第28話 得るモノ無き戦い
「おらっ!」
迫りくる剣を払い落とし、追撃の火球は全て無効化シールドで防御。
ヘクターの攻撃は僕にまったく届いていない。
作り上げた対ヘクター対策プログラムの守りは完璧だった。
「はっ! 守ってばかりでどうやって勝つつもりだ!」
何も答えず、守りに集中する。
この戦いに負けがあるなら、ヘクターが僕の知らない『未知の技』を使ってきたときだけ。
でもアイツの性格上、ミネルバとの戦いで出し惜しみをしていたとは思えない。
(マスター、残り30です)
ヘルプが小さな声で残りエネルギーを報告してくれた。
この戦いが始まる前のエネルギーは65くらいだった。
そこから見れば半分を切ってしまったことになる。
「どうした! 掛かって来いよ!」
このままでは埒があかない――
僕は、やっと覚悟を決めた。
横薙ぎを切り払った後、一旦ヘクターと距離を取る。
「ちっ。チョロチョロと」
「『中断』」
そして、防御プログラムを切った。
この戦いで勝つには一度だけ、危ない橋を渡らなければならない。
そのため、ここからはしばらくの間はプログラム無しでの防御に専念することになる。
「お前の漆黒の板、使えるようになったんだってな」
ヘクターは状況が膠着していると思ったのか、攻撃の手が緩めて話しかけてきた。
こちらの隙を窺おうとしているのかもしれない。
でも、これはこっちにとって非常に好都合だ。
「ああ。お陰様でね」
会話の流れに沿うようにタブレットを取り出し、裏側を見せてやる。
「……言っとくがな。ろくなもんじゃねえぞ、ソレ」
「まだこれが不明だって言いたいのか?」
「さあ、な」
含みを持たせたようなヘクターの言葉。
一体何が言いたいのか分からないけど、おかげでこっちの準備は整った、
タブレットの画面を指で叩き、再びヘクターに向き合う。
「……なあ、ヘクター」
「ああ?」
「本当に死んでも文句言うなよ」
「……マジで、ムカつく野郎だなあ」
おしゃべりの時間は終わりだ。
ここから先は、最後までノンストップ。
どちらが生き残るかの、サバイバルになる。
「そろそろ、死ね!」
ヘクターが剣で僕の方を指し示した。
それと同時に――
(マスター! 火球型魔力弾! うち2つが地面に着弾しますです!)
「オッケー!」
スレイアから放たれた火球を垂直方向に飛び退いてかわす。
そしてそのまま、地面を転がるようにして姿勢を低くし、爆風のダメージを最低限に抑えた。
「ち、すばしっこい奴だ」
「君らに足腰を鍛えさせてもらったからね!」
「はっ! 感謝しろよ!?」
「そうだね! 剣でたっぷりお礼させてもらうよ!」
そう言いながら、右手に握った剣を見せつけながらヘクターに接近していく。
プログラムは何も起動していない。
何か攻撃をまともに食らったらそこで終わり。
でも、ここでやるしかない――!
「はあっ!」
僕の剣がヘクターの胴へと奔る。
当たれば、文句なしの勝利。
まあ、でもこの攻撃は僕の『素』のものだ。
ガキイン!
「舐めんなよっ!」
当然、簡単に防がれてしまう。
その上――
「――なっ、剣が、食い込んでっ」
ヘクターのギザギザの剣の隙間に挟まって、僕の剣は抜けなくなってしまったのだ。
「くっくっく。掛かったな、マヌケめ」
ヘクターも剣を動かせないことには変わりないはず。
なのに、なぜか余裕を見せている。
一体この状況をどうやって打開しようというのか――。
「やれっ!」
ヘクターが誰かに命令した。
この場で命令するとしたら、相手は一人しかいない――
(マスターっ! 火球型魔力弾! 直撃します! 剣を離して回避してくださいです!)
「自分ごとっ!?」
ヘクターの唇がいびつに持ち上がる。
「てめえと俺、どっちが我慢強いか――決めようぜっ!」
右手を離せばミスリルの剣を失う。
これは僕の防御と攻撃の要だ。絶対に失うわけにはいかない。
じゃあ、直撃を食らうか?
