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第四十四話 シャイか変態

 オレは魔獣に向かって一直線に向かう。

 そして残り五マイトルとなった所で、暴炎の魔法を一発。これは目くらましのフェイント用。これで倒せるとは思っていない。

 その炎と煙に隠れて、オレはクマの右脇に周り込む。狙いは首、もしくはアーノルドのつけた傷跡。

 首ががら空きだ!

 そう判断し、オレは聖剣を突き入れる。

 しかし、正面を向いた頭は暴縁の魔法で俺を見失ったようだったが、トライヘッドベアの背中に生えた上半身の第三の頭は騙されなかった。

 即座に反応し、背中に生えた腕を伸ばしオレの突きを受け止めた。

 首までは届かなかったが、オレは焦らなかった。

 その腕に聖剣が深深と突き刺さったからだ。聖なる力が魔獣の弱点なら、これで致命傷となるか、悪くても腕の一本ぐらいは動かなく出来たかもしれない。と思った次の瞬間。

 グオオオオオアアアアアアァァァァァァーーーーーーーーーッッツ!

「――デッ!?」

 魔獣が激しい雄たけびをあげ、聖剣を突き刺した腕を振り回し、オレを力任せにぶん殴った。

 なんだッ!? 聖剣が効いていない?

 そんな疑問が一瞬浮かんだが、次の瞬間オレは大地に叩きつけられ意識を失った。


     ※


「ペンペンッ! 」

 トライヘッドベアに殴られて吹っ飛んでいくペンペンを見て、即座にデミが駆け寄っていく。

「ええええ~~ッ!? ペンペンは何をしたかったんだ? 」

 自信満々に飛び出して行き、簡単に吹っ飛ばされたペンペンを見てアーノルドが小首をかしげる。

「ほうけてる場合じゃない。メグ、デミとペンペンを助けろ。ジェシカは魔法の矢を、デミに魔獣を近づけさせるな。アーノルド突っ込むぞッ」

 すぐにシルベスタがパーティに指示を出し、自ら走り出す。

 トライヘッドベアはペンペンに追い討ちをかけようとしていたが、ジェシカの魔法の矢とシルベスタ達の攻撃に阻まれ、一旦ペンペンをあきらめシルベスタ達を迎え撃つ。

 後は乱戦になった。

 一方、ペンペンに抱きついたデミは、腹に刻まれた大きな爪跡とそこからあふれ出す大量の血を見て泣き出した。

「ペンペンッ、ペンペンッしっかりして! 」

「動かさないで」

 ペンペンを抱えるデミに声をかけ、メグは素早く回復魔法をかける。

「メグ姉、ペンペンは大丈夫? 」

「……」

 沈黙するメグの態度が如実にその答えを表していた。

 腹の傷がかなり深く、血が止まらない。正直六分四分で、助からない可能性が高いとメグは思った。だがそんな事、今言ってる場合ではなかった。額に汗を浮かべながらデミは必死に魔力を注いだ。

「お願い、生きてッ。神様、ペンペンを助けて! 」

 そのとき、必死に祈りをささげるデミの傍に立つひとつの影があった。


     ※


『これ、ペンペン、その方は何をしてるのじゃ』

 オレに話しかける、眩しいやつ。変な言葉遣い。間違いない駄女神の奴だ。

『フン、妾を奴呼ばわりするのは駄ペンギンしかおらん』

 なんか、いつもと雰囲気が違うな。なんか怒ってる?

『当たり前なのじゃッ! 』

 女神ぶち切れ。

『あれだけ「聖剣を使うのじゃ」と、ワザワザ神界に呼んでまで伝えてやったのに、なんで使わんのじゃ』

 聖剣って? ああ、オレが生前に遺跡で見つけて巾着袋に入れていたあの剣か。

 そうそう、川で落としたんで子狼と探しに行って……、それで? その後森でクマさんと出会って、アレをクマに突き刺して……、突き刺してどうなった?

 アアッ、思い出した。

 あの聖剣役に立たなくってオレはその後ぶん殴られたんだッ。

 と思ったら、なんか腹の辺りが熱くなってきたような気がする。

 オイコラッ、駄女神。あのクマ公には聖剣が全然効かなかったぞ、どういう事だ、もし死んだらどう責任とってくれるんじゃボケッ。

『女神に向かってオイコラとはなんじゃ! それにボケはその方じゃボケが』

 駄女神にボケといわれた。

『ボケにボケと言って何が悪いんじゃボケ~ッ! だいたい聖剣を使えといったのに、お主が使ったのは聖剣ではないではないかなのじゃ』

 聖剣ではない? どういう事だ? 

『アレは聖剣ではないのじゃ。厳密に言えば聖剣になる器じゃ』

 器? 

『あの剣には宝玉が付いていたはずじゃ。そこに聖なる力を持った聖獣とか精霊が宿って初めて聖剣となるのじゃ』

 聖獣だと? 

 精霊や妖精や幻獣は厳密には大きな違いは無い、どれも人間から見れば超精神生命体だったはずだ。

 影も形も見えないのが精霊、ある程度姿が見えるのが妖精、実体を持つ獣が幻獣と人間がなんとなく呼び分けているに過ぎない。そして幻獣の中で聖なる力を持つのが聖獣だ。

 だが聖獣なんて、まずもってお目にかかれない。オレの生前の冒険者人生で、オレも知り合いも会ったと言う奴は一人もいない。

 まあ、コミュ症の人見知りだから人付き合い少なかったけど。

 そんな聖獣が宿った剣が聖剣だと? そんなもん用意できるか!

 だがまてよ、遺跡であの剣を見つけた時は、確かに聖剣と鑑定されたはずだ。聖獣がいなければ聖剣とは鑑定されないのではないか?

『元々あの剣の中にいたのじゃ、寝てたからな。その後その方が川で聖剣を落とした時に、聖剣から逃げ出したのじゃ』

 聖獣、剣の中で寝てたのかよ。

 じゃあその聖獣を見つけないといけないのか。見つかるかな。

『何を言っておるのじゃ。おぬしの前に一度出てきているじゃろ』

 なんだって? 何がオレの前に出てきたって?

『ユニコーンじゃ。ユニコーンがおぬしの前に現れたじゃろ。あれが剣の中にいた聖獣じゃ。妾が『剣の中に戻れ』と命令したのじゃ。あいつシャイだから照れよって「たまたま近くにいたから」とか、「雄の言うことなど聞かん」とか言っちゃって、まあカワイイコトよ。ツンデレとかいう奴じゃ』

 は? 何を言ってるんだ? あの変態馬が? 聖獣? あれはシャイじゃなくって変態だろ? 世の中なんか間違ってる気がする。

 しかも照れた? ツンデレ? マジ何言ってるんだか分かりません。

『とにかく! あのユニコーンに聖剣に戻ってもらうのじゃ。そうでなければ今のあのトライヘッドベアには勝てんぞ』

 だけど協力してくれるかな、第一オレが呼んでも来ない気がする。

『協力してくれないでは済まされんでおじゃる。出来なければデミもその一家も、あと村も全滅なのじゃ』

 そうだ、それはまずい。

『早く行け、なのじゃ』

 最後、駄女神にしては真剣に言われて、オレは急速に意識を取り戻すのだった。

 目の前にいたのは、泣きじゃくったであろう目を真っ赤にしたデミと、青い顔をしながら俺を抱えるように魔法をかけるメグ、そしてもう一人ではなく一頭、長い馬面がオレの顔を覗き込んでいた。

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