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第13話 SSランク

「ほらっ! 何をぼーっとしてますのっ! 魔物のボスがそちらに行きましたわよ!」


 重装備の相手は分が悪いと見たのか。

 フォレストビーストは唸り声を上げる。

 人の三倍はありそうな巨体を翻し、こちらへ飛びかかってきた。


「あ、えーっと……『三段突き』っ!」


 森に響く彼女の声に引っ張られ、慌てて起動する。

 さっき『音声条件』に登録したばかりの攻撃プログラムだ。

 ――次の瞬間、右腕が限界まで引き出されて跳ねた。


 剣先が超高速で突き出される。

 大口を開け、舌と涎を垂らして迫るケダモノ。

 その眉間を、寸分違わず打ち抜いた。


 三段突きなんて軽い名前に似合わない。

 急所狙いの高速三連突きが、間髪入れず続く。

 一段目の次は喉、そして三段目は心臓だ。


 作りたての新技で、容赦なくフォレストビーストの命を刈り取る。

 巨大な獣は、重たい音を立てて地面へ落ちていった。


「ふうっ。これでひと段落、かしらね」


 女性は倒れた巨体を見て、生命活動が止まったのを確かめる。

 傍に控えていた『爺』が、そっとハンカチを差し出した。

 彼女はそれを受け取り、上品に額の汗を拭っていく。


「周りの魔物が逃げていくみたいですよ。どうしますか?」


「捨ておきなさいな。小者をいくら狩ってもキリがありませんもの」


 彼女はハンカチを畳み、落ち着いた声で続けた。


「それに、森の奥への深追いは危険ですわよ」


 プレートアーマーにグリーブ、ガントレット。

 騎士の防具で身を固め、金髪を後ろで結わえた少女。

 その姿でレースのハンカチを使うのが、妙にちぐはぐだった。


「そうなんですか? 逃がしちゃって大丈夫なのかな……」


「……貴方、おかしなことを仰いますのね」


 少しだけ眉をひそめて、言葉を重ねる。


「この手の知識は、冒険者なら常識ではなくて?」


「あ、いえ……すみません。実は、こういうのって経験がなくて」


「あら。あれだけの腕があるのに、意外ね」


「いえ、僕なんて全然です」


 正直、色々訳アリすぎる僕はあまり経歴についてツッコまれたくない。

 なので、自分からセルフィナへと話の軸をずらすことにする。


「それより、その『妖精王の居城オベロンズ・キャッスル』の方こそ……本当に凄かったです」


「ふふ。これでも力の三割も出していなくてよ」


「あ、あれで? さすがはSSランクの神具アイテムですね……」


 世界に50個とないSSランクの神具アイテム

 その数少ない所有者であり、今回の依頼主でもある彼女を訪ねて屋敷へ赴いた僕を待っていたのは――

 本人ではなく例の老執事だった。


 「お嬢様がお待ちです。こちらへ」とだけ発した執事に付いて行くと、着いた先は町の東にある森の中。

 そして、そこにはエドール家の長女がフル装備状態で仁王立ちしていたのだった。


 そんな彼女の放つ、不可視の槍で、矢で、剣で。

 穿たれ、貫かれ、切り刻まれて倒れる魔物たち。

 触ることすらできずに、ただ絶命していくのみ。


 白銀に輝く戦衣装は、昨日の青いドレスと別人みたいだ。

 けれど黄金色に光る盾型の神具アイテム、右手の『妖精王の居城オベロンズ・キャッスル』が彼女が本人であることの間違いない証拠だった。


「でも、こんな場所で一体何を? 指名依頼って聞いて来たんですが……」


「あら。これが依頼ですわよ?」


 彼女は平然と、森を見回して言う。


「森に巣食う魔物たちを討伐してもらいたかったのですから」


「え……僕、要りました?」


「ええ。これをやったのは私ではない、ということにしませんと」


 執事が控えめに咳払いし、僕へ頭を下げる。


「その……この件はロイド様がお一人でなさった、ということにして頂けないかと……」


「ああ、そういう事ですか」


 ようやく事情がつながった。

