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第四十三話 魔獣 Strike back

 急に子狼が天に向かって遠吠えをしたので、オレはそのまま後ろに投げ出された。急にアクション起こすのはやめてほしい。

 デミに助け起こされ、オレはようやくその姿を見た。

 トライヘッドベアだ。

 川に落ちたと聞いたとき、雨で川が増水していて、溺れて死んでないかなと一瞬期待もしたが、そんなことは無かったようだ。

 それどころか、トライヘッドベアの身体の傷が癒えて、さらにその身体の大きさは前回をしのぐ大きさになっている。

 魔獣の特性で、死にそうになった固体が九死に一生を得た場合、より強い固体へと自らの身体を変化させる事がある。このトライヘッドベアは身体をより巨大化させて戻ってきたのだ。

 四人は素早く武器を構えた。その距離およそ五十マイトル。

「身体の傷が癒えてるのか? 」

 アーノルドも気が付いたようだ。

 生命力の強い魔獣なだけに傷の再生能力も高いようで、シルベスタのつけた左肩口の傷や、アーノルドのつけた右脇腹の傷はすでに肉が盛り上がってきていて、傷自体は塞がっている様だ。そこだけが剛毛が生えていないため前回の傷跡だとわかる程度だ。

 だがオレにぶっ飛ばされた右頭だけは、そこが肉が盛り上がっているだけで頭は無かった。トライヘッドではなくツインヘッドになっていた。

 やはりトライヘッドだと、頭一つぶっ潰しただけでは死なないようだ。

「あのペンペンが潰した左頭は再生してねえな。ツインヘッドになったのか――テッ!? 」

 同じことを考えていたアーノルドの軽口に、シルベスタが無言で頭を叩いた。

 言わなくてよかった。

「最悪ね、帰り道の方向から出てきたわ」

「ここ、反対側はガケだから後ろには逃げられない。逃げるなら魔獣の横をすり抜けるしかないわ」

「それじゃこの新しい武器で、力づくで押し通るしかないな」

「デミは絶対にメグから離れるんじゃないぞ。メグ頼むな」

「わかった」

 その時、アネーゴの耳がピクリと動いた。

『父ちゃん返事をした。こっちに向かう言ってる』

 さっきの遠吠えは、父親のコクロウに魔獣の事を伝えたのか、その返事があったようだ。オレにはさっぱり聞こえなかったが、狼は耳がいいな。

 ここでコクロウが援軍に来てくれるのはうれしいけど、無駄足になりそうだな。

 オレには最終兵器があるからな。

 トライヘッドは慎重になっているのか、グルグルと喉を鳴らすが、簡単には近寄ってこない。一歩ずつゆっくりと確実に歩を進める。

 彼我の距離はおよそ三十マイトル。

 その間にシルベスタは作戦を伝える。

「手はずは分かるな。ジェシカとメグは魔法と矢で奴を牽制しろ。二人の攻撃が当たった瞬間オレとアーノルドで肉弾戦を仕掛ける」

 メグとジェシカは、間にデミを挟んで守るように立つ。つばを飲み込みながら頷く。

 緊張しているようだ。そりゃそうだな。前回は死にかけたんだから。

「アーノルド、狙いはあの怪我して剛毛がない部分だ。皮も再生したててで弱いはずだ。新しい武器なら通用するかもしれない。これで倒せればいいがそれはやってみなけりゃわからん。だから三人は、オレ達が攻撃している間に逃げるんだ」 

「父ちゃん」

「大丈夫だ。ペンペンからもらった武器ならそう簡単には負けない」

 心配げなデミむかって、シルベスタが笑顔で頷く。そしてオレを振り向いた。

「ペンペン、三人を頼む」

 シルベスタはオレにデミたち三人の護衛を頼むと言っているようだ。

「グエーゴ……(いや……)」

 オレはクビを振る。新しい武器を手に入れたのはシルベスタ達だけではない。

 オレは空間拡張魔法の効いた巾着袋から聖剣を取り出した。――いや、取り出そうとして長くて抜けなかったので、横からデミが助けて抜いてくれた。なんかカッコ悪。

「ペンペンこれって……」

 デミが片手剣を日にかざすようにして眺める。、聖剣は日の光を反射して青銀に輝いている。なんだか妙に剣を持つデミの姿が決まっていた。

「グエーゴ……(それはオレの剣だ)」

 オレが手を伸ばして聖剣を受け取る。

 さらにトライヘッドベアが近づいてきた。その距離二十マイトル。

 ふん、オレが聖剣を手にした以上、きさまはもう死んでいる。飛んで火にいる夏の虫、聖剣に群がる魔獣だ。

 オレはシルベスタ達の前に出る。

「グォーガガー……(まずはオレにやらせてくれ……)」

 駄女神の言うことが本当なら、この聖剣でトライヘッドベアは倒せるはずだ。簡単に倒せるならそれに越したことは無いだろう。

 生前のオレみたいなレベルを上げることだけが生きがいの、バトルジャンキーならいざ知らず、普通の冒険者なら無駄な危険を冒す必要は無い。

「なんだ、ペンペンその剣で戦うつもりか? 」

「いいのか兄貴」

「いいんじゃない、今この中で多分一番ペンペンが強いんだから」

「そうね」

「ペンペン」

 俺の気持ちが伝わったのか、シルベスタ達はオレより前に出る事はなかった。 

 いよいよトライヘッドベアが近づいてきた。その距離十五マイトル。

「グエー! (行くぞ! )」

 すぐに終わらせてやる。

 オレは一声発してトライヘッドベア目掛けて疾走を始める。それを見て取ってトライヘッドベアも走り始める。

 あっという間に彼我の距離が食い尽くされる。

 やり方は猪狩りとあまり変わらない。

 真正面から突っ込むと見せかけて、フェイントを入れてから横に避け、脇腹から心臓へ一直線に剣を付きこむ。もしくは首の頚動脈を切り裂く。

 これは理想だが、此処まで上手くいかなくとも左脇腹にはアーノルドのつけた傷跡がある。此処を突ければ、心臓を直撃できなくともかなりの有効打になるはずだ。ましてや聖剣だ。これでも致命傷になるかもしれない。

 これで終わり、……のはずだった。

 オレのもくろみはもろくも崩れ去り、オレはトライヘッドベアにぶっ飛ばされて意識を失った。



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