冷たくて苦いミルクティー 熱く甘くない缶コーヒー
嬉しさと
切なさと
躊躇いと
愛しさと
全てが一つになったなら
こんな味がするんだろうか
春先特有の冷たい風が吹き抜ける夜の公園。
深夜になろうというのに明るく輝いている街の光が視界の端にぼんやりと映り込んでいる。
けれど僕の意識は、そんな眩い光よりも輝いている君の姿に囚われていた。
冷えた身体が温まるように、と自動販売機で買ったミルクティーを君に手渡す。
「ありがと」
彼女の指先が僕の指先に触れて、ミルクティーを飲んでもいないのに、身体の中が熱くなる。
学生の頃は地方に居た僕。
学生の頃は都会に居た君。
仕事で都会に出れた僕。
院生で地方に出てる君。
いつだってほんの少し間に合わなくてすれ違い。
住む場所も、気持ちも。
君への好意を自覚して告白しようとするより早く、
君から恋の相談を受けて、馬鹿な僕はそれを後押しした。
馬鹿な僕?
いや、それで君が幸せならと思ったのだから馬鹿なんかじゃない。
そう思ってた。思っていたかった。
「君はいつも優しいね」
ミルクティーの缶を握りしめた彼女の瞳から、涙が一粒零れて落ちた。
僕の手にした缶コーヒーはブラックではなかったはずなのに、やけに口の中が苦く感じた。
「冬に君の地元に行って、観光案内してもらったでしょ。
あの日の夜、喫茶店で外を眺めながら、
このまま終電終わるの、気付かなければいいのにって思ってた」
ちょうど今日みたいに。
彼女と居酒屋で飲んでいて、終電も終わりそうになる時間、
「帰らなくちゃね」といった僕に「まだ話していたい」と言った君。
「……どうして?」
今度こそ馬鹿なことを聞いてる、と思った。
でも、聞かなきゃいけないと思った。
そうじゃなきゃ、「あの時」の僕がただの馬鹿になってしまうから。
「君にはあの人がいるのに。あの人がいるから」
僕は君に伝えなかったのに。
僕の気持ちも。
あの日一緒に居たいと思っていたことも。
「そうだね」
手のひらの中の缶コーヒー。その熱が冷めていく。僕の心に熱を移し替えてくように。
君と彼が付き合うことになった時、僕は彼からお願いされていた。
今後連絡を取らないようにしてほしい、と。
僕のことは感謝してるけど、それだけ親しいからこそ、と。
僕は彼の気持ちが分かったから、それを是として連絡を絶ち切った。
遠くから見守るだけのはずだった。
それから1年。
彼女から連絡を受けたとき疑問に思うべきだった。
だけど怖かった。聞けばこの繋がりが絶たれるかもしれない。そのことが。
僕は缶コーヒーを手放して、代わりに君の手を取る。
この手の温もりはもう離さない、そう誓った。
話さなきゃ
離さなきゃ
そう悩むときは
もう終わった
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「第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」参加作品です。