第24話 オーギル防衛戦・6
*
――赤い点が次々に消えていく場所にミネルバがいる。
そう推測した僕は、その地点へ向かって走っていた。
「くっ、彼はなぜあんなことを……痛ぅっ!」
「しっかりしろ、ライアン!」
道中で、仲間に肩を貸され、足を引きずって本陣へと向かう冒険者とすれ違う。
「へ、ヘクターめ、絶対に許さないぞっ……!」
「いいから喋んな!」
すれ違いざまに耳に入った名前に、僕の足は思わず止まってしまった。
「いま、ヘクターって言いました!?」
「何だあテメエ! 俺たちは急いで……って、ロイドじゃねえか!」
よく見ると、ギルドでヘクターとの決別を最初に褒めてくれた二人だった。
「へっ、お前の『元』仲間は本当にどうしようもねえな」
スキンヘッドの大男は心の底から呆れたように吐き捨てる。
「アイツ、何をしたんですか」
「彼は……いや、彼らは……作戦にことごとく反抗したんだ――」
――ケガ人相手に長話をするわけにも行かず、聞けたのはかいつまんでの話だけ。
それでも、ヘクターたちのやったことは擁護のしようが無いものだった。
負傷した冒険者、ライアン曰く、
遠距離部隊と近接部隊に分かれる指示に、『自分たちはパーティーで戦う』と主張。
自分でも勝てるゴブリンが多いと見るや、独断で持ち場を離れて攻撃。
混戦の中で範囲魔法を使い、味方にもダメージを負わせる。
……など、戦闘の流れを台無しにするような行動を繰り返していたらしい。
前線のタンク部隊と後方支援部隊が必死に戦列をコントロールしたというのに……。
そして、しまいには――
「どこに行ったか? 知らねえよ、気付いたらいなくなってたぜ!?」
――とのことだった。
*
「ヘルプ」
二人と別れ、再び走り出した僕は、服の下のタブレットに声を掛けた。
(はいはい、どうかされましたですか?)
「ナビってさ、複数の目的地もいけるの?」
(……残念ながら、目的にできる対象は一つまでです)
「そっか。じゃあ仕方ない」
ちょっとした違和感はあった。
だけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
早くヘクターを連れ帰って、オーギルの危機を救わなきゃ。
――改めて、そう思ったときだった。
「おっ!?」
僕の視界に例のメイド服が入ってきたのだ。
「ミネルバ!」
「ロイド!?」
驚いたような声を上げながら、ミネルバは大斧を振り下ろす。
その分厚い鋼鉄の刃が、槍を突き出そうとしていたオークに直撃した。
「ブギィッ!?」
たったの一撃で、バラバラになりながら吹っ飛んでいくオークの体。
そしてそれが10メートルほど飛んだ辺りで――
「――うわっ!」
轟音とともに、大爆発を起こした。
爆風に巻き込み、今の一撃で10以上は倒したんじゃないだろうか。
「す、すご……」
なるほど、ナビの画面上で赤点がごっそり消えていたのはこれが理由らしい。
「こんなところに、な、何しに来たんだい?」
そう言ったミネルバはだいぶ呼吸が乱れていた。
いや、呼吸だけじゃない。
メイド服は泥で汚れ、あちこちが破け――全身の様々な箇所から出血が見られる。
「いやはや、トシは取りたく、ないっ……もんだ。この程度でっ……息切れ、とはね」
「ミネルバ、一旦下がろう!」
「何、言ってるんだい。せっかく、ここまで……押し返せた、ってのに、さ」
もはや会話すらもおぼつかないらしい。
「僕に任せて! 絶対に何とかするから!」
(マスター! 敵勢力、約50! 断続的にこのゾーンへと侵入してきますです!)
