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第27話 オーギル防衛戦・9

 僕を殺そうと襲いかかってきたのは元パーティーメンバー、ヘクター。

 その前に立ちはだかったのはエドール家に使える武官メイド、ミネルバ。

 その1対1――いや、1対2の戦いは、一方的なものになりつつあった。

 いまだ無傷のヘクターに対し、ミネルバはすでに満身創痍。

 そして何より、ブランクのある彼女は――スタミナが尽きかけていた。


「ほらほら、息が上がってきてんぞー?」


 煽るような声とともに、ヘクターの赤い剣がミネルバの肩口を襲う。

 何とかつかで受け止め、致命傷だけは避けるミネルバ。

 だが、剣のギザギザ部分が左肩を掠め、また傷を増やしてしまう。


「くっ、このおっ!」


「おっと! 足元ががら空きだぞっ、と」


 小さな傷に気を取られた隙を突き、今度は炎の化身が火球を足元へ放った。

 バックステップで直撃こそ回避したが、地面に着弾した火球が爆発を起こす。

 熱と石礫いしつぶての散弾が、容赦なくミネルバへ降りかかった。


「ぐあっ!」


 ついに本物の『敵』となったヘクターと、スレイアに似た炎の化身。

 息の合ったコンビネーションで、じわじわとミネルバを追い詰めていく。

 もう彼女に反撃する力はほとんど残っていない。

 なのに、ああやっていたぶり続けるのは僕に絶望や恐怖を味わわせようとしているに違いない。


 ……だけど、そうはいかない。

 たしかに、新たな力を手に入れたヘクターと『炎の魔女』は強力だ。


(マスター、運動能力回復までもう少しです!)


(あいつが遊んでくれてるお陰で<対象>もガッツリとゲットできたぜえ)


 でも、この二人がついている限り――

 僕が負けることなんてあり得ない。

 だから今は、ミネルバを信じる。

 立ち上がれない振りを続け、少しでも早くこの身体に力が戻るのを待つんだ。


「はっ。何だよ、あれだけイキっといてもう終わりかあ?」


 大斧を杖代わりにして何とか体を支えるミネルバは、それでも僕を庇うように前へ立つ。

 全身の傷から血がとめどなく流れていた。

 両脚を包むハイソックスも、元の白より赤い部分の方が多い。

 もう立っていられるのが不思議な状態だ。


「ふ、ふん、一体アンタは何をした? 悪魔とでも取引したってのかい」


 それでもなお、主人の友人のために身を差し出せる。

 ミネルバのセルフィナへの忠義は、一体どこまで深いのだろう。


「お前ごときに、このアタシは負けないよ」


「そんなフラフラで何ほざいてんだ? ああッ!?」


「アタシは、ミネルバ=ガリアルド。エドール家に仕える誇りある武官メイド!」


 最後の力を振り絞り、ミネルバは大斧を振り下ろす。

 ――が、その攻撃はあまりにもスローで、ヘクターにはかすりもしない。


「バカが。どこを狙って――!?」


 ヘクターがその無駄な攻撃をあざけった瞬間、地面が爆発した――!


「うがあっ!」


「ははっ。あ、アタシの爆勇大斧ブレイバー・ブローヴァの味はどうだい?」


 ミネルバの空振りはフェイク。

 その一撃で、Aランク神具アイテムの特殊効果でヘクターに一矢報いることに成功したのだ。


 しかし、その代償も大きい。

 あの特殊能力は最初に攻撃した相手を吹き飛ばし、その爆風に集団を巻き込むというもの。

 あの至近距離で使ってしまっては彼女も無事では済まないはず。


「ほ、ほら掛かってきなよ、も、もう一発……食らわしてやるからさ」


 そんな、立ち続けるどころか、命がまだあることすら奇跡的な状況。

 なのにまだ、ミネルバの戦意は折れない。


「こ……このクソがあああああっ!」


 その姿勢を見せつけられたヘクターは苛立ち、立っているのがやっとのミネルバに近づいていく。

 そして、鈍い衝撃音が響く。

 ミネルバの鳩尾みぞおちへめり込む爪先。

 衝撃に耐えきれず、誇り高きエドール家の武官はついに膝をつく。

 まだまだ腹の虫が収まらないのか、ヘクターの足は再び衝撃音を響かせ始めた。


「おらッ! おらッ! 俺を見下してんじゃねえぞこのアマ! くそッ! どいつも! こいつも! 俺のことをッ! 舐めやがってッ!」


 暴言とともに繰り出される蹴りの嵐を、ミネルバは防御できない。

 膝立ちの姿勢のまま、ただただ浴び続けた。


「も……もうやめろヘクターっ!」


「……ああん?」


 死にかけていた男から突然声が上がり、ヘクターは虚を突かれたらしい。

 蹴り足を止め、こちらへ視線を向けてきた。

 同時に、体力の限界を迎えたミネルバが、前のめりに倒れていく。


(マスター! 運動能力の回復を確認しましたです!)


「――ミネルバっ!」


 報告と同時に僕は飛び出し、急いで彼女を抱きとめる。

 血と火傷にまみれた全身。ボロボロのメイド服。

 その姿に、僕は『本当の強さ』を感じた。


 ――僕が最初に感じた印象ものは、やはり間違いではなかったんだ。


(ば、バカ! まだ早えよ!)


 そんなことは分かっている。

 運動能力は回復したけど、事前準備プログラミングは何もしていない。

 このまま戦えば、ミネルバと同じ目に遭うだけだろう。


 もし僕がもう少し賢ければ、もう少し気絶した振りを続けたはず。

 その隙に対ヘクター用プログラムを組み、万全で挑んだだろう。


 だけど、誇りある敗者(ミネルバ)を傍観するだけの僕を、僕はこれ以上許すことができなかった。

 こうなれば後はもう、どうにかするしかない。

 自分の魂の声の赴くままに――!


