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第二十八話 ペンギンVS黒狼

『む、魔法を打つのか。……どうした? 打たないのか』

 どうやら黒狼は、オレが魔法を打つのを待っているようだ。

 多分、最初の魔法をなんとか交わすか、または力ずくで受け止めてから攻撃をするつもりようだ。いわゆる後の先というやつだな。

 不意打ちに魔法を食らえば危険なものでも、来るのを待って身構えていれば耐えられることもある。それに相手は攻撃の後は隙が出来やすいからな。

 メスや子供達は耐えられなくとも、自分は耐えられるという自負もあるのだろう。

 それなら、リクエストどおり魔法攻撃をお見舞いしてやる。

 魔法の詠唱を終えてたオレは両腕を上げ、そのままその左腕を振り下ろす。

『シッ! 』

 痛みをこらえながら、腕をふり下ろす。短い気合声と共に、見えない風の刃が湿った空気を切り裂いて黒狼の首筋の剛毛を散らした。

 黒狼はわずかに首をひねって、それをかわす。風の刃は首の右側の毛を一束切り落としただけで、不発に終わった。

『来ると分かっておれば、その程度の魔法など――ッ!?』

 避けられるのは予測済みだ。

『そうかよっ』

 魔法をかわしたことを自慢げに話す黒狼に向け、オレは右手を振り下ろす。振り下ろすと同時にオレの目の前で発生した炎の玉が、うなりを上げて黒狼めがけて飛んでいく。

『ウオッ! 』

 黒狼はあわてて飛び下がりながら炎の玉をかわす。だが、これもかわされるのは織り込み済みだ。

 オレは右手を振り下ろした直後に、下げていた左腕を横なぎに振り回す。

『グアッ!! 』

 炎の玉に隠れて繰り出された氷の槍が、黒狼ののど元、風魔法で剛毛を刈り取った部分に着弾する。

 無詠唱で作っておいた魔法は三つ、本命はその三発目だ。

 黒狼は風魔法だけを耐えればそれでいいと思っていたため、二番目の炎の玉に気づいておらず、それはあわてて避けたが、炎の目くらましの陰に隠された本命、三番目の氷の槍はまともに被弾してしまったのだ。

 戦いとはいつもに二手、三手先を考えておくものだよフハハハ――イテテテッ!?

『クッ、中々やるな、あの人間を殺しただけのことあある』

 しかしそんなオレの工夫を物ともせず、黒狼は首元から血を流しながらも笑って再び俺の前に立った。血の量から見て、急所の大動脈ははずしたようだ。まずいな……。

『キサマよくも』

 灰色狼は黒狼とは正反対に苛立った声を上げた。

『動けば、殺るぞ! 』

 おれはすぐさま腕を上げて、心の内に魔法の詠唱をはじめる。

『へえ、中々やるな。オレの三段魔法攻撃を受けてまともに立ってられたのはお前が初めてだよ』

 と、オレは余裕をぶっこいたようにニヤリと笑って見せる。

 心の中で詠唱をしながら、口を動かす。意外と出来るもんだ。

 今の言葉、嘘じゃない。でも三段魔法攻撃自体やったの初めてだから、それを食らって立ってる奴がいても初めてだし、倒れた場合でも初めてだ。

 生前には、無詠唱の魔法を二十個ほどストックしておいた事があったので、今でも出来るか試しにやってみたのだ。

『さて、オレの魔法の攻撃を後何回受けられるかな』

『まだ連続で出来ると言うことか』

『さあね』

 嘘です。もう出来ません。

 やるなら、そのつど、また無詠唱魔法を三回心の中で唱えないと出来ない。感触的には、今のレベルでは多分三個以上はストックできないだろう。

『コイツッ』『父ちゃんをよくもっ! 』

 その時、痺れを切らした双子狼が背後から、同時に飛び掛ってきた。

『チッ! 』

 短い気合声と共に右手を振り下ろし、風魔法を発射する。子供とはいえ野生の狼は俊敏性が高い、二頭とも楽々と魔法を避ける。

 だが一射目は囮、避けた先へ二射目を発射する。

『ガウッ!? 』『キャン!? 』

 野生の勘か、偶然か、先頭の子狼が二射目の魔法に気が付いてあわてて避けるが、避けた先にもう一頭の子狼がいてぶつかってしまう。

 体勢が崩れたそこを狙い済まして、オレの三射目の魔法が襲う。――はずだった。

『ガウッ! 』

『グギャッ』

 子供達の危機を感じ取ったのか、母親の灰色狼がオレの死角からオレを突き飛ばした。

 三射目の魔法は霧散して消えた。

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