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第30話 リターン・ヴォイド

この話で第1章が完結となります。

「トイーア……?」


「やあ、ロイド。約束は守ってくれたみたいだね。お見事、お見事」


 振り返ると、そこにいたのは僕をヘクターの元へ誘った男、トイーアだった。

 先ほどとは別人のような落ち着きで、馴れ馴れしく話しかけてくる。

 そして、そんな旧知の存在を歓迎するはずのヘクターは――

 頭を上げ、彼の顔を睨みつけていた。


「て、めえ、何しにきやがった」


「いやだなあ。幼馴染に会いに来たって言うのに、それはないでしょー?」


 白々(しらじら)しい態度でヘクターの質問を受け流すトイーア。

 いや、こいつは多分、ヘクターとは違って『正真正銘の偽物』だ。

 そう言い切れるだけの根拠を、僕は持っている。


「……お前、何者だ」


「おいおい、ロイドまで何を言いだすんだよ。俺はトイーア――」


「――下手な芝居はもう止めろ。僕には分かってるんだ」


 さっき見た何でもナビの画面を思い出す。

 僕の周りに『味方』を示す青い点はミネルバだけ。

 こちらに向かってくる二つの点もあったけど、こんなに早く着く速度じゃ無かった。

 赤点が消えていたことに驚いて、隅から隅まで見回したんだ。

 見落としなんてあるわけがない。


 なら考えられる可能性は1つ。

 この男が『突然この場に現れた』ということだけだ。


 瞬間移動能力……そんな能力や魔法は聞いたことがない。

 いや、もしかしたら僕が知らないだけで、存在はするのかもしれない。

 でもトイーアの神具アイテムはDランク、しかも弓だ。

 そんな破格の固有スキルがあるなんて、聞いたことがない。


「…………あれ? 何? ヘクター、もしかして俺のこと話しちゃったの?」


「いいや、でも僕には分かるんだ。お前、どうやってここに来た」


「おお、怖」


 トイーアらしき人物はニタニタと笑いながら首をすくめた。

 そして、「はーあ」とわざとらしいため息をついてから、


「こんなに早くバレちゃうなんてねー。予想外」


「そう。ボクがこの騒ぎを引き起こして、復讐に燃えるヘクター君に想具スピリテムを作ってあげた犯人さ」


「なっ!」


 『スピリテム』というよく分からない言葉は置いておくとして、この男がオーギル襲撃事件の首謀者だって――?


 いや、そんなまさか。

 たかが人間が、千を超える魔物をどう操ったというのか。


 それ以前に、ヤツの能力は多すぎる。

 瞬間移動能力、魔物操作、姿を擬態する……

 その多才さは、まるで……まるで僕の――


「お、お前は一体何を言ってるんだ……!」


「んん? 言葉の通りだよ? ボクは嘘をつかないからね」


「何だと!? 僕をだましてヘクターのところに向かわせたじゃないか!」


「ボクは『ヘクターを助けて』、って言ったんだよ?」


 トイーアの姿をしたソレは、半笑いのままでそう言い切り、更に続ける。


「彼は救われたがっていた。ロイド君を殺すことでね」


 身振り手振りを交えて吐き出される言葉は、演技がかっていて、まるでお芝居のようだった。


「まあ、逆に救われちゃったみたいだけど。あのまま戦ってたら想具スピリテムに取り込まれちゃってただろうし」


「……取り込まれる、ってどういうことだ」


「言葉の通りさ。あ、でも二人の魂と一緒になれるんだから、そうそう悪い話でもないのかな?」


 あはは、と話す内容とはかけ離れた軽薄な笑い声を上げるトイーアもどき。


「二人って……もしかして……!」


 思わず、ヘクターの方を振り返ってしまう。


「こいつが……あの二人を……」


 ヘクターは僕の方に視線を向けること無く、変わらず謎の男を睨み続けている。

 僕の想像はきっと、合っているのだろう。

 でも、魂ってどういうことだ……?


「何を言うんだ、ヘクター。話に乗った時点で君だって共犯みたいなものだろう?」


「うるせえ……てめえも……俺が殺すっ」


「2人分の魂を使った特製の想具スピリテムは気に入らなかったかな。まあ、こんだけ無様に負けたんじゃ、仕方ないか」


「魂を……使った……?」


 人間の魂を何かの材料のように使ったと言うことなのか?