無理だ。こっちはまともな防具もしていないんだ、消し炭になってしまう。
では、残った手段は――
「アイディ、ヘルプ、ごめん!」
唯一自由になる左手で掴んだタブレットで、火球を受け止めることだけだった。
「うわあっ!」
着弾とともに爆発。
あれだけがっちり挟まっていた剣が外れるくらいの、凄い衝撃だった。
至近距離の爆音で耳は耳鳴りでほとんど聞こえなくしまっている。
熱のダメージも直撃だけは避けられたものの、決して軽いものではない。
いや、しかし。
もうそんなことはもはやどうだって良かった。
もっと重要で大変なことが起きていたのだから。
「ああっ――!」
タブレットが僕の左手を離れ、ヘクターの背後の方に飛んで行く。
「ひゃ、ひゃはは! やっぱりお前はバカでクズだな! 神具を盾に使うなんてよ!」
一人に一つ、必ず授けられるという神具。
人生における羅針盤であり、生命線。
他人には使えず、無くしても自分の元に帰って来るという、自分だけの宝物。
僕は、それを手元から放り投げてしまったのだ。
「これで……終わりだ!」
「う、わああああっ!」
喉を狙ったヘクターの突きを、転がって必死にかわす。
急いで起き上がり、とにかくヘクターから距離を取った。
「スレイア! 奴はハンティングがお望みのようだぜ!」
ヘクターも爆発のダメージが深いのだろう、深追いしてこない。
その場で待機して、スレイアの遠距離攻撃で確実に仕留めるつもりのようだ。
火球で右往左往する、僕の無様なダンスを笑って眺めている。
「ぐあっ!」
何度往復させられただろうか。
僕の足はついに絡まり、前のめりに転倒してしまった。
「――――――」
ヘクターが何か言っている。
でも、耳鳴りがひどくて何も聞こえない。
火傷で、顔全体がヒリヒリと痛む。
足はとっくに限界を超え、ゴブリンたちと戦ったときの数倍重く感じる。
だけど、まだだ。
まだもう少し……ここの地質や今の季節、最後に雨が降った日を考えると、ええと――
「ああ、もう飽きたな」
まだよく聞こえないけど、口の動きでそんなことを言ってる気がした。
恐らく、次の攻撃でトドメを刺しに来る……!
そう直感した僕は立ち上がり、ヘクターに向かって走り出した。
「そろそろ、死ねや――!」
ちょっと早いか?
いや、僕の辛かった日々を信じろ。
僕が生き残るために得た、あのスキルランクを――!
「オオオオオオオーッ!!」
「っ!? この、死に損ないがあっ!」
僕は残りの力を振り絞り、雄叫びを上げてヘクターへ斬りかかっていく。
体を真っ二つにする勢いの横薙ぎ。
ヘクターも応戦しようと剣を構えた。
――が、僕の攻撃は、間合いも甘く軌道も見え見え。
でも一応威力だけはありそうなので下手に弾くのもリスクがある。
避けるのが良さそうだが、前や横、しゃがむのも危ない。
「馬鹿め。そんな大振り、食らうか、よ……っ!?」
それらのことを総合すると、もっとも合理的な選択は――
『後ろに下がる』こと。
そしてヘクターは、見事にその『正解』を選んでくれた。
「――うおっ!? お、おい! なな、なんだこの穴はっ!?」
ヘクターが慌てた様子で大声を上げる。
ヤツの背後には、いつの間にか巨大な大穴が空いていたのだ。
「早く落ちなよ」
穴の端で体を反らして粘っていたヘクターの額を、とん、と人差し指で『タップ』してやる。
そんな小さな一押しで、ヘクターの体はゆらーっ、とゆっくり後ろへ倒れて――
「う、うわあああぁぁぁぁ……」
遠くなっていく悲鳴とともに、暗い穴の底へと真っ逆さまに落ちていく。
そして、どさっ、という重そうなモノが地面に衝突する音がした。
「……おーい。生きてるかー」
声を掛けてみたが、何も反応はない。
足とか腕が変な方向に曲がっている気がするけど、まあ大丈夫だろう。たぶん。
落ちた拍子にヘクターが放り出した剣を拾い上げ、その辺にぶん投げる。
『炎の魔女』は――顔も揺らめいて表情もよく分からないけど、ひとまずはこちらに攻撃してくる様子は無いようだ。
それだけを確認し、離れていたところに寝かせていたミネルバに駆け寄る。
「ミネルバ、しっかりして」
僕をかばって倒れた彼女もまた、声がけには反応せず、ピクリとも動かない。
もしかして、まさか、もう――
「ミネルバっ!」
最悪の予想がよぎった僕は慌ててミネルバを抱き起こそうとする。
(――マスター!動かしてはいけませんですっ!)
そんな僕を、ヘルプの声が制した。
「ヘルプ……?」
僕は、自分で地面に放り投げていたタブレットの元へと歩いて行く。
「起こしちゃダメって……?」
(あー、こういうときはまあ、一応は頼りになるからよ。言うこと聞いとけ)
「う、うん。わかった」
そう言って、タブレットを拾い上げる。
(マスター、彼女の腕を軽く握ってくださいです)
「腕を……。こう?」
(結構です)
タブレットからヘルプのふむふむ、という声が聞こえてくる。
(かなりのダメージは負っていますですが、バイタルはセーフゾーンです)
「つまり、どういうこと?」
(ご安心くださいです。命には別状無いです)
「……そっかあ。良かったあ」
大きく胸をなで下ろす。
(ですが、できるだけ早い治療が望ましいです)
「うん、でも、僕一人で運べるかなあ……」
ちら、と今も意識のないミネルバを見る。
自慢じゃないけど僕の体もかなりボロボロだ。
僕よりずっと体格の良いミネルバの体を町まで運べるのだろうか……
(おいおい、そういうときのための平時モードだろが)
「あ、そうか」
タブレットの画面に目を移す。
画面には『平時モード』で作成されたプログラムが表示されたままだった。
<繰り返し:開始>
<ヘクター> の <背後に>
<穴を掘る>
<繰り返し条件>
<広さ:半径20メートル>
<AND>
<深さ:高さ10メートル>
を満たしていない場合は繰り返す
<繰り返し:終端>
あとはこれを作り変えて――
『ミネルバをオーギルまで運ぶ』
――みたいなプログラムにすれば良いだろう。
(それにしても、マスターは無茶しすぎです! 彼が振り返ったらどうするつもりだったですか!)
