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第四十一話 ペンギン、聖剣を探して子狼と戯れる

 村の出入り口は堅く閉ざされていて、出ることはできない。

 どうしようかと思っていたら、

『え? どうするって、飛び越えるけど? 』

 と子狼が、何おかしな事を言ってるのこのペンギンは――、という目で見てくる。

『しっかり背中につかまってて』

 というと、助走をつけてジャンプ一番高さ三マイトルはある塀を、簡単に飛び越えてしまった。

 狼達の身体能力をもってすれば塀も堀も意味が無いようだった。

 村を出て、森を暫く走るとその森を貫く大きな川にたどり着いた。

『たしかこの上流だったな』

 オレは此処から泳いで行くと言うと、子狼(自称姉)は『え~遊ばないの?』と不服な様子。

『よし、じゃあ探しっこゲームだ。オレはこの上流に落とした剣を探してる。オレは泳いでいくが、お前は川沿いを走って行く。オレは場所はそこまで行けば思い出せるが、どのくらい上流かとかあまり良くわからない。お前も場所はわからないだろうが、そこまで行けばオレの匂いがするから判りやすいから、どっちかが有利とかは無いはずだ。どっちが先に見つけられるか勝負だ』

『勝負!? やるやる~』

 子狼は言うやさっそく上流に向けて駆け出した。

 子狼チョロイ。

 ……ってか、川の左岸か右岸か、どんな剣かも伝えてないけど大丈夫かな? まあ聞かないほうが悪いな。そう思い直してオレも直ぐに遡上を始めた。

 駄女神曰く、オレはレベルが十八になっているらしいから、どれだけ力があるかも確認しながら、川を泳いだ。

 結果、泳ぎはすげー速い。

 川の流れに逆行するように泳いでいるのに、陸を走る狼と同じスピードで泳げたんだ。

 それを見て対抗心を燃やした子狼が、むきになって全力で走り始めた。

 さすがに狼の全速には追いつけなかった。でも大丈夫、もう目的地に着いたから。

 だけど子狼は脇目も振らずに上流へと走っていってしまった。完全に目的を忘れているようだ。アホだな。

 まあ、お腹がへったら戻ってくるだろう。 

 オレは子狼を無視して聖剣を探すことにした。

 中州があって確かオレがそこに陣取って、対岸に目つきの悪いウサギと対峙して……うん。記憶にあるとおりだ。

 確かあの時は、聖剣を振りかぶって、振れるかどうか試そうとして握力が無くてスッポ抜けて後ろの反対岸まで飛んで行って……。

 ここか? 対岸に渡ったオレは目星をつけた辺りを探す。

 うん? 草むらの中にキラキラした細長いものが落ちている。拾ってみると確かに剣だった。長さはオレの身長よりもやや長い、刃渡り六、七十マイトルの細身の片手剣。いわゆるレイピアタイプの剣だ。柄の近くには何やら細かい装飾が施されている。

 柄自体は木に革を巻いたものだが、鍔や柄頭の辺りは黄金の細工の施された豪華な剣で、大粒の宝石があしらわれていた。

 少し青みがかったった銀色に輝く剣身はミスリル銀だろうか。しばらく雨ざらしだったが特に錆びなども無く、良く切れそうだ。

 うん、聖剣ゲットだぜ!

『あ~ッ、ペンペンこんな所にいた。勝負はどうしたの? 』

 子狼が戻ってきて可笑しなことを言う。

『何言ってんだよ、勝負はオレの勝ちだ。オレ達はこれを探していたんだから』

『何これ、鉄の剣? 』

 オレが掲げた聖剣が、日の光を浴びてキラキラ輝いている。

『何ってわからないのか? これは聖なる剣、聖剣だ』

『さっぱりわかんない? 普通の剣と何が違うの』

『な、何が違うって、この気品、迫力、オーラ……』

『……迫力? 』

 子狼俺の持つ剣を見ても首を傾げるばかりだ。

 あれ、変だな。

『それから、装飾の見事さ、金ぴかだし宝石もついてるし……』

『うん、キラキラしてるね……で? 』

『……やっぱ子供にゃあ判んねえんだろうな』

 と、自分で言いつつも、オレもこの聖剣の凄さに? ハテナマークがつく。

 そう言われると、なんかしっくりこないな。

 確か昔、手に入れた時に鑑定して聖剣だと確認したはずだけど、それ以後は巾着袋に入れっぱなしで、一度も使ったことが無いのでよく覚えていない。

 鞘のデザインとも合っているし、他にそれらしいのが無いので間違いないと思うのだが、なんと言うか、オーラがないというか、聖剣独特の神秘性というか迫力と言うか、何も感じない。

 こんなものか?

