第26話 オーギル防衛戦・8
「ロイドっ!」
ギインッ!
僕に襲い掛かったヘクターの刃は、割って入ったミネルバの大斧によって止められてしまった。
そして刃同士を合わせたまま、二人は力比べに移行していく。
「おい、筋肉女。邪魔すんじゃねえ」
「あ……アンタ、何を考えてるんだい? ロイドはアンタを助けに……」
「ロイドぉ? 誰だそれ」
「ば、バカなことをっ……お前ら、知り合いなんだろう!?」
「あー。そう言えば思い出したわ。確か、『不明』のクズがそんな名前だったような気がするなあ」
「し、漆黒の板はもう覚醒したんだ。ロイドの『不明』は、も、もう悪名じゃないよ」
全力で力を込めるミネルバ《Aランカー》を平然とした態度で押し込むヘクター《Cランカー》。
「な、なんて力だい」
ミネルバの膝が折れていく。
「はっ、妙な格好してるからどんなもんかと思ったが、所詮は女か」
目の前で起きていることが信じられない。
あのヘクターが、サンダーリザードに無様に逃げ出したあの男が――
遥か格上のはずの相手を互角以上の力で押し込んでいる。
……いや、目の前で起きている現実は認めなければ。
それがどんなに、信じられなくても。
「待てっ!」
「ああ?」
ヘクターは、このわずか数時間の間に『別人』になったのだ。
そう、まるで『タブレットが覚醒した僕』のように。
「うおっとぉ!」
僕の放った突きをヘクターは飛び退いてかわす。
「おいおい、いきなり危ねえだろ」
プログラムを使わない僕の攻撃が簡単に当たるとは思っていない。
その前にコイツには、聞きたいことが山ほどある。
「ロイド、そいつはまともじゃない! あたしに任せてくれ!」
「いいんだ、ミネルバ。これは僕じゃないとダメなんだ」
「ほう、分かってんじゃねえか」
「ヘクター、本気でやる気なのか」
僕との殺し合いを。
「ああ。俺はお前がムカついてムカついてしょうがねえんだよ」
ヘクターが再び間合いを詰めてくる。
「今すぐぶっ殺してえくらいにな!」
そう叫びながら、禍々しい剣を振り下ろした――!
「おわっ!」
スレスレのところで何とか斬撃をかわす。
そしてすぐに飛び退き、ヘクターの攻撃範囲から離脱した。
「ちっ、チョロチョロしやがって」
「ヘクター、スレイアはどうしたんだ。一緒だったんじゃないのか」
「さあな」
「それに、『銀の剣』は?」
僕の質問にヘクターは「はあーっ」、と大きなため息をつく。
「……お前、いちいちうるせえんだよ」
その言葉には、激情や怒りとは違う――なにか昏いモノが滲んでいた気がした。
「そいつらがどうなろうが、『不明』には関係ねえ」
「僕は『元』パーティーメンバーだ。無関係って程でもない」
「黙れ、俺はてめえを仲間だなんて思ったことは一度だってねえんだよ!」
僕が何かを話すたび、ヘクターの苛立ちは大きくなっていく。
「ちょっと強くなっただけで随分と偉そうになりやがってよお」
「待って、ちょっと落ち着いてくれ」
「うるせぇっ!」
と叫び、ヘクターが飛びかかってくる。
「くそっ! <防御モード、対剣士プログラム>っ!」
「とっとと――死ねやっ!」
ギインッ!
