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第14話 人は見た目じゃ分からない

「あ、貴方が……あの……?」


 セルフィナは目を見張り、口を開けたまま固まった。

 Bランクモンスターのフォレストビーストを、一撃で倒した。

 そんな人間が『不明』のロイドだなんて、夢にも思わなかったのだろう。


 数呼吸の後。

 半開きだった口が閉じ、喉がごくりと鳴った。

 そして目を輝かせたまま、「じ、爺っ!」と執事を呼ぶ。


 執事が返事をする前に、セルフィナは勢いのまま言った。


「彼にぜひ詳しい話を聞きたいわ。まだ時間はあるのかしら」


 執事は胸ポケットから懐中時計を取り出す。

 針の位置を確かめ「ふーむ」と眉をひそめると、普段と変わらない口調で答えた。


「あいにく時間切れのようです。セルフィナ様、この辺りで屋敷へお戻りになった方がよろしいかと」


「そう。では、彼も一緒にお連れしますわ」


 セルフィナは当然のように続ける。


「話の続きは、屋敷に戻ってからにしましょう」


 執事が困ったように視線を僕へ向けた。


「いえ、お言葉ですがお嬢様。ロイド様のその恰好かっこうですと……」


「その程度のこと、エドール家に仕える執事なら何とかしなさい」


「……は。承知いたしました」


 冒険者との交流を禁じられている彼女が、僕を屋敷に招く。

 まして歓談かんだんなんてしたら、大問題になるのは目に見える。

 セルフィナは叱られる程度で済むかもしれないが、僕は分からない。


 だから『その程度』で片づく話じゃない、と思う。

 けれど彼女の中では、招くのはもう決定事項。

 障害があっても『やめる』という選択肢は、最初から無いらしい。


 悪く言えば、ただのワガママだ。

 でも、彼女が言うとワガママに聞こえないのが不思議だった。

 昨日も正面から来られていたら、僕は逃げていたかもしれない。


 彼女の言葉には、妙な引力がある。

 立ちはだかるものを問答無用で打ち倒す猛将もうしょう

 目的に向かって一直線に進む覇王はおう。そんな気配だ。


「ロイド様。この後の予定などはございますか?」


 執事は難題を受けても、表情ひとつ変えない。

 穏やかな声のまま、淡々と問いかけてくる。

 このくらいは慣れっこなのだろう。昨日も振り回されていたし。


「いえ、特にはありませんけど……」


「結構です」


 執事は一度うなずいてから、言葉を添えた。


「それでは申し訳ありませんが、もう少しだけお付き合いくださいませ」


「はあ。別に構いませんが……一体、何を?」


 これ以上ここに留まる時間はない。

 このままでは、彼女のゲストとして屋敷に入れないはずだ。

 さて、どうやってこの難問を抜ける気なんだろう。


「それではセルフィナ様、早速まいりましょう」


 執事が、先導するように言う。


「お召し替えもございますし、急ぎませんと」


「そうですわね」


 セルフィナは少しだけ息を整え、僕を見る。


「行きとは少し違う道になりますの。私たちについていらっしゃいな」


「分かりました」


 二人が歩き出したのは、南西へ延びる林道だった。

 この森に来たのは数えるくらいしかなく、あまり道に詳しくない僕はとりあえず後についていく。


「それで、どうするのかしら」


「ミネルバが来ております」


「……ああ、そういうこと!」


「ただ、お直し物が……」


「構いませんわ。私のをお使いなさい」


「それは……。いえ、おおせのままにいたします」


 前を歩く二人は、主語と述語が抜けた会話を始めてしまう。

 長い付き合いの相手同士だからこそ、通じるやつだ。

 僕は完全に置いていかれた。


 でも、無理に口を挟もうとは思わなかった。

 SS神具(アイテム)持ちと話せる機会なんて、そうそう無い。

 せっかく向こうが場を用意してくれているんだ。台無しは嫌だ。


 だから口を閉じて、歩くことだけに集中する。


「……」


「……」


 歩いているうちに、会話はぱったり途切れた。

 主従しゅじゅうだから、余計な会話を控えるのもあるだろう。

 それに、セルフィナの息がかなり上がっている。


 普通のペースのつもりでも、僕が追いつきそうになる。

 さすがに心配になって、つい声をかけた。


「セルフィナ様、大丈夫ですか?」


「え、ええ……」


 セルフィナはぜえぜえしながらも、上品に汗を拭う。


「だいぶ体が、なまって、いるよう、ですわね」


 この持久力じきゅうりょくの無さを見るに、普段から戦ってはいない。

 今日はダンスホール準備で目がれたすきに、抜けたのだろう。

 いわゆる『おしのび』ってやつだ。


「セルフィナ様、もう少しの辛抱しんぼうにございます」


 執事が静かに励ます。

 僕も、できるだけ軽く言ってみる。


「重いものがあったら、僕に預けても大丈夫ですよ」


 少し笑って、続けた。


「自慢じゃありませんが、荷物持ちには慣れてますから」


「ふふ。お気持ちだけ頂いておきますわ」


「え、でも……」


「平気……ではありませんが」


 セルフィナはそこで区切り、前を指差した。


「ほら、御覧ごらんなさいな。第一の目的地は、もう見えておりますのよ」