『まあいいや。とりあえず村に戻ろう』

『え~、まだ遊んでないよ~』

 ふうむ。……そうだなオレもこの剣を操れるかどうか自信もないし、練習してみるか。何せ前回は剣を握れなくて、後ろに放り出しちまったからな。

『じゃあ狩りでもするか。お前ウサギとか鹿とか、獲物をオレの方に追いたててくれ。オレが最後この剣で仕留めるから。獲物は山分けな』

『狩り!? やるやるッ』

 子狼(自称姉狼)は打ち合わせも何も無しに、嬉しそうに森に突っ込んで行く。

 えっと、オレはここで待ってるってことでいいのかな?

 手持ち無沙汰なオレは、二三度剣を素振りする。

 うん、刃渡りだけでオレの身長位はある剣だが、細くて持ちやすい軽い剣だ。レベルが上がったおかげか、剣を持つオレの握力もしっかりしていて、剣が後ろにすっ飛んでいくことは無い。

 だが、振れば振るほど、子狼の言うとおりごく普通の剣に思えてきて仕方がない。素材とか作りは悪い剣ではないのだが……。

 と、首をかしげているうちに、『ペンペ~~ンッ! 』と森の奥から子狼の声が聞こえてきた。

『お、獲物を追いたてて来たか――ナッ!? 』

 木々の間から真っ先に出てきたのは子狼の方で、その後ろをその四、五倍はある猪が追いかけてくる。

 追い立ててきたというより、完全に追い立てられている。

『あとよろしく~~ッ』

 と、半ば押し付けるように子狼はオレの隣をピュ~~と通り過ぎていく。当然、猪が俺に向かってくる。

 お前なぁ! と、文句を言う暇も無くオレは剣を身構える。

 猪の対処方法は主に二つ。

 一つは、猪突猛進の言葉通りまっすぐ突進してくるので、それにあわせて真正面、額の急所めがけてカウンター気味に拳もしくは剣をあわせる。

 だがこれは、生前のオレの体格や拳の強さがあって初めて生きてくる方法だ。今の小さく軽いペンギンの身体だと、拳は論外、剣を当てても貫通する前に弾き飛ばされるだけだ。

 剣を口の中に突っ込めればいいが基本、顎を引いて額や鼻を前面に押し出し、口は死角になるように隠して突進してくるからまず無理だろう。

 だとすれば方法はもう一つ、突っ込んでくる直前にひらりと横に避けて、横から首または脇腹から心臓へ剣をつきこむのだ。

 猪がオレにぶち当たる直前、オレは左足で地面を蹴って右にひらりと避け、着地した右足で地面を蹴りつけ、すぐに戻るように猪に肉薄し、聖剣(?)を猪の首に突きつける。

 剣は切れ味鋭く猪の頚動脈を切り裂き、猪はそのまま十数マイトル進んだ所でバッタリと倒れこんだ。

 うん、剣の切れ味は文句なしに良い。オレにも使えた。斬った時に首の骨に当たったようだが骨もすっぱり切れたし刃こぼれもない。まさに名剣だ。だが聖剣かと言われると、やはりハテナ? がつく。

 この猪は禍々しい気配というか雰囲気は無い。魔獣ではないのだろう。この剣で魔獣に対抗できるかまだわからなかった。

 オレは、コロポックルのクーを呼び出して猪を解体してもらい、左半分と内臓を子狼とその家族にあげる約束をして、右前脚をクーにあげ、残りの肉と骨と皮を俺がもらうことにした。

 オレはふと思ってクーに聞いてみた。

「クーはオレが魔力を渡してお願いすると、ウサギとか狩りもしてくれるけど、どのくらい大きな獲物まで狩れるんだ? 」

 魔力を大量に渡してお願いすればトライヘッドベアまで狩れるのかな? それなら前回怪我までして追い返す必要はなかったんだけど。

「大きさ? ……この猪は無理」

 足元にある解体された猪は普通の猪よりは大きめだ。それでもトライヘッドベアはさらに二周りは大きい。この猪で無理ならトライヘッドベアはもっと無理だ。

 無理か~。でもそりゃそうか。もし精霊にお願いして魔獣を倒せるなら、みんな一所懸命精霊と契約するだろうな。

 クーのおかげで解体も直ぐに終わり、もう少し聖剣(?)を試しながら狩りをして、モグラを二匹、ウサギ一羽を狩ったところで、今日は帰る事にした。

 クーは猪の前脚一本だけで充分というので、モグラ二匹はそのまま子狼にあげた。狼一家には猪半分とモグラ二匹あれば充分だろう。ウサギはオレがもらった。これでシルベスタの一家も暫くは肉に困らないだろう。

 クーとはそこで別れ、オレは子狼と共に黒狼の所まで猪とモグラを届けた後、村へともどった。

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