エピローグ 女神の呟き
『ハア、やれやれ。ホント今回の生まれ変わりは手間がかかるのお』
『なんとかトライヘッドベアには勝ったみたいじゃない』
深いため息を吐いてソファに深く腰掛ける駄女神こ女神ウシャスに、女神ラートリーが銀の杯で果実酒を優雅に飲みながら訊ねた。
『妾にも一杯もらえるかの』
そういってウシャスはどこから取り出したのか、自前の銀の杯をラートリーに差し出す。
『なんとか勝ったは良いがの、あやつ聖剣を使えなかったのじゃ。この先どうなることやらじゃ。ハアァアじゃ』
ウシャスが銀の杯をチビリと口をつけて、再び深いため息を吐く。
『なによ、「今回の候補者は超有料物件、レベル99まで行ってたのじゃ、楽勝じゃ」とか言ってたじゃない』
ラートリーはオリーブをツマミながらあきれた顔をする。
『そうなのじゃが、あれだけ友達作りが下手だとは』
『だから、普通に戦えばレベルアップするようにすればよかったのに~。友達一人でレベル一個上げるって意味不明だわ』
『じゃが妾は女神じゃ。妾たちの目的とは別に、生き返った人間がより豊かに生きられるように指導するのも仕事のうちじゃ』
『人間じゃなくってペンギンにしちゃったけど』
ラートリーの皮肉に、ウシャスはグヌヌと苦い顔をする。
『そ、そんな過去の事は忘れたのじゃ。人はなぜ顔の前の方に目があるか知ってるかや、それは「過去を振り返らず、前を向いて生きろ」という、創造神様の偉い教えから来ているのじゃ』
『ハイハイ』
ウシャスの精一杯の言い訳を軽く聞き流し、ラートリーは銀杯を傾ける。
『言い訳はいいけど、頑張ってよね。貴女の眷属が戦士のレベル100を超えれば私達のチームも名伯楽、一流人間トレーナーの仲間入りなんだから』
『簡単に言うてくれるのじゃ。ラートリーチャンは王様・名君のレベル100を育てたから余裕かも知れんけど、その王様は元々ヴィリスという神の血を引く一族の生き残りじゃったじゃろ、簡単だったのじゃ、イージーモードだったのじゃ』
すねたようにウシャスが言って、銀杯を傾ける。
『だから貴女もそういう簡単なのを育てればよかったのに。「育てるのが難しい方が楽しいのじゃ」とかいって超ハードモード選ぶから』
『まあ、ゲームは簡単に終わってしまえばつまらんからの。でも無理ゲーもつまらんのお』
『今回どう、無理ゲーっぽいの? 』
『ペンギンの身体ではのお、ちょっとハードルが高そうだのお』
『それは自業自得だけど……、で、だったら、どうするの? 』
『無理ゲーかどうかはまだ分からんのじゃ。スキル【きっかけ作り】でとにかく友達を増やせば、あるいは』
『でもあれ、イマイチ発動が遅いのよね』
『スキルのレベルが低いからの』
『スキルレベルというより、単純に人間嫌いのせいな気がするけど』
『まあ、あと何回か妾が強制的に発動させてやれば、本人もなれてくるじゃろ』
『せいぜい他の神に見つからないように頑張ってね、あんまり関わりすぎるとペナルティだからね』
分かっておる――、とウシャスは頷いた。
悠久の時を生きる? 神々は長い年月をかけて世界の創造を終え、その後は世界の発展を人の手に託した。
しかし神々は時折、その世界の行く末を憂いて、もしくは暇をもてあまして、手を出していた。
それは世界を託せる人間の育成である。
暇をもてあました神々のそれは、神々の娯楽、シミュレーションゲームともいえようか。
神々はこうした“人間育成ゲーム”に熱中した。
様々な分野で本来人では超えられないレベル100の壁を越える人を育てるのが、目的だ。
生前のペンペンは、こうしたゲームに熱中したとある神の思惑によって、無意識の内にレベル100にこだわる様に仕向けられていたのだ。
だが、“ただの人”はレベル100を超えられないと知らずに育てていたその神は、その事実を初めて知ったとき、あっさりと人であったときのペンペンを捨てた。
他のレベル100候補者を育てるために。
幸運を最低まで引き下げ、防御力も最低まで引き下げられた結果、人であったときのペンペンはあっさりと死ぬ事になる。
それを拾ったのが、幸か不幸かウシャスだった。ウシャスは人である身でありながらレベル100を超える裏技を知っていたから。
『次はどうするの? 』
『今の村だと、子供が少ないから友達増やすのは期待薄じゃ、大人の知り合いをこれから友達に変更するのも難しいじゃろ。アイツを村から出すかなんか考えんと行かんのお』
『でも、あの一家と離れ離れになるのは、得策じゃないわ。せっかく友達になったのに』
『だったら、どっかからあの村に100人くらい子供連れてくるかの』『拉致、誘拐禁止! 』
『なら、村人全員子供にするのじゃ』『すっごい力技!? 他の神に見つかったら袋だたきよ』
『ああ難しいのお』
頭を抱えて悩むウシャスを見て、ラートリーがつい笑みをこぼす。
『何がおかしいのじゃ』
『だってウシャスちゃん、何かあるといっつも頭を抱えて唸ってるんだもん。昔っから変わらないなと思って』
『なんじゃ、妾は成長しないと言いたいか』
『そうじゃなくって、私達も長い付き合いだなって』
『ふむ、創造神様に創造されてからの腐れ縁じゃからの』
『そういう言い方しないの、それを言うなら、竹馬の友、幼馴染のマブダチって言ってよね』
ラートリーの言葉に、ウシャスも笑みをこぼす。
『フフ、そうじゃな。ペンペンじゃないが、妾たちは今までも、これからもずっと友達じゃな』
『オオカミくんじゃないけど、「あたりまえだ」よね。フフフ、これからも一緒に頑張りましょ』
『よし、それじゃ頑張って二人でペンペンの今後の育成方針を検討――』
『あらダメよ、これは一人でやらないといけないのよ』
『最初は手伝ってくれたじゃろ』
『最初だけよ』
『そこをなんとかじゃ、マブダチじゃろ』
『マブダチだからよ』
ラートリーのケチッ――、そう言ってウシャスはまた頭をかかえるのだが、その口元は少し笑っていたのだった。
このお話で、一旦ペンペンの冒険はお終いになります。ここまでお読みいただきありがとうございました。また機会があればペンペンの冒険をお伝えできればと思います。