは理解したのだろう。

 近くにいた兵士は素早く剣を抜いて斬りかかる。


「うがっ……!」


 が、彼もまた同じように心臓を貫かれ、絶命してしまった。


「な、なんだコイツ!」


「慌てるな! たまたま良い神具アイテムを手に入れただけの素人にすぎん! 魔法部隊! 十字陣形!」


 リーダーらしき男はすかさず状況を把握すると、遠距離攻撃の体制にシフトする。


「撃てっ!」


 そして、号令と共に攻撃魔法用の神具を持つ兵士達が一斉に魔法を放った。

 正面と真横からの連続十字砲火――

 これをかわしきれる人間など,この世に存在するはずが……


「あ-あ。知らないよ?」


 灰色の男は首をすくめてそう言う。

 そして、次の瞬間には多数の魔法が彼のいた場所へ殺到した。

 あたりにもうもうと立ちこめる土煙の量が、その威力を物語っていた。


「や、やったか? ぐはっ!」


「ぐあっ!」「あがっ!」「ぎゃっ!」


 その土煙を切り裂くように現れたのは灰色の男だった。

 男は、人間とは思えない速度で魔法兵士達を次々に絶命させていく。


「ひ、ひい……!」


「怖じ気づくな! 閣下を何としても守るのだ!」


「あの男は反撃を得意としているようです! こちらから仕掛けなければ……」


「馬鹿者! ではこのまま好きにさせよというのか!」


「な、何をしておる! は、は、早くヤツを殺さぬか!」


「皆の者、私に続け!」


「た、隊長っ!」


 馬車の外で繰り広げられる殺戮さつりくの嵐。

 即死している者が多いのだろう、悲鳴すらほぼ聞こえず、ドス、ブシュ、という無機質な『肉を刃物がえぐる』音だけが馬車の中に響き渡る。


 ――そして、そのうち音が止んだ。

 馬車のドアが開く。


「ねえ。いつまでそこで丸まってるのー?」


 そこから身を覗かせたのは真っ赤な鮮血で染まった灰色の――いや、赤黒い男、だった。


「ひ、ひいいいいい」


「なんだ、テメエ、ち、近づくんじゃねえ、殺すぞ!」


 馬車の中にいるのは王国補佐官、テンパレス伯爵、そしてその息子のライゼルの3人だけ。


「せっかく『神のしもべ』のボクがわざわざここまで来たってのにさ」


「か、神の、しもべ……ほ、本当に、いた……」


 補佐官はその名称に聞き覚えがあったのか、完全に震え上がり――


「うわ、きったな」


 失禁してしまっていた。ついさっきまであれほど偉そうにしていた男が。


「ど、どうか、命だけは」


「あー、そういうの良いからさ、出してよ。えーと、何だっけ」


 男はぶつぶつと独り言を呟きながら赤く染まったコートから黒くて平べったい板を取り出す。


「か、金か? 金ならいくらでも出すぞ!」「わ、ワシもだ」


 補佐官と伯爵の命乞いを他所に、男は板に指を這わせている。

 少しだけその動きを繰り返した後、ようやく目当てのものを見つけたらしい。


「んーと、ああ、あったあった。『秩序の番人(ロウ・ジャッジメント)』、だ」


「そ、そそそ、そうだ、ライゼル殿! 『秩序の番人(ロウ・ジャッジメント)』でこの男を始末してはくれぬか!」


「ちっ、言われるまでもねえよ!」


 国の権力者からのゴーサイン。

 ライゼルは腰の鞘から剣の形をした神具アイテム、『秩序の番人(ロウ・ジャッジメント)』を抜き放った。


「ここじゃ狭すぎる、表にでな」


「うん、おっけー」


 ライゼルの提案に素直に従う不気味な男。

 馬車の外は、まさに地獄絵図だった。


「あーあ。おまえ、随分と派手にやったじゃねえか。こりゃあ、間違いなく『死刑』だな」


「えー。キミの新しい婚約者は殺さないであげたのに、ヒドいねー」


 肩をすくめる男にライゼルは切っ先を向ける。そして――


 「『刑罰・死刑パニッシュメント・デス』」


 と、()()した。