 じゃあ、魂を使われた人間はどうなる?


「おっといけない。少し喋り過ぎちゃった」


 そう言うと、トイーアの姿をした何者かはポケットから何かを取り出した。

 黒くて艶々(つやつや)していて平べったい、何かを。

 そう、僕の持っている『*****』にそっくりな――


 いやいや、違う!

 そう、そうだ、大きさがまるで違う。2回りくらい小さい。

 だから、あれは別物だ!


 ……と言い切れたら、どんなに楽だったろう。

 逆に言えば、大きさが違うだけ。

 その根底にあるもの……用途や目的といった『思想』は同じにしか見えない。

 この4日間、飽きるほど触り続けたからこそ分かってしまう。


 ――あれはきっと、『同類』だ。



「悪いけどさ、ヘクター君。君にはもう用がないんだ」


 男はそう言い、黒い板の表面を軽く『タップ』する。

 直後、目の前に白く輝くもやのようなものが現れて――そして『実体化』した。

 まるで、3年前に見たあの光景と同じように。


「よっと。少し黙っててね」


 トイーアの姿をした誰かは、現れた剣を掴み、ヘクターへ切っ先を向ける。


「『刑罰・昏睡パニッシュメント・コーマ』っと」

「てめ」


 そして、『スキル名』を発した。

 直後、ヘクターはなにか言い掛けたところで白目を剥き、口を半開きにしたまま昏倒する。

 それと同時にスレイアの姿も消え、この場に立っているのは――

 ついに奴と僕だけになってしまった。


「いやー、さすがはSSランクだねー。簡単に効いちゃった」


 男はふふふ、と含み笑いをらしながら白い剣を手の平にのせ、くるくると回している。


「な、なんだあれ。あれはまるで……神具アイテムじゃないか」


「うん、そうだよ? 確か、『秩序の番人(ロウ・ジャッジメント)』って言ってたかな」


「……それって、ライゼルの……!」


「あー、そんな名前だったっけ? ボクに人間の罪と罰なんて効くわけないのにさ。必死になっちゃって。笑っちゃうよね」


 事もなげに言う男は「本当に愚かだよ」、と笑っていた。


「ライゼルはどうしたんだ」


「どうして気にするの? アイツはひどいヤツだったんだろう?」


「大切な友達の婚約者なんだ。友達に、これ以上いやな思いをしてほしくない」


「ふーん、そうなんだー。でも残念。アイツね、何かウザかったからもう魂抜いちゃった」


「――殺したってことか」


「違う違う。肉体は生きてるよ? まあ、生きてるだけだけど」


 ……まずい。

 コイツは、人間じゃない。

 知性や知能が高いだけの、別の生き物だ。

 言葉は通じるのに、価値観や倫理観が違いすぎて会話にならない。


(……ロイド、あいつはヤバい。ここは無理をすんな。何とか生き延びろ)


 アイディが真面目な口調で警告してきた。

 あの黒い板に何かの心当たりがあるのかもしれない。

 いつも余裕があって皮肉たっぷりに茶化してばかりいるアイディが真剣にならざるを得ない存在――

 それが、あいつという存在か。


「――ヘルプ。どうしたの」


 そして、もう一人の頼れる仲間のヘルプは――

 見るからに異常な状態に陥っていた。

 顔面は真っ青で、ガタガタ震えている。

 彼女もまた、アレに心当たりがあるのだろうか。

 それもきっと、アイディよりもずっと悪い方面で。


「ヘルプ、戻って! ……ヘルプ!?」


(お、とうさま……私、い、いやです)

(ちっ! バカが、アイツを見んじゃねー!)


 ヘルプはマスターの声も聞こえないほどに不安定になっていた。


「アイディ! ヘルプを連れて戻って!」


(お、おう! おら、来い!)


