第4話 ペンギン meet garl
暫く下流に流されたが、あまりにも腹がへりすぎて、再び目覚めた。
仕方なく岸に上がったオレは、野生(?)の勘を働かせる。
焼かなくても皮をはがなくても食べられる食い物を探して森を彷徨い歩いた。
するとオレの野生の勘に引っかかるものがあった。
生き物かな、大物だ。(当社比)
少なくとも身長五、六十センチマイトル(推定)の今のオレよりは大きい気がする。
真正面から戦っても勝てる見込みは少ない。
気づかれないようそっと近づく。食えそうだったら不意打ちにしようと思った。食えそうも無い、勝てそうも無かったらそのまま逃げようと思った。
戦って死んで神の息子に生まれ変われるならそれもいいが、まあ無理だろうな。
あの駄女神’sにかかるともっと過酷な運命に陥りかねない。
森の入り口に近い所だ。そんなに危険な獣がいるとは思えないが、何がいるか、オレは木陰からそっとその肉……じゃなくって、生き物を覗き込んだ。
人だった。それも十三、四歳の少年だ……?。
いや少女か?
燃えるような赤い髪は耳がようやく隠れるくらいのショートヘアー。
短パンで活動的な格好をしているが、多分六分四分で女の子だよな。
こいつを食うとか、それはありえないよな。
この辺りは生前に修行で歩き回っていたのでよく分かっている。
確か森を出たところに村が一つある。少女もその村の子供だろう。一人で来てるのかな?
おっと、腰に刃渡り二、三十センチマイトルのナイフをぶら下げている。
オレが人間だったら危険は無いだろう、だが今のオレはペンギンだ。
オレを食料として狩るかもしれないし、革を剥いでそれを素材に防具を作るかもしれない。羽毛をとって布団にするかもしれない。
……ウン、やっぱりここは逃げの一手だな。
戦うつもりは無いし、万が一襲われたらオレは五歳児以下(レベル0)の力しかない。勝てる可能性は低い。
オレは踵を返して森の奥に逃げようとした。そのとき、
『こんなチャンス逃しちゃダメよ』
『第一友人(候補)発見、隠しスキル【きっかけ作り】を発動するのじゃッ』
駄女神’sの声が響いた気がした。
隠しスキルってなんだ。
と考えていると、突然視界がブレてオレは転んだ。
見ると足元に木の根っこが少し出ていた。まさかオレが根っこに躓いて転んだだと?
ありえん。レベル九十九で隠密術にも長けたオレ様が……。いやレベル0なら当たり前か。
「何かいるの」
気付かれた。
慌てて逃げようとするオレ。しかし慌てれば慌てるほど、滑稽にヨチヨチとしか逃げることが出来ない。
「あ、カワイ~。なんだろ変な動物だね。イジメないからこっちおいでよ。ヒュ~ヒュ~」
立ち止まって振り返ると、少女はにこやかな笑顔で、下手くそな口笛を吹きながら手を伸ばしてくる。
少女はペンギンを知らないらしい。オレはイヌじゃないぞ。
近くで見ると中性的な美形で少年にも見えなくないが、声はやはり女の子だな。
だが、たとえ子供相手でも美人を相手にするのは、コミュ症で人嫌いなオレにはハードルが高い。オレはさらに逃げるべくダッシュする、が……。
『スキル発動中は逃げられんのじゃ』
駄女神の声がした。
なんだかオレにおかしなスキルがついているようだ。そのせいか、オレは慌てて逃げようとしたが、上手く走れずまたコテンと転んでしまった。
「あはははっ、そんな短い足じゃあたしからは逃げられないよ」
少女がそういってオレを抱き起こすと、オレに抱きついてきた。
『隠しスキル【きっかけ作り】がうまくいったようじゃの』
そんなスキルがあったのか。
『うまく友達になりなさいね』
どうやら駄女神’sのおせっかいの賜物のようだ。
「グアーグアー(コラッ、野生動物はどんな病気を持ってるか分からないから触っちゃダメなんだぞ)」
いくら言っても少女は言うことを聞かない。
というか、当たり前だが言葉が通じない。
「ほらバタバタしないで。いいものあげるから」
少女はそういってズボンのポケットから小さな果物を取り出した。
手の平の上に載るのは小指の先ほどの大きさの木苺のような赤い実だ。
「……」
暫く考えたが背に腹は変えられない。腹が減ってたオレは、その実を口ばしでつまむ。
ん、意外と美味いな。生前に食べたときは酸っぱくて、そのままだと食べづらかったものだが、意外とペンギンの口に合うような気がする。
「ガ~ゴ~グワッグワッ(不味くはないから、もっとくれッ)」
「なに、気に入ったの? 」
言葉が通じたとは思えないが、少女はさらに数粒の果実を手の平に載せて差し出してきた。オレはガッツクように木の実をほおばる。
「イタタタッ、ゆっくり食べなよ。木の実は逃げないわよ」
どうやらオレの口ばしが痛かったようだ。
ん、すまなかったな。
オレはその後はゆっくりと食べるように心がけた。
少女も、自分の手のひらから木の実をつまんで食べる。
「ん~酸っぱい。でも美味しい」
少女が目を瞑って口をすぼめる。そんな仕草もかわいい。うん人間なら惚れてまうかもしれない。でもペンギンだから惚れない。
「美味しいもの一緒に食べたから、あたしたちもう友達だね」
テケテケテケテッテッテ~~ン
なんか遠くで変な音が聞こえた。
と、思ったその時、背後の草むらからガサガサと音がした。
振り向くとそこにはグレムリンがいた。
大きさは人間の三歳児ほどの小鬼で、それほど強くは無いが残忍で凶暴だ。それが三匹もいる。
レベル99のオレだったら何の問題もなかったが、今のオレはレベル0だしホントは逃げの一択だが、どうすっかな。
「あっ……」
少女も気が付いたようだ。
俺を抱える少女の手が震えている。顔色が悪そうだ。
森で魔物に会うのは初めてなのかな。
逃げようと立とうとするが、立てないようだ。
どうするか悩んでいると
『これ、ペンシロウ。そなた今。少女と友達になってレベルが上がったのじゃ。試してみたくないかや。自分の強さを』
『ペン吉くん、やっちゃえ』
駄女神’sの声が聞こえた気がする。
ホントにレベル上がったのかな。
だったらやってみるか。
メシをもらったし、と、友達だからな。
オレは少女の腕を解くと、ダッシュでグレムリンに駆け寄り“バターナイフ”を取り出す。
なんか身体が軽い。と思ったら一瞬にしてギズモを三匹血祭りに上げていた。
『フフン、これが友情パワーじゃ』
『友達を守りたいって気持ちが高ぶると力が増すのよ』
駄女神’sが鼻息荒くオレに説明する。なんかドヤ顔していそうでむかつく。
振り向くと少女が唖然としてオレとグレムリンを見つめていた。
「グアー(どうした? )」
「……え、いや、その、キミ、強いんだね。ありがとう」
少しして、ようやく落ち着いたところで立ち上がった少女がお礼を言ってきた。
なあに友達だから当たり前さ。
「あと薬草とってから帰るから、一緒に帰ろう、あたしんちおいでよ」
ウ~ン、家まで行くのか……。人の家に“お呼ばれ”なんてちょっと気が重いな。前世でも経験が無い。どうしようか。
などと悩むオレをよそに少女はオレの手を引いて、森を進む。