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第三十話 狼は走れ、ペンギンは乗っかれ?

 

 黒狼に魔獣クマ退治を手伝えといわれた。

 レベ20はある黒狼を一蹴する魔獣クマを退治するって、相当なレベルじゃないと難しいと思うけど。どうだろうか、オレの魔法って魔獣に通用するのかな。

 いや、無理だ。

 ……無理だと思うけど、試してみたい気もする。そう思ったら心の奥底がムズムズして来た。やっぱりオレってバトルジャンキーなのかな。

 だが、そうすると、魔獣クマがいるところまで行かないといけないのだが、

『元々、お前達のナワバリってどこなんだ』

『ふむ、ここからだと日が出る方向からもう少し横にそれた方に向かって、日が出て沈んでを何回か繰り返した位の場所か』

 うん、よう判らん。

 ようは、真東より北か南に少しそれた方に向かって狼の脚で数日って事か? 人間の足だとその三倍以上と考えて半月くらいか、もっとかな。

 う~ん、なんかそんな未開の森があったようななかったような。オレは頭の中で生前見た地図と照らし合わせる。

 こいつらがこの森に住むとけっこうな量の食料食うことになる。育ち盛りの子ども狼二頭に成狼が二頭、それも巨大なのとなればなおさらだ。そして村人は狼を恐れ警戒して森に入らなくなるので、なおさら村の食い物が減る。これはちっと問題だな。

 冒険者が狼退治に来て血みどろの死闘になるのも避けたい。オレとしてもどっちにも味方できないし、どっちが勝っても負けても寝覚めが悪い。

 もっと最悪なのは、黒狼が村を襲うことだ。そうなったら今度こそオレはこいつらと命がけで闘わなければならなくなる。

 それなら、魔獣クマ退治を手伝ったほうが良いかな。

 退治出来たらこいつら狼一家は元の荒野に戻るだろう。狼のナワバリはかなり広いと聞いたことがあるが、今まで問題なかったのだそれだけ距離が離れているのだろう。村にも迷惑はかからないはずだ。

 もし魔獣クマを退治できなければ、その時は神様の子どもにでも――。まあこれは言わないでおこう。駄女神がうるさいし。黒狼の方は……、そこまでは責任は持てない。いずれにせよそれしか無いだろう。

『よし、魔獣クマ退治、手伝ってやるよ』

『おお、ありがたい』

 黒狼の口角があがり、顔に笑みが浮かんだ気がした。狼も嬉しいと表情が変わるのかな。

『それじゃオレ達、友達だな』

 オレの目的は友達を作ってレベル100を目指すことだ。だから試しに狼とも友達となれるか聞いてみたのだが。

『トモダチ……? 』

 どうやら黒狼たちには友達の概念が無いらしい。親子そろって首をかしげている。

『友達ってのは、そうだな……困ったときには助け合える関係、みたいなものかな』

『ふむ、つまり仲間ということか』

『そう、仲間だ。だがただの仲間よりももっと親しくて、信頼できる間柄って感じかな』

『うむ、……我とキサマは我の小さい頃からの知り合いで、母者も世話になったし、仲間よりも親しい間柄ともいえるだろう。うん、仲間で友達だ』


 テケテッテケテッテッティエィエィエエエエェェェェェェンンンンンン♪

 どこかで変な効果音が聞こえてきた気がした。

 友達認定されて、レベルアップしたようだ。

『お前達の親父とも友達になったから、お前達とも友達だな』

『……?』

 子狼はどうかなと思って顔を向けると、なんだか分からない、という顔をしている。

『残念だな。友達になると、鹿肉とかウサギ肉とかもっと分けてやれたのに。お前達の親父には小さい頃よくウサギ肉を分けてやったんだよ。友達だから。でもそうか、お前達は友達じゃないのか……』

 オレが寂しそうに囁くと、子狼がびっくりした顔をしている。

 狼でもびっくりした顔ってするんだな。

『オレ達友達だよな、鹿肉のサルオジチャン』『な! 』『オン! 』

 あわてて子狼達が、……どころか母親狼まで嬉しそうに返事をする。


 デケデッテテエテュェイエィエエエエェェェェェェンンンンンン♪

 また調子っはずれの変な効果音が聞こえてきた気がした。

 子狼も無事に友達認定されたようだ。ふふふ、着々とオレの友達100人計画が進んでいる。

 狼が友達100人の中で“人”に含まれるのかはよく分からんが。

 ……しかし、サルオジチャンって何だ? どっからサルが出てきたんだ。

『では鹿も食い終わったし、早速行くか』

 早ッ!? お前、準備早すぎッ!