 アイディは彼女の腕を引っ掴み、強引にタブレットの中へ引っ張っていった。

 二人が画面の中へ消えていくのを見届けて、ボクは再びトイーアもどきと相対する。


「おやおや。これで本当にロイドだけになったね」


「くそっ」


 ミスリルの剣を握る右手に力を込める。

 SSランクのライゼルを手玉に取ったと思われる相手だ。

 しかもヤツは他人の神具アイテムを使う能力もあるらしい。


「それじゃ最後の仕事をしようかな」


 無傷のヤツが近づいてくる。

 一方で、僕の体はすでにボロボロ。

 更に、タブレットのエネルギーも残りわずか。

 おまけに、一緒に戦える味方もいない。


 ――こんな状況で未知の敵に遭遇するなんて。


 ……ダメだ。

 考えれば考えるほど、絶望的だ。戦いになるかすら怪しい。

 逃げたいけど、あいつに瞬間移動の能力があるならそれも無駄だろう。

 せっかく生き残れたのに、何てひどい運命なんだ。


 それでも――

 それでも、諦めるものか。

 こいつもまた僕の前に立ち塞がるというのなら――。


「――ああ、違う違う」


 こちらの緊張を察したのか、ヤツは立ち止まり、弁明を始めた。


「誤解しないでくれって。別にロイドを殺そうとか、そういう話じゃないから」


 軽い口調。

 害意は無い、そう言っている。

 その言葉で、僕の右手が一瞬だけ緩みそうになった。

 だが、すぐに握り直す。

 ついさっきこの男に騙されたばかりだろ!

 何を信じそうになっている、どれだけお人よしなんだ、僕は!


「そんな話を、誰が信じるかっ!」


「さっきのは許してよ。ヘクター君が余りにも憐れだったものでさ。つい同情しちゃったんだ」


「同情だって?」


「そうそう。いやあ、凄かったよ。僕の姿を見つけた途端に3人でいきなり突っ込んできてさ」


 ヘクターたちは、ゴブリンを倒して気分が乗っていたのだろう。

 明らかに魔物ザコとは違う影を見つけ、持ち場を離れてヤツに突っ込んだようだ。

 『自分たちがボスを倒せば皆に認めてもらえる』――

 それほどまでに、地の底に落ちた評価とプライドを立て直したかったのだろう。


「まあ、面倒だから少し大人しくして貰ったんだけど、その時の彼の姿が傑作けっさくでね!」


 トイーアの姿をした『誰か』は、ペラペラと喋り出した。

 まるで、昨日あった面白い出来事でも話すような気安さで。

 こうあせって致命的な失敗を犯した、おろかでむくわれない男の話を――


 ……それは正直、聞くに堪えない内容だった。

 親友と恋人の命が消えようという時に、あんな取引を持ち掛けられたヘクターはよく正気を保てたものだと思う。

 まあ、それだけ自分が憎まれていたのかと思うと、複雑な気分でもあったけど。


「それで、何が言いたいんだ。お前は」


「ああ、ごめんごめん。つい楽しくなっちゃってさ」


 男は大きな身振りをしながら、本当に楽しそうに、1ミリも面白くない話をわめいている。


「でね、ロイドは知らないだろうけど、僕たちの間で仲間割れは禁止なんだ」


 男の口は滑らかで、次々にわけの分からない言葉を並べ立てる。


「だからこの仕事はまあ、本業とは別の、言わば()()()みたいなものなんだけど」


「だから、何の用だって聞いているッ!」


「そう怒んないでよ。話は簡単だ」


 そこで区切ると、男は両手を広げ、笑みを浮かべながら口を開いた。


「ロイド、君もボクたちの仲間に――」


「――『妖精城の弓兵達(キャスル・アーチャー)』っ!」


 奴から紡がれようとしていた、身の毛もよだつような邪悪な言葉(なかまのかんゆう)

