第2話 チュートリアル
『>> SYSTEM REBOOT...』
『>> POWER SOURCE DETECTED: HIGH VOLTAGE (THUNDER_BREATH)』
『>> CHECKING AUTHORITY... ADMINISTRATOR (GOD_MODE)』
『>> WARNING: BATTERY LOW (5.0%)』
『>> GOD_MODE FAILED. SWITCHING TO RESTRICTED MODE.』
視界の隅に、訳の分からない文字の羅列が流れた気がした。
ゴッド……モード? 失敗……?
瞬きをすると、その文字はフッと消えてしまった。
「……い、一体これは何が……?」
あの怪物が、口から血を流していた。
大慌てで、後ずさりしている。
僕の頭をかじったはずの牙は砕けていた。
破片になり、ガシャガシャと床へ落ちる。
何が起きたのか分からない。
状況が飲み込めず、僕は固まっていた。
(おい! 何をボーっとしてやがる!)
誰かが声を掛けてきた。
もしかして、みんなが戻ってきたのか。
あり得ないと分かっている。
でも、それしか思いつかなかった。
慌てて振り返る。
そこにあったのは、真っ直ぐな通路だけだ。
誰もいない。
(馬鹿野郎、どこ見てんだ! こっちだよ、こっち!)
耳を澄ます。
声は、僕の下の方から聞こえていた。
正しくは、首の下あたりだ。
胸元から、ぼんやり光が漏れている。
切ってしまった服の穴だ。
そこから光が見える。
目の前に怪物がいる。
なのに、その光が気になって仕方ない。
だって、その光は――
漆黒の板から出ていたんだから。
「嘘だろ。何で……」
訳の分からないことが重なりすぎる。
僕の頭は、もう限界だった。
いや、既に壊れていたのかもしれない。
(そうそう、こっちこっち。お前、やったじゃねえか!)
声は弾んでいた。
あの板から聞こえている、みたいに。
(見事『起・動・成・功』だ! おめでとう!)
あの不明が喋る?
空耳や妄想だと否定したい。
でも声は、さらに続いた。
現実だと言い張るみたいに。
(つっても、いきなりピンチだったからよ。つい手を出しちまった!)
やけに饒舌だ。
(まあ初回サービスってことで、見なかったことにしろ。今から色々教えてやる!)
「え、え。何だ、これ――」
「グウオオオオオッ!」
サンダーリザードが咆哮した。
怒りの声がフロアに響く。
我に返って前を見る。
血を流したヤツが、こちらを睨んでいた。
牙は折れている。
それでも、まだ武器はあると言いたげだ。
(おい! 細かい話は後だ。今回だけは俺様の言う通りに動け!)
「う、うん。分かった!」
何が何だか分からない。
でも助かったのは事実だ。
板が何かした。
そう思うしかない。
なら、今は言う通りにする。
(よーし。じゃあタブ……いや、黒い板を持て!)
「分かった!」
(違う、そっちは裏だ。ひっくり返せ!)
僕は慌てて持ち直す。
(ああ、それは上下が反対!)
「え、あ、ああ。こう!?」
(オッケーだ!)
裏表とか上下があったのか。
やっと正しい向きになった。
黒い板の表面には、文字が並んでいた。
『モード:<ディフェンシブプログラム>』
『プログラム名:噛みつき防御』
『命令:<条件>』
『条件式:<所有者>が<噛みつき攻撃>を<受けたとき>』
『真のとき:<無効化シールドを展開>』
『偽のとき:<なにもしない>』
見慣れない文字の羅列。
意味は、全然分からない。
「それで、どうすれば!?」
「グゥアアアアアッ!」
サンダーリザードが吠えた。
大口を開け、喉の奥を青白く光らせる。
「まずい。稲妻が来るっ!」
(よし。『条件式』の<噛みつき攻撃>を指で叩け!)
「わ、分かった! こう!?」
指で叩くと、小さな四角形が現れた。
そこに、別の文字が表示される。
『対応スキル』
『<噛みつき攻撃> LV5』
『NEW!<サンダーブレス> LV7』
(<サンダーブレス>をタップしろ!)
「た、タップ!?」
(さっきみたいに叩けってことだよ!)
