ペンギンなう!2 第六話 ペンギン海賊退治する その1
久しぶりの投稿で勘もにぶってます。原稿を書いて投稿するのにあくせくする日々。気になったところがありしたらコメントしていただければと思います。
天気晴朗にしての波も穏やかな海原を、中型の商船は一路沖合いへと進んでいく。
この船は、海賊退治を条件にセブロンの港町のツーサスンゼ商会(セブロンの港町で、トクアク商会以外に唯一残っている商会)から借りた船で、海賊を呼び寄せる囮だ。
つまり――、この船が囮となって、海賊をおびき出し、シルベスタとアーノルドとアンナパパともう一人でオレとで海賊退治をして、海賊とトクアク商会の繋がりを暴き、助けに現れたセブロンの代官を逆にとっ捕まえて一網打尽にするという寸法らしい。
シルベスタとアーノルドも、アンナパパも大賛成していた。
この作戦を考えたのが、船の先端で潮風と波しぶきを浴びる優男だ。
優男は、腹に抱えるオレに話しかけてきた。
「おお、気持ちいいな~、なあペンペン」
「グア(別に)」
「イテテテッ、そうか、お前もそう思うか、はっはっはっ」
オレは男に抱えられる趣味は無いので、口ばしでこいつの腕をつついてやるが、男は一切気にした様子は無い。
この優男の名前はリオネル。家名は知らない。
シルベスタが冒険者時代に護衛をした男で、金持ちの坊ちゃんかなんかだという。
昨日、おでんの屋台に現れたリオネルは、パラダイスへブンを半壊させたアンナパパに怒り、事情を聞いて同情し、町の三悪退治を申し出た。
そして今、この優男の立てた計画にしたがって作戦行動中なのだ。
船の針路は一応、少し離れた場所にある港と決めているが、必ずそこに行くわけでは無い。囮だから。
「なあリオネルよ、お前さんまでこの船に乗り込む必要は無かったんだぜ」
シルベスタが オレを抱える優男に話しかける。
「バッカ言え、オレ様が考えた作戦にオレが参加しないでどうすんだよ」
「そういうもんか? 」
「だけどお前、剣の腕はからっきしだからな、守る者の身にもなってほしいぜ」
アーノルドが眉尻を下げたうんざりした顔で話に参加する。
「だからここに最強の助っ人がいるんだろ。な、オレ達友達だから護衛頼むぜ」
と言って優男はオレを抱えあげる。
昨日屋台で飲み友立ちになったから、護衛とはどうやらオレを指しているらしい。オレは友達になってレベルが上がるから良いんだが、ペンギンに護衛を頼むか、普通?
なぜか優男は魔獣トライヘッドベアを倒した時にオレが魔法を使ったことなどを知っていた。だから護衛と言う話になったのだと思うが、シルベスタたちが話したのかな。
「私はまだ貴方を護衛とは認めていませんから。まあコレはありがたく貰いますが」
リオネルの後ろから細マッチョな男が声をかけてきた。
顔つきはなんとなく見た顔だと思っていたら、実はシルベスタの弟でアーノルドの兄だと言う。三兄弟の真ん中で名前はランディ。体格は兄や弟よりもけっこう細く、どちらかと言うと父親のジャンに似ている。
手にはオレがあげたちょっとお高そうな武器、ミスリル銀とアダマンタイト鋼の合金で作られた斧付きの槍ハルベルトを大事そうに抱えている。
オレからのもらい物をそうやって大事そうに抱えながらじゃ、説得力が無い。
作戦に反対したのはオレとこのランディだ。
だって、穴がありすぎるだろ。
まず前提として、海賊をオレ、シルベスタの三兄弟、そしてアンナパパのたった五人で退治するのか? しかも一人? 一匹? 一羽? はペンギンなんだけど。海賊って何人いるんだ?
「出たぞ、海賊ッ! 十四時の方向ーーーッ!! 」
オレが首をかしげているとマストの見張り台に乗っていた船員が、伝声管をつかって船中に注意を呼びかけた。
見るとかすかに大型の船らしきものが前方右側に見えてきた。
「それじゃ頼みましたよ、うちの船員は当てにしないでくださいね。それからウチの船は傷つけないでくださいね、それから――ッ!? 」
色々注意をしているのは、ツーサスンゼ商会から派遣された、ちょっと小太り色白の見るからに事務係といった風情の会計監査員のレイルという男だ。要はオレ達の見張り役だ。
「わかったから、さっさと隠れてナ」
リオネルはその注意を適当に聞き流し、オレを甲板に下ろして前方の海賊船を凝視する。
オレは早速魔法の詠唱を心の中で始める。
昔のオレなら無詠唱でも魔法は使えたのだが、今はまだレベルが低いので心の中で詠唱する必要がある。口に出さなくても良いだけマシだ。
多分レベルが上がれば、その魔法を思い浮かべるだけで使う事が出来るだろう。
(響け響け風の音、照らせ照らせ命の火、生きとし生ける全ての命の源、この世の理をたがえて炎と爆発よ巻き起これ、レベル2イクスプロージョン)
オレは爆発の魔法をストックする。
海で爆発の魔法ってどうかと思ったが、周りに燃え広がることも無いし遠慮なく出来る、と思いなおす。良い方に取ろう。
さっそく頭上に爆発魔法の塊を顕現させる。
「よーし、オレ達も気合入れてくぞッ」
「「「オオッ! 」」」
シルベスタが声をかけ、アーノルド、ランディ、アンナパパが気合の入った返事をする。だが……。
「何だか気合を入れてるところ悪いんだけど、あまり威力の強い魔法はダメだから、強力な武器も禁止な」
リオネルがニコヤカな顔をしてオレ達に注意してきた。
「「「「エッ? 」」」」
え~っと、聞いてないけど。
「あんまり威力のある魔法や武器だと、海賊にも死人が出るかもしれないだろ、今回は全員生け捕りで」
「これは? 」
グレートソードを構えたシルベスタ、グレートアックス使いのアーノルド、ハルベルトを持つランディ、これもオレが上げたカイザーナックルを持つアンナパパ。
「あー、禁止で」
「エエーッ!? 」「ヒドイッ」「横暴だ」「パワハラ反対」「グアッ(殺す気かッ! )」
オレ達の文句も何処吹く風でリオネルはニコニコと長さ1マイトルほどの帽を差し出してくる。
「ペンペンもその魔法しまってくれ」
オレは振り返って、近づいてくる海賊船を見る。見える範囲で船の甲板には、ギラギラと日の光を反射させるカットラスのような片手剣を持った海賊達が数十人。
え~っ、相手はオレ達を殺す気で来るんだよ、しかも人数はかなり多い。
本気で武器や魔法無しでコイツらを相手にするのか?