 指し示した先には、一軒の小屋があった。


「あの小屋ですか。この町の周りに、あちこちありますよね」


「ええ」


 執事が当たり前みたいに言う。


「あの小屋は、セルフィナ様のご指示で建てられたものなのですよ」


「ええっ! そうなんですか!?」


 思わず声が裏返る。


「僕、知らずに使っちゃってました!」


 ここ3年で、気づけばあちこちに建っていた小屋。

 住人もいなければ、誰かが権利を主張するでもない。

 討伐とうばつ前の冒険者に都合が良すぎて、最初は罠を疑った。


 でも結局、便利さには勝てない。

 いつの間にか冒険者たちは、我が物顔で使うようになっていた。


「あら、そうだったの」


 セルフィナが口元を隠して笑う。


「では貴方には、使用料を払って頂くことになりますわね」


「し、使用料……ちなみに、おいくらほどで」


「うふふっ、冗談ですわ」


 彼女はさらりと言い、続ける。


「お金を頂くつもりなんて、最初からありませんのよ」


「じょ、冗談? ……はあ、驚かせないでくださいよ……」


「確かに元は、私の拠点にするつもりでしたけど」


 セルフィナは少しだけ遠くを見る。


「建物としては、貴方がたが有効に使う方が喜ぶでしょう?」


 そして、言葉を柔らかく結んだ。


「ですから、これからも役に立ててもらえると……私としても嬉しい限りですわ」


「……ええ。みんな、感謝していると思います」


 これから結婚する彼女に、どんな人生が待つのか。

 僕には想像もできない。

 でも一つだけ、はっきり言える。


 この小屋を建てさせた本人が使う機会は、もう二度とない。

 彼女の言葉ににじむのは、寂しさか、諦めか。

 人と交わるのを避けてきた僕には、真意は読み取れなかった。


「さあ、着きましたわよ!」


 考えても解けない問題を、ぐるぐる回しているうちに。

 気づけば僕たち三人は目的地に着いていた。

 老執事が洗練された動きで前に出て、ドアを開ける。


「お帰りなさいませ、セルフィナ様」


 メイド姿の3人が、綺麗なカーテシーで出迎えてくれた。

 人生で「お帰りなさいませ」を聞く機会なんて、何回あるだろう。

 貴重な体験……のはずだった。


 でも僕の視線は、3人のうち1人に釘付けになった。

 それどころじゃなくなってしまった。


「お嬢様。こちらの方は?」


 初対面の男に見つめられたその女性は、野太い声で警戒を見せる。

 ……メイドってもっと華奢きゃしゃで、しなやかなものだと思っていた。

 でも、あの人は明らかに違う。


 一言で言うと、『強そう』。

 傷だらけの彫り深い顔。

 機能性きのうせい重視で露出が多めのメイド服から、筋肉がはみ出している。


挿絵(By みてみん)


 腕も、脚も、首まで太い。

 そのうえ背中に、でかい斧まで背負っている。

 メイドに化けた暗殺者……? いや、さすがにバレバレだろ。


「あら。ロイドったら、一体どうしたのかしら」


 セルフィナが不思議そうに笑う。

 執事が、さも当然のように補足した。


「お嬢様。ミネルバと初めてお会いする方なら、至って正常な反応かと」


「み、ミネルバ……さん?」


 どこかで聞いたことがあるような、ないような名前だ。


「そう。この子はミネルバといいますの」


 セルフィナは胸を張る。


「とても優秀なメイドですのよ」


「ミネルバです」


 ミネルバは姿勢を正し、はっきり言う。


「お嬢様のお客様とは知らず、失礼いたしました」


「あ、いえいえ。こちらこそ、すみませんでした」


 ミネルバが深々と頭を下げる。

 つられて僕も、同じくらい深く頭を下げた。

 胸元を見れば、やっぱり女性で間違いない。なのに失礼すぎた。恥ずかしい。


「お2人とも、ご挨拶は後にしましょう!」


 セルフィナが、上品さを保ったまま声を上げる。


「今は時間がありませんわ。みんな、すぐに支度したくを始めてくださる?」


「はい、お嬢様」


 返事とともに、メイドの三人は一斉に動き出した。


「ああ、それからミネルバ。少し耳を貸してくださらない?」


 セルフィナはそう言って、ミネルバの耳に顔を寄せる。

 ガントレットを外していたミネルバが、動きを止めた。

 そして、何事かささやかれる。


 話を聞いたミネルバの顔が、みるみる曇っていく。

 けれど最後に「ね、お願いしますわ」と押され。

 結局「承知しました、セルフィナ様」と言わされていた。


 ……この時の僕は、完全に他人事だと思っていた。

 何が嫌なのかは分からない。

 でも、あの人もいつもこうやって振り回されるんだろうな、と。


 だけど、あの内緒話の内容は。

 僕にもがっつり関わることで、しかもすぐに現実になる。

 このわずか10分後、僕の悲鳴ひめいとともに明らかになるのだが……。


 その時のことはもう、思い出したくない。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

☆やブクマして頂けますと作者のやる気が100倍になる!…かもしれません。

軌道に乗ればこちらの作品も挿絵を入れていきたいと思います。

どうかよろしくお願いします!!

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