 隣で話を聞いていた母親狼や、子狼もオンッと鳴いて賛同する。

 オレにも準備って物がある……かな?

 準備も何もないか。ペンギンだし、着の身着のまま服も着てないし、全財産は空間魔法の効いた巾着袋一つだけだ。

 せいぜい心の準備だけだが、魔法を試してみたくて、心の奥底がムズムズしている時点で心の準備はできている。

  それじゃ行くか。

『お前に合わせて移動すると、一生かかってもつかない』

 そう言われてオレは、黒狼の背中に乗せられて東へ向かう事になった。が、そんな必要は無くなった。

『匂うぞ』

 え、何? オレ匂った?

 そういえば最近は、川で泳いでいるだけで、風呂に入ってないな。

 脇の下などクンクン嗅いでいると、何してんの? と子狼が首をかしげた。

『キサマじゃない。あの魔獣クマの匂いがする。もう近くまで来ている』

 黒狼によると、どうやら魔獣クマは、黒狼たちの匂いを追って近くまで来ているという。

『よし、返り討ちにしてくれるッ! 』

 そう言って黒狼はすぐさま駆け出した。

 オレは黒狼の背中にしがみ付きながら、心の中で魔法を詠唱して、魔法をストックする。なんとなくだが、四つくらいまでストック出来たような気がする

 黒狼達と友達になって、レベルアップした効果が早速現れたのか。

 これで威力も上がってれば良いんだが。

 などと思っていると、黒狼が不穏なことを言い出した。

『ふむ、近くに人間どもの村があったな。どうやらそっちに向かったようだな』

 すげえな狼って。匂いだけでそんな事分かるのか。

 ……ってマズイッ!? この近所の人間の村って、ジョシュア達の村しかないだろ。

 狼が現れただけでオタオタしてるのに、それより強いトライヘッドの魔獣クマが現れたらパニックになること間違いない。そして村は魔獣の餌場となるのが目に見える。

『魔獣クマが村に付く前に倒したい。間に合うか』

『バカな。人間を腹いっぱい食べて、動きが鈍ったときに後ろから襲ったほうが安全だ』

『イヤイヤイヤイヤッ、ダメダメッ、絶ッ対ダメッ。オレ、元々は人間だし、今は村の世話になってるから』

『……? 弱い者が食われるのは当たり前の事だと思うが』

 黒狼には人間を助ける意味が分からないようだ。野生動物にとっては当然の考えなのかもしれない。

『いや、人間だっていればいたで便利なんだ。お前達が手伝いたくないというなら仕方ない。オレだけで戦うから、村まではこのまま連れて行ってくれ』

『……』

 黒狼は少しの間考えていたが、『キサマが囮になって闘い、最後に我が隙をついて止めを刺すのも悪くない手か』

 ありがたい。

『だが、形勢が悪くなったら、直ぐに逃げるからな』

 この狼、プライドって物は無いのか。

 だがある意味それもまた、自然な考えかもしれないな。

 野生生物の最大の目的は、生き残ることであり、子孫を残すことだから。もし戦って勝てないと思ったら、生き残れる可能性の高い方法をとるのが当たり前だ。つまりさっさと逃げるという事だ。

 魔獣クマと戦う事だって、元々はナワバリ争いでエサ場の取り合いだから。もしエサ場が被ってなければ戦わなかった可能性が高いだろう。

 黒狼は小さい頃、母親と祖母の敵を討つためにこの森を出て元の荒地に戻ったそうだが、元の場所に魔獣クマが居ないとわかったら後を追う事もしなかったらしい。今回、魔獣クマがまたナワバリ内に戻ってきたから戦ったようだ。

 多分オレが戦って勝てそうも無かったら、またさっさと逃げるだろう。命の前にプライドも何も無いのだ。それが野生の生き物だ。ある意味ドライなのだ。

『ああ、それでいい』

 だが、オレは人間だ。

 見てくれはペンギンだが、心はれっきとした人間だ。……人間だよね。

 だから、エサ場の取り合いとか、そんな事はなくっても戦うときは戦うのだ。

 魔法を試したいから、そこに強い相手がいるから、オレが最強と証明したいから。

 クマ公なんぞに負けてられるか。人間最強説を実証してやる。

『飛ばすぞ、しっかりつかまっていろよ』

 黒狼はさらに走るスピードをあげた。


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