「分かった!」
巨大トカゲの稲妻が放たれた。
僕が返事したのと、ほぼ同時だ。
青白い電撃が迫る。
速すぎて避けようがない。
だったら賭けるしかない。
三年待たせた、僕の神具に。
僕は覚悟を決め、指を叩きつけた。
<サンダーブレス>を。
――バシィッ!
稲妻が何かに当たった音がした。
でも、僕には掠りもしない。
そもそも届いていなかった。
僕の前に、白い半透明の膜が展開していた。
壁みたいに立ちはだかる膜。
稲妻はそこで止まり、消えていく。
「グアッ!?」
「こ、これはっ!」
(へっへっへ。どーだ、驚いたか)
僕は息を飲む。
理解が追いつかない。
「一体、何がどうなって……」
(よし。ヤツは完全にひるんだな。今度はこっちから行く番だ!)
声が弾む。
(さっきの要領で『モード』を<オフェンシブプログラム>に変えろ!)
「うん!」
言われた通りに触る。
表示内容が、別のものに切り替わった。
『モード:<オフェンシブプログラム>』
『プログラム名:急所狙い』
『命令:<分岐>』
『分岐1:<敵対者>の<急所>が<首の場合>』
『真のとき:<斬りつけ>』
『偽のとき:<分岐2へ>』
『分岐2:<敵対者>の<急所>が<心臓の場合>』
『真のとき:<突き攻撃>』
『偽のとき:<なにもしない>』
(上出来だ! それじゃ上の方にある『実行』をタップしてみな!)
「『実行』……これか!」
指で叩く。
すると、僕の体が勝手に動き始めた。
「わ、わわ。体が勝手に――」
(抵抗するな! 暴れると『中断』が掛かっちまうぞ!)
意志に反して動く。
それが怖くて、つい力が入る。
でも、ここまで来たら腹をくくる。
毒を食らわば皿まで、だ。
僕は力を抜いた。
その瞬間、体が信じられないほど滑らかに動く。
俊敏で、無駄がない。
夢で見た一流の冒険者みたいに。
「――うあああああっ!」
「グガッ!?」
サンダーリザードは完全に予想外だったはずだ。
さっきまで自殺寸前だった人間が武器を片手に迫ってきたのだから。
立場が逆転する。
僕の体は怪物の懐へ潜り込んだ。
サンダーブレスの直後で休息時間中のヤツは完全に無防備だった。
なんの躊躇も無く、僕の右手は心臓に剣を突き立てる。
命を奪った感触が、手に伝わってきた。
「ギィエエエエアアアアアァッ!」
断末魔がフロアに響く。
それと同時に僕の体は元通り、自分の意思で動かせるようになった。
「た、倒した……? Aランクのサンダーリザードを……僕が……?」
怪物は床に崩れ、動かない。
僕は剣を抜き、鞘に納めた。
まだ震える右手を見る。
感触だけが、生々しく残っている。
(おお。思ったよりやるじゃねーか!)
声が笑う。
(……って何だ、お前。震えてんのか)
「は、はは……ははは。僕が……。ゴブリンとも戦えなかった僕が……」
手の平に、熱い雫が落ちた。
透明のそれは、止まらずにぼた、ぼたと落ち続ける。
助かった安堵。
初めての勝利の喜び。
三年前の絶望。
三年間の辛苦。
全部が混ざって、涙になっていた。
(……まあ、良かったじゃねーか)
声は少しだけ落ち着く。
(色々あったんだろうけどよ。もう安心しな!)
そして、すぐに元の調子に戻る。
(これからは俺様がビシバシしごいて、世界最高にしてやっからよ!)
「う、うん……ありがとう。で、その……君は一体、何なの?」
(何なの、と来たか)
少し間が空く。
(うーん。まあ、それを話すと長くなるんだが……残念ながらもう時間がねえ)
「ええっ!?」
まさか、これで終わり?
余韻が一気に消え、血の気が引く。
三年も待って、これだけ?
それじゃ何も変わらない。
(あー、違う違う)
「え?」
(あれっぽっちじゃエネルギーが足りねえの)
声が急に真面目になる。
(だから今から言うことをよく聞け。忘れないよう頭に叩き込め)
「う、うんっ!」
(いいか。まずはな――)
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
☆やブクマして頂けますと作者のやる気が100倍になります!(断言)
少しずつこちらの作品にも挿絵を入れていきたいと思います。(過去話にも入れ始めました!)
どうかよろしくお願いします!!




