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第5話 ペンギン、村に行く

『何も考える必要は無いのじゃ、少女の後を追いかけて「忘れ物じゃ」と渡せばそれでいいのじゃ』

 そんな駄女神の声が聞こえた気がして、オレは仕方なく薬草の入った麻袋を持って森を抜け、川を少し下った先にある村まで、少女を追いかける事にした。

 足が短いのでメッチャ時間がかかった。

 ペンギンって疲れる。

 人間のときの三倍以上時間がかかったが、まだギリギリ山の陰に日が落ちる直前に、オレは少女の村と思われる小さな村へとたどり着いた。

 一応、魔獣よけに木の柵を周囲に張り巡らせているが、ほとんど形だけだ。この辺りはあまり危険な魔獣がいないからな。村の入り口にも門番はいない。お陰でオレはこっそり中に入ることが出来た。

 さて、少女の家はどこかとキョロキョロしていると、プンと薬の匂いがしてきた。見るとでっぷりと腹の出た大人の男がリュックを抱えて歩いている。

 リュックからカチャカチャとガラスビンの当たる音がする。薬を入れたビンを持っているのだろうか。

 するとコイツは薬師か。コイツについていけば病気という少女の母親や祖母の所にいけるかな。

 オレの野生の第六感が働いて、オレは後を付けることにした。

 だがオレの意に反して薬師がついたのは薬屋だった。看板に大きくクスリと書かれた建物だった。

 うむ、まあ半分、薬師の方は当たったか。

 すると薄暗がりの中、入り口に蹲っていた子供が立ち上がって、薬師のオヤジに声をかけた。

「おじさん、薬草採って来たよ」

 見ると森で出会った少女だった。

 ウム、オレの第六感は伊達じゃない。少女の家には行かなかったがちゃんと少女にたどり着いたのだ。オレはこうなると思っていたのだよ、ウン、・・・・・・ホントだよ。

「やあデミ、待たせてすまないね」

 少女の名はデミというらしい。どうやらデミは薬師のオヤジに薬草を売るらしい。

「ほう、沢山取ってきたな」

 薬師のオヤジはデミの差し出した薬草の袋を見て微笑んだ。

「それじゃこれ、薬草代だよ」

 そういってオヤジはデミに硬貨を数枚手渡した。薄暗くてよく見えなかったが、銅貨だよな。まさか鉄貨じゃないよな。

 価値が低いとはいえ薬草だ。しかも五十センチマイトル四方はある麻袋いっぱいの薬草だ。銅貨数枚、いや銀貨一枚分の価値が有ってもいいと思う。

 まあこんな田舎だ。少し安くなっても仕方ないか。

「それじゃ、おじさん、これでいつもの薬を」

 デミは受け取った硬貨をそのまま薬師のオヤジに差し出す。そうか、あの解熱作用のある薬草は、そのまま煎じて飲んでもいいが、やはり薬師に渡して薬に製薬してもらったほうが効果は高いだろう。それにこのオヤジから解毒作用の薬を買えばいいのか。

「はいはい、それじゃ薬を持ってくるから、中で待ってなさい」

 オヤジはそういってデミと一緒に店の中に入って行く。オレも慌てて後について一緒になって店に入った。

 オレが持ってきた薬草も換金してもらわなきゃいけないから。

「グー、グアーグアァ(デミ、忘れ物だ)」

「ヒッ」

 オレが、声を掛けると薬師オヤジはよほどびっくりしたのか変な声を出した。まあこんな店の中に動物がいるとは思わないだろう。

「あ、ピグエモン! 」 

 少女がオレを見つけると、なんか変わった名前でオレに呼びかけてきた。それ、オレの名前じゃないよな。

「ピグエモン?」

「うん、ピングイーノのピグエモンだよ。あたしが名前を付けて上げたの」

 いつの間に? 

「そうか、たしかどっか異国でペンギンの事をピングイーノって呼ぶらしいな。よくそんな名前知ってたね」

「さっき家に帰ったときに父ちゃんに教えてもらったの。短足で二本足でヨチヨチ歩くっていったらピングイーノだって・・・・・・。この子もピグエモンって名前気に入ってるんだよ」

 いや、オレ今はじめてその名前聞いたんだけど。

「これ、あたしが森に忘れていった袋? わざわざ届けてくれたの? ピグエモンありがとう。おじさん、これも換金して、あたしとピグエモンで摘んできた薬草」

 デミがオレから薬草の袋を受け取ると、そのまま薬師のオヤジに手渡した。

「おうおう、今日は大量だね、どれ・・・・・・こ、これは」

 薬師のオヤジはオレが持ってきた薬草を見て驚いている。そりゃそうだろう、オレが持ってきた袋には、オレが摘んだ解毒作用のある薬草が半分は詰まっているのだ。

「デミ、ダメじゃないか、こんなに雑草を入れちゃって」

「えっ? 」

「グエ? (えっ? )」

 デミが驚くが、オレも驚いた。オレが入れたのは間違いなく解毒作用のある薬草で雑草なんかじゃない。

「あ~あ~、半分も雑草が入ってる。これじゃ鉄硬3枚って所かな」

 薬師のオヤジはそういって薬草を麻袋から出して大きなお盆に広げながら、解熱作用の薬と解毒作用の薬を選り分けていく。

「ハイじゃあこれ、最初の袋の薬草分の解熱薬二本。後からもらった薬草分も薬に交換するかい? そうか。それじゃ雑草も混ざってたから、ホントは解熱薬一本分だけど頑張ったみたいだから、ちょっとオマケして二本あげるよ」

 ちょっとオマケしてあげると言われてデミは喜んでいるが、明らかにおかしい。

 なんで薬師なのに解毒作用のある薬草を知らないんだ。あれだけで銀貨一枚以上にはなるはずだ。

 しかも解熱作用の薬草の方も、価値が低いとはいえ、麻袋半分で鉄貨三枚だと?

 つまり最初にもらった硬貨は麻袋一袋で鉄貨六枚と言う事だ。普通なら銅貨五、六枚以上にはなるはずだ。いくら田舎で物価が安いといってもボッタクリすぎだ。

「この雑草はおじさんが捨てといてあげるよ」

「ウン、おじさんごめんね」

 薬師のボッタクリオヤジはそう言って雑草と勘違いした解毒作用のある薬草を店の奥へ持っていってしまった。

 デミはデミで、雑草持ってきちゃってごめんなさいとシュンとしている。

「ガーグァ~、ゴーゴーガー(チョット待て、ちゃんと調べろ)」

 オレは文句を言うが当然ながら通じない。

「だめだよピグエモン。おじさんは忙しいんだから、遊んでられないんだよ」

 いや、遊んでって言ってるわけじゃないから。

 デミはそう言ってオレの手を引いて店を出る。

「薬オマケしてくれたから一本儲かっちゃった。優しいおじさんでしょ」

 デミはそういってニコニコしている。いや、あいつは薬草の目利きも出来ないダメオヤジだから。いや、むしろ詐欺師? お前カモにされてるんじゃないのか?

 そんなオレの心デミ知らずで、足取りも軽くデミはすっかり暗くなった家路を急いだのだった。オレの手を引いて・・・・・・。

 あれ、オレはこのまま何処に行くのかな?


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