 それは、覇王の清廉な一喝で打ち砕かれた。

 同時に降り注ぐのは無数の不可視の矢。


「うおっ!」


 ずどどどどど、と音を立て、トイーアの姿をしたものがいた場所に無数の穴が開いていく。


「あっぶな! 警戒モード切ってたら直撃だったぞ!」


 間一髪で回避した男は黒い板を触り、よく分からない――

 いや、僕にだけはよく分かる独り言をわめいていた。

 そしてその男の背後から走って来るのは2つの影。

 それはもちろん、あの執事さんと――

 銀色のフルプレートにガントレットとグリーブの完全武装、ひとまとめにした金髪を揺らす例の少女だ。


「ロイドっ! その者に近づいてはなりませんわ!」


「セルフィナ、こいつは危険なんだっ! すぐに離れて!」


「そんな事、知っていますわ! なぜなら、あの男が――」


「ちっ、邪魔が入ったか。あーあ、あの子とは相性が悪いんだよなー」


 男は心底残念そうな顔で独り言を呟いた。


「まあいいや、今日は挨拶だけってことで」


 すぐに薄笑いの表情と軽薄な口調に戻った男が黒い板を触り始める。

 何が起きるか、僕たちには想像も出来ない。

 アレは、そういうものだ。


「じゃあ、ボクはもう帰るねー」


「な、何っ?」


「残念だけど、今日は時間切れみたい。さっきの返事は次回聞かせてもらうよ」


「へ、返事なら、今聞かせてやる!」


「ああ、今は良いよ。どうせ『断る』って言うんだろ? だから次回聞くって言ってんの」


 何を言ってるんだ、アイツは。

 いつ聞かれたって『はい、仲間になります』だなんて言えるわけが無いだろう。


 とはいえ。

 僕もこれ以上戦えないし、相手の底は全く見えない。

 そんな戦いにセルフィナまで巻き込むわけにはいかない。

 だから、ここはこのまま見送るのが正解なんだろう。


 でも、せめて『敵』の名前くらいは知っておきたい。

 『名前』という情報は、プログラミングでも凄く重要なものだから。


 というわけで、散々遠回りをしたけど……結局、最初の質問に戻ってしまう。


「……お前、何者だ」


 僕の質問に、ヤツは「うーん」とうなってほおをかく。


「ま、いっか。次会う時不便だしなあ」


 そして、少しだけ悩んだ素振りをしながらも、ヤツはあっさりと名乗ったのだった。


「……ボクは『神のしもべ』のエディミルだ」


 そう言うとトイーアの姿をしたそれは、本来のものと思われる姿を現した。

 偽装のからが光の粒子となってがれていく。

 程なくして現れたのは……人間に似ているような、そうでもないような、そんな存在だった。


 灰色のコートで全身を覆い、肌は灰褐色。

 髪は真っ白で、長くもなく短くもない特徴のない髪型。

 黒い白目に紅い瞳。


「神の……しもべ……?」


「じゃあまた、近いうちに」


「お、お待ちなさ――」


「じゃーねー」


「き、消えましたわっ!?」


 黒い板を『タップ』したエディミルの姿は、煙のように消えてしまった。

 まるで、そこには最初から誰も存在していなかったかのように。


 ***


 そんなこんなで。

 『オーギル襲撃事件』は、何だかよく分からないまま始まり、最後までよく分からないままに終わった。

 僕の手の届く範囲だけは最小限の被害で食い止めることはできたけど、全体で見ればかなりの大きな影響が起きているようだ。


 ――でもそれよりも。

 とにかく、今はもう、休みたい。

 僕は心も体も、もう、限界なんだから……。


 視界がぐるりと回り、糸の切れた操り人形のように体が崩れていく。

 最近ともだちになったばかりの少女が僕の名前を叫んでいる。

 僕の意識は、それを聞くと同時に、闇へと沈んでいくのであった――。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

はい、というわけで、第1章、完結です!

ここまでいかがだったでしょうか?

『いかにもなろう系』的な導入から始まり、段々とダークでシリアスな世界観にズレていく感じだったので、「こんなのを読みに来たんじゃないやい!」と思われた方も多かったかもしれません。

その点に関しては「捻くれた作風で本当に申し訳ないです」と謝るのみです。

でも、大凡の世界観、ルール、政治や経済の背景やタブレットの有効性など、様々なものがぎゅっと詰まった10万字だったかと思います。


また、もし続きがあるならしばらくの間はもう少し緩ーい展開になるかと思います。

第2章は導入くらいまでしか書いていませんので、このまま続けるかどうかは……ぶっちゃけ、読者様の反応次第、となるのですが。(最近PVが激減してまして……)

一応設定は深いところまで組んでいますのでプロット構築はそれほど難しくはありません。

できれば、ブクマ・ポイントで応援して頂けますと、深い闇に沈んだロイド君も再び立ち上がってくれることでしょう……!


なにとぞ、なにとぞ、この作品に力を!!

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