「グア…略…(しまえないから、投げちゃうね)」
おれは頭上に掲げた腕(フリッパーと言うらしいよ)を海賊船目掛けて振り下ろす。
「「「「「あっ」」」」」
一応手加減と言うか、海賊どもに直撃はさせずに、船体の喫水線近くに投げつける、
船の正面やや右舷よりで激しい水柱が上がる。
「ギャーッ!! 」
船が激しく揺れて海賊共から悲鳴が上がるが、魔法は丁度海面と船体の半々な感じで当ったようで威力はだいぶ減じられたようだ。船体に直系四、五十セルチマイトル程の穴が開いたようだ。。
以前トライヘッドベアと戦った時から四人友達が増えてレベルが四つ上がったので魔法の威力も大きくなっていたようだ。半分海面に当てるようにしてなければ即沈没させていたかもしれない。
「おお、なんか上手い具合に穴が開いたな」
リオネルは海賊船を眺めながらのん気なことを言う。
海賊船は急激に減速し、船体が少しずつ傾いていく。船体の穴は丁度喫水線の辺りにあり、少しずつ浸水していくようだ。
この場で修理するにはちょっと大きすぎて、たぶん沈没は免れないだろう、それでも脱出が間に合わないような勢いでもない丁度いい(?)沈没具合だ。
海賊どもはワーワーギャーギャー言いながら、我先にと海に飛び込み、こちらの船に泳いでくる。
海賊共のアジトや岸は水平線の彼方だ。とても泳ぎきれるものでは無いだろう。海賊共にとっても頼れるのはこの船だけだ。
「武器を捨てて投降するなら助けてやる」
「武器持って泳げねえよ」「助けてくれ」
シルベスタが波間に浮かぶ海賊共に叫ぶと、海賊は海面に顔だけ出して叫び返す。
みな、武器を持ったままだと泳げないので、海に飛び込んだ瞬間に海中に武器を捨てたらしい。
海面に縄梯子が下ろされ、海賊達が一人ずつ船に上がってくる。
甲板にあがった海賊は、超強そうな武器を持ったシルベスタら強面四人(かわいいペンギンのオレは入ってないよ)に囲まれ、一人で武器も無くとても勝ち目は無いとすぐに戦意を失い、抵抗も全くせずに簡単に縛り上げられ、船倉に押し込められていく。
「ああ、もったいない……」
ツーサスンゼ商会の会計監査員のレイルがハンカチを噛んで悔しそうにする。
「武器だけでも回収できれば、少しくらいはウチの商会の借金返済の足しになったのに」
今まで海賊に沈められたり、拿捕された船は片手では足りないらしく、売掛金は借金になってもう倒産寸前なのだとか。
「グア…略…(そんなに欲しいなら回収して やるよ)」
まあ、ここはオレがいなくなっても問題ないだろう。
オレはそう言うと、海に飛び込んだ。
海底は遠浅で、それほど深くは無い。人間の素潜りで潜れる限界は超えてると思うが、ペンギンで、レベルが二十二となったオレだと特に問題は無いようだ。
しかもありがたいというか、岩場ではなく砂地だったので沈んだ武器がすぐに見つけられた。
見える範囲で回収できる武器を全て回収して巾着袋に収納する。だいたい剣で二、三十本位かな。
船本体も見つけたので、一応中に入って確かめる。人は誰もおらず、お宝の類も何もなかった。
まあこれから商船を襲うという海賊船がお宝を積んでるはずないよな。船倉を空っぽにしておけば船足も速くなるし、奪った荷物も多く積めるからね。
念のため確認した抱けなので、オレはすぐに浮上しようと船外に出た。
その時、何かとても低い音が聞こえてきた。
水中は音が良く伝わると聞いたことがあるが、これもそうだろうか。小さな音だが良く聞こえた。
『エサ……ある、ココ……来い』
そう聞こえた。いやこれは人間の声とかではなく、音に乗せた思念波だろうか。しかもこの音は魔力を持っている。
誰かが、何かを呼び寄せているのだ。魔力を込めた思念波で、『エサがある』と呼んでいるんだ、音に乗せて。
そのときオレは、海の中を何か大きな影が近づいてくるのに気がついた。しかもそれはかなり大きい。
船?
ここまで大きいのは大型の外洋船くらいしか思いつかないが、船ではない。
だったらなんだ。
魔力を込めた思念波は、何を呼び寄せたんだ。
最後までお読みいただきありがとうございました。