「どけよ。まだ蹴り足りねえ」


「もう、止めろよ。君の勝ちだ」


「『不明クズ』が。死にぞこないの分際で俺に指図しようってのか?」


「……君は、みんなに認めて欲しいんだろ?」


「ああ?」


 衝動に負けたのは事実だ。

 だが、まったく勝算がないかと言えば……実はそうでもない。

 なぜなら、僕はヘクターという人間をよく知っているからだ。


 向こうは僕のことなんて知らないだろう。

 いや、知ろうとも思わなかった、というのが正しいか。

 でもこっちは捨てられないように3年間、あいつを観察し続けてきた。

 いくら強くなっても、内面までは急に変われない。

 なら――そこへ語りかければいいだけだ。


「さっき、自分で言ってたじゃないか。見下すな、舐めるな、って」


 僕の言葉に、ヘクターの目つきがさらに険しくなる。

 反射的に逸らしそうになったが、目に力を込めて踏みとどまった。

 顔を覗かせかけた過去の弱い自分を、強引にねじ伏せる。

 そして、言葉を続けた。


「何があったのかは知らないけど、君は強くなったよ。4日前とは、まるで別人だ」


 お互いの視線がぶつかり続ける。

 決して目はらさない。


「だけど弱い者いじめしかできないなら、誰も君を認めないだろうね」


「言わせておけば……この『不明クズ』がっ!」


「残念だけど僕はもう、『不明アンノウン』のロイドじゃない。さっきは卑怯な不意打ちで不覚を取った。でも正面からなら、君なんかに負けないよ」


 挑発めいた言葉を重ね、正面からの戦いへ誘っていく。

 格下だと思っていた相手に傷つけられたプライドが、不意打ちの勝利だけで埋まるはずがない。

 本当はヘクターだって、僕に実力を出させた上で完膚なきまで叩きのめしたいはずだ。

 もちろん僕だって、あんな勝ち方(パンチ一発)じゃ全然すっきりしてないのだから。


「例えそれが――そこにいるスレイアとの2人がかりだったとしてもね」


 僕は『炎の魔女』を指差し、カマをかけてみた。

 根拠はない。だが、直感が告げている。

 あれは間違いなく、スレイア()()()()()だ。


「……随分とお喋りになったじゃねえか」


 ヘクターは肯定もしないし否定もしない。

 だけど、だからこそ確信できる。違うなら失笑か嘲笑か、見下す態度を取るのがヘクターだ。

 あれは、スレイアだ。


「元々はこんな感じなんだよ。君たちのお陰で、随分と卑屈にされちゃったけどさ」


「ちっ。やっぱりムカつくな、お前」


 たもとを分けてこそ、腹を割って話せるようになる。なんという皮肉だろう。

 ヘクターの敵意は少しも変わっていない。

 だが、それでも、こちらの考えに何かが触れたことだけは伝わった。


「5分だけ、時間をくれ。そうしたら、君を思いっきり負かしてやるから」


「本気で来い。俺がお前を殺してやる」


 もうそこからは、二人とも言葉を交わさなかった。

 僕はタブレットを取り出してプログラムを組む。ヘクターはスレイアらしき存在に何かを仕込む。互いに万全を整えていく。


 今日はこれが最後の戦いになるだろう。

 後ろで戦っている皆には悪いけど、もう温存なんて考えない。


 一瞬、『なんでもナビ』で戦況を見たくなった。

 後方からは激しい戦闘音が聞こえてくる。

 防衛ラインは、まだ機能しているのだろうか。


 そこで頭を振り、今の自分に余計な情報を入れる余裕はない――と思い直し、最終チェックを優先する。


 ミネルバが体を張って引き出してくれた敵の<行動>は、すべてこの中に入れ込んだはずだ。きっと大丈夫。


 タブレットから顔を上げる。ちょうどヘクターの視線とぶつかった。

 無言のまま、頷き合う二人の男。


「<防御モード>へ変更。<対ヘクタープログラム>、<実行>」


 ランクアップで使用可能になった『音声でのモード変更とプログラム呼び出し』を使い、たった今作ったばかりのプログラムを起動する。


(マスター、ご武運を! です!)

(俺様を使っておいて、もし負けたら承知しねえからな!)


 この戦いに勝っても、賞金や賞品があるわけじゃない。

 得られるものは、せいぜい精神的な充実感だけ。

 なのに賭け金だけは命を要求される。最高にくだらない本気の喧嘩だ。


 あーあ。

 こんな非常時に内輪揉め(ケンカ)をしていたなんて知られたら、皆がっかりするだろうなあ。


 やるべきことを放り投げ、感情のまま傷つけ合う。

 こんなの、どう見ても子供の振る舞いだ。そう思われても仕方ない。


 ……でも、大人になり切れない僕らには、こんな終わらせ方しかできない。


 だから皆には、あとでちゃんと謝ろう。

 そのためにも、生きて帰る。絶対に。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

長かったオーギル防衛戦編ももうすぐ完結!

二人の勝負の行方は!?この事件の黒幕は!?

え?可愛い女の子成分が足りなすぎ?それは……まあ、今後にご期待ください、ということで……

次話、『得るモノ無き戦い』をお楽しみに!


☆やブクマして頂けますと作者のやる気が100倍になります!(断言)

軌道に乗ればこちらの作品も挿絵を入れていきたいと思います。(過去話にも入れ始めました!)

どうかよろしくお願いします!!

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