第29話 勝敗
新アプリ『固着カメラ』でヘクターの体を拘束したところで、僕はやっと一息つけた。
(マスター、もう充電が15を切りますです)
が、そこへ飛んできたのはヘルプからの非常な現実。
「ええっ、もうそれしかないの!?」
さっきまで30はあったはずなのに。
(そんだけムチャしてた、ってこったな)
(マスターの肉体データもかなり悪化していますです)
ヘルプが心配そうに僕を見上げる。
(その……できればすぐにでも休息をとってほしいです)
「ありがとう、ヘルプ」
でも、まだ休むわけにはいかない。
今すぐにでも座り込みたい下半身を鞭打って、再び足を動かす。
まずは大けがを負ったミネルバとヘクターを安全な場所に移さないと。
それから、皆のところへ帰って、次に――
「……?」
そこで、強烈な違和感に気付く。
――静かすぎる。
元々、僕がここに来た理由は大量の魔物に襲われたオーギルを守るため。
まあ、それをほったらかしてヘクターとの殺し合いに興じてしまったのだけど……。
その戦場が、いつの間にか周囲は静寂に包まれていた。
土煙も上がってないし、魔法やらの爆発音もしない。
あるのは、荒野を駆ける風の音くらい。
もしかして……
僕たち二人が戦っている間に、戦いは終わってしまったのか?
いやな光景が次々に脳裏をよぎる。
味方たちの血にまみれた遺体。
大量の魔物がなだれ込むオーギル。
無差別に虐殺されるドミニムさんやカーラたち――
僕は急いでタブレットを操作して『何でもナビ』を表示させた。
「え!?」
すると、あれだけ大量にあった敵を示す赤点が……
一つ残らず消えていた。
町の周辺にも見当たらない。
「こ、これって、どういう……?」
(まあ、普通に考えたら魔物どもは一匹残らず始末された、ってことじゃねえの)
(もしくは逃げ出した、という可能性もありますです)
「故障とかじゃないよね?」
(はい、何でもナビにエラーログは出力されていませんです)
赤い点が綺麗に無くなった――
つまり、この周辺にはもう敵はいないということ。
「あ、でもヘクターは紫の点だね」
(はい。まだどちらか未確定の存在ということになりますです)
「ふーん」
何でもナビがどういう基準で敵味方を分けているのかはよく分からない。
でも、アイツが本気で反省して罪を償うまでは――
敵でもなく味方でもない、この中途半端な表示のままで良いと思う。
(それから、こちらに味方勢力が向かってきていますです)
一方、味方を示す青い点は本陣の居た辺りへと少しずつ集まりつつある。
それに、こちらに向かってくる青点もいくつか。
僕たちの話を聞いてシモンズが救援をよこしてくれたのかもしれない。
「ほんとだ! ああ、助かった……」
(じゃあ後はここでコイツを見張って待ってりゃ良いな)
それにしても、だ。
僕が防衛線から勝手に抜け出してからまだ二十分も経っていない。
あれだけいた敵が一匹残らず消えるなんて、一体何があったんだろうか。
……いや、勝ったのならそれでいいじゃないか。
もしかしたら、僕たちが飛び出した後にSSの二人が参戦許可が出たのかもしれないし。
その辺りの話は後でギルド長にでもゆっくり聞けばいい。
――今はそれよりも、そこで寝っ転がっている元パーティーメンバーの方を先に片付けておくことにするか。
タイミング良く、そろそろ目覚めそうだし。
「くっ……。あ、ああっ!?」
「やあ。起きた?」
「か、体が動かねえ……てめえ、俺に何をした」
「そりゃ君は危険人物だもん。拘束くらいするよ」
ヘクターはうつ伏せのまま、頭を上げてこちらを睨みつけている。
僕は、そんな男の傍にしゃがみ込む。
「……どうしてトドメを刺さねえ」
「死んだら何も聞けないから」
「俺はお前を本気で殺す気だったんだぞ」
「僕は……そんな気は無かったし」
「何だと……テメエは俺が憎くねえのかっ!」
「……憎いよっ! 憎いに決まってるだろっ!」
――自分でも、驚くくらいの声を上げてしまった。
3年間の間に凝り固まった屈辱。
それはもう、何をしようが簡単に消えるようなものではない。
でも、どうしてなんだろう。
どうしてこいつは、憎ければ傷つけたり、命を奪うのが当たり前だと思えるんだ。
「だったら殺せよ……いや、殺してくれ……」
顔を伏せたヘクターの声が震える。
顔を覆いたくてもアプリで拘束された腕は1ミリも動かない。
瞳から溢れたモノは、雫となって地面へと吸い込まれていった。
「何で僕がお前のために罪を背負わなきゃいけないんだよ」
「くっ……」
ヘクターがこんな性格になってしまったのは何か理由があるのかもしれない。
でも、生きてれば色々あるのが人生だ。
被害者ぶって、自分は不幸な人間だ、という顔をしていても何も変わらないんだ。
だから、僕は絶対に同情なんてしない。
「冒険者からは足を洗いなよ。もう無理だろ」
恐らく、ヘクターの仲間はもういない。
それに、町の危機を救うための共同作戦を台無しにしかねない事もしてしまった。
再起するなら非常に厳しい道のりとなるだろう。
だったら、少しでもマシな道に進むしかない。
「……どっちみち、俺はここでオシマイなんだよ」
ヘクターは地面を見つめたまま、吐き捨てるようにそう言った。
でも、ここで「まだ生きているだろう!」とか叱咤するのは大間違いだ。
こいつはそんなに感傷的なヤツじゃない。
この言葉には、何か変えようが無い事実が横たわっている。
「ヘクター。教えてくれ」
「……」
何を、なんて聞き返してはこない。
意味はヘクターにも分かっているはずだ。
『この戦場で、何があった?』という単純な問いの答えを求められていることを。
ヘクターの無言は続く。
これは言いたくないのではなく――
『どう言ったら良いのか悩んでいる』。
そんな感じに見える。
まともに話しても信じて貰えない……それこそ、僕のタブレットのような荒唐無稽な話なのかもしれない。
とりあえず、ヘクターの頭と気持ちの整理が終わるまで待つしかないか――
と考えたその時だった。
背後からとても馴れ馴れしい感じの、最近どこかで聞いたはずの声がしたのは。
「――なあんだ。あれだけすごい力を借りたのに、結局負けちゃったのかあ」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
ちょっと短いですが、助走のようなものだと思って頂ければ…
さあ、いよいよ第1章完結まであと1話!
本作はかなりPVが伸び悩んでいますので、そこで……という可能性もそこそこありそうですが、一区切りするまでは走り抜けます!もう少しお付き合いください!
☆やブクマして頂けますと作者のやる気が100倍になります!(断言)
軌道に乗ればこちらの作品も挿絵を入れていきたいと思います。(過去話にも入れ始めました!)
どうかよろしくお願いします!!




