第21話 オーギル防衛戦・3
「これはいかん!」
「なんて数だ!」
左翼側が破られ、その穴から漏れ出てきた魔物たちは数十、いや100にも達していそうな数だった。
そしてソレはいよいよ先端が後方部隊に取りつこうとしている。
だが不幸中の幸いか、その敵影は小柄。
恐らくは最下級の魔物として知られる、ゴブリンだろう。
鈍重なオークやオーガはまだ遥か後方を進んでいるのか、それらしい影は見えなかった。
どうやら、全く統率は取れていないようだ。
エドール邸で聞いた最初の報告。
それで僕は敵は軍隊かと錯覚してしまっていた。
でも、これなら何とかなるかもしれない。
「僕が先に切り込みます! 足を狙いますので、シモンズさんはトドメを!」
「承知した!」
まずは最前線を攪乱している小兵をていねいに潰していこう。
「アイディ! 行くよ!」
(おう、暴れてやろうぜ!)
タブレットの『実行』をタップする。
身体の自由が失われる前に、黒い板を白いシャツの中へ放り込んだ。
直後、潜在能力を強制的に引き出された体が跳ねた。
僕は限界まで引き絞られた弦から放たれた矢のように、敵へ飛んでいく。
「ギッ!?」「ギェ!」「グギッ!」
すれ違いざまに刃が奔る。
ある者は膝を割られ、ある者は腱を斬られた。
そしてある者は腿から下を失い、地を這わされる。
「『噛み砕け、岩牙』!」
間髪入れずにシモンズが細剣を地面へ突き刺した。
気合と共に、鋭い岩石の巨大な棘が地面から飛び出す。
倒れたゴブリンたちが、次々に串刺しにされていった。
恐らく、あれがAランク神具『噛砕岩牙』の固有技なのだろう。
足を殺してしまえば照準に集中力を割く割合も減る。
トドメを刺すのは僕じゃなくて良い。
「やった! ギルド長が来てくれたぞ!」
「うっひょー、なんだアイツ!」
「すっげえ動きしてるぜ!」
「倒れたところをギルド長でトドメかよ!」
「助かったぜ! でも、もう一人のアイツは何者だ?」
「そんなのどうでも良い、今のうちに態勢を立て直すぞ!」
<対集団プログラム>の動作は、非常に快調だった。
夜中まで掛けて作った甲斐がある。
新プログラムの条件はこうだ。
<脚部の耐久力が50%以上> AND <最も近い敵> へ、
<脚部斬り> を実行。
それを<敵の全滅>まで『繰り返す』。
動ける敵の足を斬る。
動けないなら次へ移る。
自動で標的を変え、延々と同じ動きを続ける。
急所は敵も必死で守ろうとするので、どうしても例外処理を多く入れなくてはならなくなる。
そうなるとプログラムがどんどん長くなり、速度やコスト消費に影響してしまう。
つまり、僕はあくまでもお膳立て。直接倒すワケじゃない。
だから、英雄にはなれないだろうけど。
今の僕には、これがベストだ。
「みんな! こっちは僕とギルド長が引き受けた!」
僕は後方部隊へ叫ぶ。
「そのリュックの中にマジックポーションと矢が入ってる! それを使って前線支援を続けて!」
「分かった!」
「助かったぜ! もうカツカツだったんだ!」
背後で一斉に補給へ走る気配が伝わる。
よし、これで少しは持ち直すはずだ。
あとはミネルバが左翼の穴を塞げば、一気に形勢逆転。
――そう思いかけた、その時。
「……きみ……もしかして、ロイドか……?」
背後から、信じられないものを見るような声がした。
――この声には聞き覚えがある。
Dランク神具『強弓』の弓使い、トイーア。
もう二度と聞かないと思っていた、例の三人の一人の声。
ここ3日ほど姿を見なかったが、彼も参戦していたらしい。
旧知の馴染みか、それともムダな好奇心か。
僕は無意識にプログラムを停止し、声のした方向を見てしまう。
そこにいたのはやはり、あの日のアザを包帯もせずに晒していたトイーアだった。
あのプライドの高い男が、僕にやられた『恥の象徴』をそのままにしているとは。
ろくに治療する金もなかったのだろうか。
「ロイドくん、なんだろ?」
僕は上手く返せなかった。
すぐに視線を戦場へと戻し、聞こえなかったフリでやり過ごす。
「なあ、ロイドくんってば」
「おいトイーア、何をしてる! 早く戻ってこい!」
「きみは、本当に強いんだな。その力、隠していたのかい?」
「トイーア!」
「『漆黒の板』の力なのかな? もし良ければそれを僕に見せてくれない?」
周囲から急かされても、トイーアは場にそぐわない言葉を投げ続ける。
何なんだ、こいつは。全く意味がわからない。
「なあってば」
敵は目前まで迫り、前線は崩壊寸前。
謝罪でも昔話でも、どのみち今する話じゃないだろう。
この男は、そんなことすら分からないのか?
「今更こんなこと言うのは虫がいいって分かってるけど――」
「――『もういい』って、あの時言っただろっ」
「で、でも」
「これ以上、僕に構わないでくれ! またぶん殴ってほしいのかよ!」
なぜか、僕の叫びを聞いたトイーアの口の端が微かに持ち上がった気がした。
その表情に苛立ちがさらに募る。
やはり仕返しされたことを根に持っているのか。
邪魔をして、あわよくば死んでほしいのか。
……理由なんて何でもいい。とにかく黙ってほしい。
「いや、違うんだ。そういうことじゃなくて……」
「何だよ。気が散るから話しかけないでくれ」
左翼側の穴は塞がったらしく、ゴブリンどもはまばらにやってくるだけ。
いったんは落ち着いたように見えるけど、敵の主戦力との戦いはむしろこれからだ。
下らない世間話に興じている暇なんてない。
「その、実は……」
さっきまでの意味不明な会話の滑らかさから一転して、急に口ごもり始める。
そして、決心したのか、やっと意味のある言葉を発したのだった。
「……ヘクターを、助けてほしいんだ」
「……は?」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
☆やブクマして頂けますと作者のやる気が100倍になります!(断言)
少しずつこちらの作品にも挿絵を入れていきたいと思います。(過去話にも入れ始めました!)
どうかよろしくお願いします!!