 婚約を控えた箱入り娘が森で大暴れしていたと知れたら。

 良い顔をしない人も、きっと大勢いるだろう。


 ただ、手柄の替え玉なら他に適任もいそうだ。

 なのに、どうして僕なのか。

 口から、素直に疑問が出た。


「……なぜ僕に?」


「ロイドに何か、違うものを感じたからですわ」


 背筋にぞくっとしたものが走る。

 喜びじゃない。タブレットがバレたのか、という怖さだ。

 彼女なら問題ない気もするのに、心臓は正直だった。


「……と、言いたいところなのですけれど」


 セルフィナは、少しだけ言い直すみたいに区切った。


「私は冒険者の方々と交流を禁じられておりますの」


「な、なるほど。たまたま知り合ったのが僕だった、ってことですか」


 絶妙なフェイントに、内心で胸をなで下ろす。

 びっくりさせないでくれよ、と心で突っ込みつつも。

 僕は平然を装って、話を続けた。


「分かりました。ただ……僕は実績が少ないです」


 言い淀んで、正直な不安も添える。


「周りに信じてもらえるかは、保証できませんけど」


「ふふ。依頼内容は()()()()ありますもの」


 セルフィナは、さらっと言う。


「わざわざ自分から話す必要はありませんわ」


 さらに、軽く肩をすくめる。


「聞かれたら『自分がやった』と答えてくれれば、それで結構ですのよ」


「あ、それでああいう依頼内容だったんですね」


「そういう事ですわ」


 最初から彼女の筋書き通り、というわけだ。

 こちらも滅多に見られないSS神具(アイテム)を見せてもらえたし。

 それはそれで、かなり貴重な経験だった。


「それで……どうしてこんな事をするんです?」


 僕は、遠慮がちに踏み込んでみる。


「セルフィナ様なら、ご自分で動く必要もないと思いますけど」


「……そうですわね……」


 彼女は少し間を置いて、曖昧に笑った。


「まあ、色々ありますのよ。私にも」


「はあ」


 要領を得ないけど、これ以上は聞くな、ってことだろう。

 ドミニムの話では、彼女は二日後に婚約が成立する。

 なら、僕が関わるのもこれっきりかもしれない。


 汗を拭き終え、彼女はハンカチを執事へ返した。

 そのとき小さな異変に気づいたらしく、「あら?」と声を上げる。


「ロイド! その剣、刃こぼれしてますわよ!」


「ああ、これは人具ヒュテムの安物ですから」


 珍しく声を張り、彼女が剣を指さす。

 何に慌てているのか分からないけど、これは中古だ。

 銀貨五枚で買った品なら、限界も早い。


 加えて、タブレットで強化された力で振ったのならなおさらだ。

 二回の戦闘で二十回ほど使っただけで、修理が要る。

 財政的には少し痛いけど、想定内とも言えた。


「え? ロイドの神具アイテムは、その剣じゃありませんの?」


 セルフィナは信じられない顔をする。


「あんな剣捌き、神具アイテムなしで出来るものなのかしら……」


「ああ、そういう事ですか」


 僕は懐に手を入れ、例の黒い板を取り出す。


「実は、僕の神具アイテムはこいつなんです」


「黒い……板……?」


 彼女の瞳が、また大きく開いた。


「ロイド、貴方……もしかして――!」


 タブレットを見せた瞬間、反応は確信に変わる。

 悪い意味で有名なのは伊達じゃない。

 とはいえ、SS持ちのお嬢様にまで噂が届いているとは思わなかったけど。


「そうです。僕がダメな方の『不明』を授けられた、不明アンノウンのロイド・アンデールですよ」

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

☆やブクマして頂けますと作者のやる気が100倍になる!…かもしれません。

軌道に乗ればこちらの作品も挿絵を入れていきたいと思います。

どうかよろしくお願いします!!

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