殺意を込めて最上段から振り下ろされた斬撃。
だが、それは僕の武器回避により剣の横腹をはたかれ、あっさりと軌道をずらされる。
「この不明があっ!」
今度は下段から逆袈裟斬り。
手前側にずらすように弾かれ、僕の体を通らずに脇をすり抜けていく。
「死ねっ! 死ねっ! 死ねぇっ!」
今度は横薙ぎ――。
更に、袈裟斬りからの逆袈裟の連続攻撃が飛んでくる。
だけど、やはりどれも僕の体には届かない。
「な、何ぃ……」
「はあっ!」
隙を見せたヘクターを、今度は逆に僕の剣が襲う。
「ちぃっ!」
それをバックステップでかわすヘクター。
魔物の中にもリザードマンのように剣を使う種族がいる。
一応、対剣士プログラムを作っておい正解だったな……。
「ヘクター。これ以上やっても無駄だよ」
「何だと?」
「今ので分かっただろ。君の攻撃は僕には通用しない」
「……」
「このままやれば、君が死ぬ」
とは言ったものの、さすがに人殺しはしたくない。
穏便とまでは行かなくても、殺し合いだけは避けたい。
そのために、今はとにかく話を聞いていくしかない。
「なあ、一体何があったんだ」
僕の言葉をヘクターは黙って聞いていた。
「今、オーギルが大変なことになってるのは知ってるだろ」
眉間に皺を寄せ、唇を真一文字に結び、僕を睨み続けている。
「僕は逃げない。これが終わったらいくらでも相手になるよ。だから……」
「…………。く……くく。くくく。あは、はははははははっ!」
だから、もう、やめてくれ――
僕のそんな願いは、ヘクターの高笑いと共に、あっさりと吹き飛ばされてしまった。
「俺から逃げない? 通用しない? バッカじゃねえのか、『不明』の分際でよ!」
もしこれが『何かに操られている』とか『明らかに正気を失っている』という状態だったなら、どれだけ救われただろうか。
だけど、残念ながら――
彼の表情は嫌になるくらいに見せられた、あのヘクターのものだった。
「お、おい……こいつやっぱりイかれちまってんじゃ……」
「いや――あいつは正気だよ。狂気を失うくらい、僕のことが嫌いみたいだ」
「ははっ! 分かってんじゃねえか! この『不明』野郎が!」
「ロイド、こいつはもうダメだ。ここで『処分』しちまった方がいい」
処分、つまりは……。
「ほー。俺を殺す、ってか。そりゃあいいや」
「な、何だありゃあ!」
「だがな、こいつを食らっても――」
(ま、マスターっ! 新たな敵反応! 急いで防御姿勢を取ってくださいですっ!)
「――そんな口を叩けるかッ! このクズどもがぁッ!」
「ミネルバっ! 下がって!」
叫ぶと同時に全力で後退する。その直後――
僕のいた場所の地面が『爆発』した。
凄まじい轟音と同時に全身を衝撃波が襲う。
踏ん張る暇も無く、僕とミネルバは空中へと投げ出されてしまっていた。
「かはっ!」
背中から地面へと叩きつけられても尚、爆風の威力は失われず僕の体は激しく地面を転がり、そして何かにぶつかって――ようやく止まった。
「おい! ロイド! しっかりしな!」
いや、止まった、ではなく……
正しくはミネルバが止めてくれていた。
どうやら彼女は上手く着地をして僕を助けに来てくれたらしい。
「ゴホッ! ゴホ、ゴホッ!」
大丈夫、と返そうとしたけど呼吸が上手く出来ず、言葉にはならなかった。
タブレットからはしきりにヘルプが撤退を促している。
そうしたいのは山々だけど――
全身が痺れて、指一本すら動かせない。
「死ねやっ!」
ヘクターの追撃が迫る。
「させないよっ!」
僕の前にミネルバが立ちはだかった。
『逃げて』と伝えようとしたけど、やっぱり声にはならない。
「どいてろ、女ァ!」
「ぐあっ!」
ミネルバの巨体が、軽い一薙ぎで吹き飛ばされた。
「……なんだ、アレは」
ぼやける視界に『敵』の姿が映る。
ニコニコと笑って、ゆっくりとこちらへ近づいてくるヘクター。
それと……ヘクターの傍らに立つ、もう一人の……人物。
体中が燃え盛る火炎でできたような人影。
その姿は、三年前から毎日のように見ていた――
あの『女性』によくにていた気がした。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
☆やブクマして頂けますと作者のやる気が100倍になります!(断言)
軌道に乗ればこちらの作品も挿絵を入れていきたいと思います。(過去話にも入れ始めました!)
どうかよろしくお願いします!!