ヘルプに言われ、タブレットを確認する。
自分を示す黄色の北側にあった空白ゾーンに、大量の赤点が染み出してきていた。
僕はミネルバの持ち場を引き継ぐように、前に出る。
いかにも強そうな女戦士の後に出てきたのは頼りなさそうな男冒険者。
魔物に見た目で判断する知性があるのかはよく分からない。
ただ、チャンスだとばかりに襲いかかってくるこの魔物たちを見ると、一応は見た目も考慮しているようだ。
だけど、その認識には大きな誤りがある。
「<オフェンシブモード、起動>」
僕の合い言葉で、懐のタブレットが動き出す。
「<プログラム選択。集団戦、急所狙いver.2.013。>」
力を解放しようと、暴れ出す。
「<実行。>」
そう呟いた瞬間、心の中で何かが『カチッ』とハマった音がした。
「ギイヤァッ!?」
「ギャヒッ!」
「グギャギャッ!」
「こ、これは一体、何が起きてるんだい、ロイド!」
彼女が驚くのも無理はない。
お世辞にも『強そう』には見えない、僕みたいな冴えない感じの冒険者が突然、鬼神の如き戦いを始めたのだから。
「さあ、どうした魔物ども! もっと掛かってこいよ!」
「ギヒャーッ!」
僕の挑発に、いきり立ち、一斉に襲いかかってくる魔物たち。
その手に持った棍棒や石槍が殺到する。
だけど、そんなものが僕に届くことはない。
右手に握った白銀の刃が奔る――。
眉間を、こめかみを、首を、心臓を、はらわたを。
斬って、突いて、払って、叩き斬る。
僕のプログラムが、襲いかかってくる魔物たちをひたすら屠っていく。
(マスター、こちらに流入する敵勢力が20%まで減少しましたです)
「了解、まずはこんなもんかな」
魔物とはいえ、やはり命が惜しいのか。
怖じ気づいたらしく、じりじりと離れていく。
今回のプログラムは『移動』の要素を入れないカウンター用のもの。
これ以上は効果が薄いと判断し、僕はプログラムを『中断』した。
これならしばらくは一般の冒険者たちでも十分に対応できるはず。
そのまま後方に控えていたメンバーに声を掛け、交代してもらうことにした。
「これは驚いたね……。なんて動きだい」
「そんなことより、早く治療しよう!」
僕はミネルバの腕を引いて前線から下がらせると、さっそく彼女の傷を確認する。
「ああ、平気さ。こんなもん、かすり傷だよ」
「どこがだよ! すごい血じゃないか!」
「でも、もうこっちのヒールポーションは使い切っちまったからねえ」
「なら、これを使ってよ!」
懐に入れていた、虎の子の一本をミネルバに押しつける。
「……これはアンタのだろ。受け取れないね」
「僕は大丈夫だから。使ってよ。シモンズさんも心配してたんだから」
「……ちっ。はあ。分かったよ」
ミネルバは受け取ったポーションの蓋を開けると、一気に飲み干した。
心なしか、頬を染まっていたような気がしなくも無い。
ふう、と一息ついた彼女からはさっきまでのような活力が満ちあふれていた。
「ほんと、年は取りたくないもんだねえ」
「3年ぶりなんでしょ? それであれだけ動けるんだもん、凄いよ」
「はは、ありがとう。で、ロイドは何でこっちに来たんだ?」
「その辺は後で話すよ」
敵の勢いが止まった今が絶好のチャンス。
位置は……ここからほぼ真北に行ったところだな、よし。
僕は、ミネルバに「それじゃ」と短く別れの言葉を告げ、走り出――そうとしたところで、肩を掴まれてしまった。
「待ちな!」
「え、どうしたの」
「いや、アンタどこ行こうってのさ」
「どこって。ヘクターのところ。あっちの方で動けなくなってるらしくて」
「はあ? とんでもないヤツだって言われてる、あのヘクターかい!?」
「うん。この持ち場をメチャクチャにしたって。さっき聞いた」
「知ってるなら、なおさらさ! そんなの――」
ミネルバの言おうとしていることは分かる。
要は、ほっとけ、って事だろう。
そうしたいのは山々、なのだが。
「――でも、聞いちゃったから」
「……なるほどねえ。セルフィナ様のお気に入りなワケだわ」
「お、お気に入りって」
なんだろう、ペットとかそういうのだろうか。
「おお? なんだい、少しは気になるのかい?」
「ち、違うよ。とにかく、僕は行くから!」
そう言ってミネルバを振り切り、僕は再び走り出す。
集団からはぐれていたゴブリンが寄ってきたが、無視。
それはなぜか――
移動中はプログラムでの対処が難しいからだ。
ではどういった理由で難しいのか。
ヘルプから受け取った知識から該当しそうな情報を検索してみる。
ふむふむ、なるほど。
プログラムは同時に複数の命令を実行するのが苦手、と。
でも、『並列処理』というものを使えば複数の命令をほぼ同時に実行できるようになるらしい。
もし、この戦いから無事に帰ったら早速色々試してみることにしよう。
あ、でも、その前にアプリとかツールも調べたいかも。
どっちにしても、早くこんな戦いは終わらせて――
「――って! なんで付いてくるの!」
色々考え事をして気を紛らわせてみたけど、無理だった。
ついに僕は、すぐ後ろをぴったり付いてくる斧女の存在感に耐えきれなくなってしまったのだ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
☆やブクマして頂けますと作者のやる気が100倍になります!(断言)
軌道に乗ればこちらの作品も挿絵を入れていきたいと思います。(過去話にも入れ始めました!)
どうかよろしくお願いします!!