 そう、実はこの『秩序の番人(ロウ・ジャッジメント)』は形こそは剣だが、実際は魔法型の神具アイテムなのである。

 その能力は、相手の罪状に応じてありとあらゆる状態異常バッドステータスを思いのままに付与できる、ジャマー系統の頂点に立つというものだった。


 そして、今回彼が下した判決は『死刑』。

 弁解の余地も弁明の時間も必要ない。開戦しての即執行。

 次の瞬間には不可視の魔法が灰色の男に触れ、そして絶命するはず――


「……で? 何これ」


「なっ……!? ぱ、『刑罰・死刑パニッシュメント・デス』! 『刑罰・死刑パニッシュメント・デス』! 『刑罰・死刑パニッシュメント・デス』っ!」


 何度も何度も詠唱する。

 が、灰色の男は絶命どころか、傷一つ負っていない。


「じゃ、いただくねー」


「ひ、ひいい」


 いつの間にかライゼルの目の前にまできていた男が『秩序の番人(ロウ・ジャッジメント)』に触れ、そして呟いた。


「バックドア、オン。リバース・エンジニアリング」


「ぐあああああああっ!」


 男が何か呪文のような言葉を言い終わると同時に、ライゼルの絶叫が響き渡った。


「ぎゃああああ、ぐえええええ、おごああああああっ!」


 伯爵という王に次ぐ家格に加え、事実上最高ランクであるSS神具(アイテム)を持つ男。

 そんなライゼルが、喉や胸のあたりを掻きむしり、文字にできない悲鳴をあげて地面をのたうち回っている。


「ら、ライゼル! しっかりせんか!」


「な、何をしておるのだ、何がSSだ、全く使えんではないか!」


「あー、もう。うるさいなあ、キミ。男なんだからさ、ちょっとは我慢しなよ」


 声帯が傷ついているのだろう、叫びだったものは悲鳴に、そして今では何かをひっかくような不快な音になっていた。


「よし、オッケー。ダウンロード完了、と」


 そう言うと男の持っていた黒い板に『秩序の番人(ロウ・ジャッジメント)』が吸い込まれていく。


「はあ。うるさいなあ。これじゃ耳がおかしくなっちゃうよ。まあいいか。もう用済みだし」


 男は再び黒い板に指を這わせ始めると、何やらブツブツと独り言を言い出す。


「えーと、スピリテムシステムの、ああ、そうそう、これだ。『ソウル』の『ムーブ』、『ストレージ』、と」


 たん、と指で黒い板を叩いた瞬間、ライゼルは糸が切れた人形のように動かなくなった。


「ああああ、ら、ライゼルがあああ」


「あ、ごめんねー? でも、あのまま放っておいたら、もっとヒドいことになってたかもだし」


 そう言って男は再び馬車の方へと向かって行く。


「目撃者は消す、って話だったもんなあ。めんどくさいなあ」


「ひいいいぃぃぃ……」


「――そこの男! その馬車から離れなさい!」


「んん? 女の子?」


「――『妖精城の弓兵達(キャスル・アーチャー)』っ!」


「わわっ! あっぶないなあ、もう」


「――『妖精城の槍兵達(キャスル・ランサー)』っ!」


「ちょ、もうキミの分の空きはないんだって」


「問答無用ですわ!」


「あーもう、この子の能力は相性悪いや。ま、いっか、命令なんて」


 そう言って黒い板を指で叩いた瞬間、男は煙のように消えてしまった。

 そう、現れたときと同じように――


 ******



ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!

本作を少しでも面白い・続きが読みたいと思って頂けましたら、下の☆☆☆☆☆をタップ、ブックマークへの追加をして頂けますとモチベーションが10倍になります!

あと、作者にもこの作品の何が良くて何がダメなのかよく分かってません!できれば感想を頂けますと本当に助かります。

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