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第四十五話  その二

『いくぞッ! 』

『わかった』

 オレはトライヘッドベア目掛けて走り出し、その後ろをデミが続く。

 もう少しで射程距離に達するという所で、トライヘッドベアがオレに気が付いた。だがそんな事はもう構っていられない。

『みんなどけ~~ッ!! 』

 オレの怒鳴り声が分かったのかどうか定かでは無いが、シルベスタたちも、コクロウも素早く魔獣から距離を取る。

『くらえッ! 』

 その直後、オレは暴炎の魔法を発動させる。

 暴炎の魔法がトライヘッドベアに向かって飛んでいくが、トライヘッドベアも慣れたのか、片腕を差し出して直撃を避ける。魔法は魔獣の一マイトル手前で爆発し激しい暴煙があたりを包み込む。

 時間が無かったため魔法は一発だけだったが、それだけで充分だった。

「一発だけなのか」

「もっと連発しないと……」

「まだ怪我が癒えてないの? それとも魔力が無くなっちゃった? 」

 シルベスタ達が訝しげな表情で、オレとトライヘッドベアを交互に見つめる。

「だったら、攻撃続けないと」

 ジェシカが改めて矢をつがえようと準備するのを「いや、待て」と、シルベスタが制止する。

 トライヘッドベアは身動き一つしていない。

 暴炎が風に流され消えていくと、片腕を伸ばして仁王立ちするトライヘッドベアの懐に、剣を突きつけた少女が立っていた。

「「「「デミッ! 」」」」

 シルベスタ達が気が付いてデミに駆け寄ったとき、トライヘッドベアは地響きを立てて仰向けに倒れた。

 デミは傷だらけの父親達の胸に飛び込んで暫く泣いていた。

 生きているとはいえ、目の前で家族が傷つきながら戦ってたし、冒険者でもない自分もそこに入って戦ったのだ。

 自分で決めた事とはいえ、たった一瞬とはいえ、そりゃ泣くか。

 十三歳の少女で、護身用のナイフを持ってただけで、今までまともに魔獣はおろか獣と戦ったことは無いんだから。

『ペンペン、終わったな』

 コクロウがオレのそばに近寄ってきてオレに声をかけた。

『ああ、だが今回はオレは何も出来なかった。全てはあの変態馬とデミのおかげだ』

 やっぱり友達の数が少ないと、強くなれないというのはものすごく歯がゆい事だと改めて実感した。

 オレがもっと強ければ、つまりもっと友達がいれば、デミをこんな恐い目にあわせなくても良かったのに。

 つい先日もそう思ったばかりなのに、聖剣を手に入れればそれでいいと油断したオレの落ち度だ。

 これからも友達作りに精を出すとするか、とオレは決意を新たにした。

『コクロウはこれからどうするんだ』

『うむ、元々いたあの荒野に戻ろうと思う。あそこは人間が近くにいないから、気兼ねしないで獲物が狩れる。ここは魔獣に食い荒らされて獲物が少ない』

 そういえばそんな事言ってたな。……気兼ねしてたのか、大変だったな。

 そっか行くのか……。なんかちょっと寂しくなるな。

『これ少ないが餞別代りだ、皆で食ってくれ』

 オレは、この間の一緒に狩をしたときのオレの分け前をコクロウに差し出した。ちょっと痩せているがウサギが二匹。

 コクロウたちにはちょっと少ないだろうが、まあ我慢してくれ。

『まあいいだろう、遠慮なくもらおう』

 そう言ったコクロウとハイロウは、ウサギを咥えるとそのまま森へと消えていった。

『もう行くのか? 』

 その後姿にそう声をかけたが、家族のだれかがアオンと返事をしただけで、なんと言ってるかは分からなかった。

 なんだかオレの体が重くなったような気がして、自然と太いため息がもれた。

 これが寂しいという気持ちだと少しして気付いた。初めての感情だった。

『オレ達は友達だよなッ! 』

 狼達の消えた森に叫んでみた。

 アアォォンーーン

 と大きな返事が返ってきた。『友達だ! 』といってるのだろう。間違いない。

『いつまでも、いつまでもずっとずっと友達だよな、な、なっ! 』

 オレは自分でも思いもよらずもう一度叫んでいた。

 アアオオオオオオオオンンーーーーーーーン

 とさっきよりも長い、ちょっと怒っているような遠吠えが聞こえた。『うるさい何度も言わせるな』と怒られた気がする。

 ……いや、『当たり前の事いわせるな』と怒ってるに違いない。

「狼さんたち、いい人たち(?)だったね」

 後ろに立った人影に振り向くと、ようやく泣き止んだのか目を赤くしたデミが立っていた。デミも子狼とは仲良くなっていたので寂しいのだろう。

「寂しくなっちゃうね。……ペンペンは居なくならないよね? 」

 じっと俺を見つめてくるデミに、オレは頷いた。

『当たり前だろ、オレ達は友達だからな』

 友達だからずっと一緒に居るって事にはならないと思うが、まあ、気持ちはそんな感じだ。デミもその言葉に頷いていたから、まあいいだろう。

 ってか、オレの言葉いつの間にかまた通じるようになっていた。なんか不思議だな。

 もう行くぞ――、と歩きかけたシルベスタ達を、オレとデミが追いかけた。

 その時、デミがオレに手を差し出してきた。

 うん、やっぱり友達は手をつなぐもんだな。俺がその手を握りかえすと、デミがニッコリと笑った。

 やっぱ友達っていいもんだな。うん、デミだけじゃなく、もっと友達増やそう――。オレは改めてデミの手を強く握りしめた。



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