「いや、アイツに限ってそれはないよ」
(ほー。それは何でだ?)
「だって、いつ僕が死ぬか分からない状況だよ? 僕から目を離せるわけがないじゃないか」
(……確かに、そうかもしれませんですが……)
「でも、次があったときのために人間を無力化するプログラムも作っておかなきゃね」
(今回のはさすがにまどろっこしすぎだろ)
そう言ってアイディはケケ、と笑った。
(突然、マスターが平時プログラムを作り出した時にはどうしたのかと思ったですよ)
「他に方法が思いつかなくてさ」
単純に『命を奪う』だけならいくらでも手段はあったと思う。
でもそれじゃヘクターたちに何があったのか、何も分からないまま終わってしまう。
かといってこの間の仕返し程度では結局、今回と同じ事の繰り返しになりかねない。
というわけで、どうにかして『死なない程度の大ダメージ』を与える方法は何だろうか……?
そう考えた結果、
『何も戦闘だけが答えじゃないよね』
というアイディアを閃いたのだった。
(まー確かに、あの山ほどある無駄なスキルを活かせないのはもったいねーもんなー)
「無駄って」
そりゃまあ、半分くらいは自分でも使い道が思いつかないようなのばかりだけどさ。
(へっへっへ。何はともあれ、だ)
アイディが「よっこらしょ」、と画面から身を乗り出した。
(おめでとうございます、マスター! 実にお見事な戦いぶりでしたですよ!)
その脇からぽんっ、とヘルプが飛び出す。
(ケケ、ちっとセコい勝ち方だが、まあ許す)
僕の最も頼りになる二人が、満面の笑みで勝利を祝福してくれた。
「はは。ありがとう」
(で、アイツはどーすんだあ?)
アイディが大穴の下を指差す。
深さ10メートルの大穴だ。
大人の男一人を僕が引き上げるのは相当骨が折れる。
「仕方ない、引き上げてもらうか」
僕は今のプログラムを消去し、新たな命令を書いていく。
「えーと、ヘクターを、僕の前に、移動させる、と」
ささっとプログラムを書き換え、実行ボタンを押す。
すると、小人たちがドアから出てきて「オシゴト、ガンバルゾー」と陽気に歌いながら穴の中に飛び込んでいった。
(ほんと、お前は変なスキルばっか持ってるよなあ)
「まあ、アイツらからはあんまり分け前をもらえなかったからね」
スキル一覧を開いてみる。
<穴掘り :LV12>
<運搬 :LV11>
<レンガ積み:LV14>
<釘打ち :LV18>
・
・
・
ドミニムさんの大工仕事や、町の土木作業。
本業がどっちか分からなくなるほどの働いた僕の副業が、まさかこんな形で役に立つとは。
そんなことを考えていると、小人たちの賑やかな歌が段々大きくなってきた。
穴をのぞき込むと、ヘクターは罠用の網のようなものに入れられ、垂直の壁を歩いて登る小人たちによってこちらに引き上げられている。
「キョウモ、イイシゴトシタナー!」
実行してから1分も経たないうちに、ヘクターは穴から運び出され、僕の前で寝転がっていた。
仕事を終えた小人たちがタブレットに帰って行く。
「さて、とまずはコイツが起きる前に縛らないと」
(あ、マスター、それなら良いアプリがあるです)
「へえ! どれ!?」
(はい、それではデスクップの『固着カメラ』というアプリを……)
なぜか始まった僕とヘクターの下らない戦い。
見ての通り、僕もアイツも何を得ることもなく、無事に幕を下ろしたのだった――。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
この二人のバトル、元々は全く違う展開でした。
しかし、今回の投稿に当たりあちこちを直していった結果、結局ほぼ全部を書き直すという羽目に……
ちなみに初稿では足癖の悪いヘクター君に剣のパリイでカウンター、膝下ザクーで戦闘不能、という落ちでした。
ただソレだとなんか捻りが足んねえよなあ!? となり、こんなギミックになったわけです。
まあ、ちょっと強引な展開かもしれませんが、多くの人が忘れていたであろう『平時モード』をオチに使えたのは割と満足してます笑
さて、次話は色々とネタバレが始まる回となります。ぜひ、お楽しみに!
【お願い】【超お願い】【ほんとにお願いします】【モチベ大事です】
☆やブクマして頂けますと作者のやる気が100倍になります!(断言)
軌道に乗ればこちらの作品も挿絵を入れていきたいと思います。(過去話にも入れ始めました!)
どうかよろしくお願いします!!




