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第二十六話  その二

『獲物が必要なら自分で狩るだけだ』

 なんかプライドが高いのかな。交渉は決裂か。

 ……いや、もう一押ししてみよう。

『よく見たら貴方、怪我をしてますね』

 父親と思われるリーダーの黒い狼は、黒い毛並みでよく分からなかったが、どす黒く変色した血がこびりついている。多分、パッと目には見えないがいくつも傷があるのだろう。何かと戦ったのか。

『そんなんでオレ達を狩れますか? まあ多分狩れるでしょうね。だけどオレも簡単には狩られません。手向かいします。手負いの貴方とメス狼と子供二頭相手だったら、どうでしょうね……』

『……何が言いたい』

『一番弱い奴を一頭くらいは道連れにします。一番弱いのというと後ろにいる子供狼と言うことになりますか。二頭倒すのは難しいかもしれませんが、一頭は確実に道連れにして見せますよ』

『フン、手足の短いサルもどきに、そんなこと出来るものか』

 どうやらペンギンの事は知らないようだ。まあ知ってたら余計になめて来るだろうけどね。

『出来るかどうか、試してみましょうか』

『……』

『ねえ、無理してここで戦って、子供を失う必要はないでしょう。それに弱い者が強い者に守ってもらい、その対価として獲物をささげる。これってごく当たり前の事ですよ。オレ達は鹿肉を差し出す、そして貴方達は今回オレ達の命を見逃す。正当な取引でしょ。しかも一番安全だ』

『ふん、サル相手に危険も安全もないわ』

 聞く耳持たないという感じだな。一発脅しておくか。

『……』

 オレが左腕を振り上げ、直ぐに振り下ろす。

 狼の耳がピクッと動いて後に動いた。同時に、黒狼の背後で木の枝がビシッと音を立て、ドサッと地面に落ちた。

 さすがに黒狼はあわてて振り返ることはなかったが、灰色狼と子供狼が動揺してびくりと身体を揺らす。

『何をした』

 オレが無詠唱の風魔法で打ち落としたのだ。耳が動いたのは風鳴りの音を追ったのか。

『鹿肉はくれてやる、約束は違えない。だがそれは、人間の子供達を助けるのが先だ。約束しなければ、……次に落ちるのは枝じゃないぞ』

 言外に子供を殺すと脅してやる。つい口調も変わっていた。

『キサマ、魔法を使うのか!? 』

 黒狼が明らかに動揺した声を上げる。

 普通の動物は魔法など使わない。使うとすれば魔物化した獣である魔獣か、もしくは幻獣の類か。例えばあの女好きのユニコーンは幻獣の一種で、治癒魔法を使える。

 あれ? ……てことはオレは幻獣なのか? まさか魔獣じゃないよね。

『キサマッ! 』

 オレから殺気も漏れていたのだろう、黒狼の嫁さんで子供達の母親であろう灰色狼が、警戒を強めて戦闘体制に入る。一息遅れて子供達も身構える。

『……』

『……アンタ』

『父ちゃん』『腹減った……』

 黒い狼は悩んだようだが、他の三頭、多分嫁と子供達がひもじそうオレ達を見ている。 

『鹿の大きさによる、で何処にある』

 妥協点が見つかったようだ。だが、まだだ。

『大きさは後ろの人間二人分はある。約束しよう、だが二人を逃がすのが先だ』

『だめだ、鹿肉を見せるのが先だ』

 ふうむ、下手に肉を見せるともっと寄越せと言ってくる可能性があるからな。

 オレは再度腕をあげる。

『二人を逃がすのが先だ。……どうする』

 オレが答えを求めると黒い狼は逆に警戒を解いて残りの三頭に声をかけた。

『子供たちよ道を明けてやれ。人間の子供の変わりに鹿肉をもらう事にする』

『……アンタ』

『『わーい、鹿肉ッ! 』』

 父親狼の話が理解できたのか子狼たちはその場でピョンピョンはねている。灰色狼は何を考えているのか、顔つきこそ少し穏やかになったが、まだ警戒を解いていない様でその場を動かない。

 だが獣の世界はリーダー、父親の意見は絶対らしい。逆らったら群れを追い出される事もあり、そうなれば死が待っているからだ。

 一匹狼なんて言葉があるが、ホントは殆どいない。群れから逸れた狼は、一頭では狩りもできずにすぐ死ぬからだ。少し悩んだようだが、灰色狼もその場をどいて遠回りに黒狼の傍に移動した。

 やれやれ、なんとかジョシュアたちは助けられそうだな。

「グアーグエーオー(先に村へ帰れ)」

 オレはデミたちを振り返って話しかけると、

「え、何、村へ帰れって? 」

「あれ、なんかカタコトだけどペンペンの言うことが分かる!? 」

 おお、オレの言葉が通じるぞ。多言語解析機能のおかげかな。

 狼に話しかけていたときは分からなかったみたいだから、誰に話すか意識しないと通じないのかもな。まあそれは後で検証しよう。まずは二人を先に返さないと。

「あ、狼が道を空けてくれたよ。そっか帰ってもいいんだ」

「なんか話してたもんね、話し合いが付いたんだ。じゃあ帰ろう」

 ジョシュアが手を差し出すがオレは短い首を振る。

「グアーグエー・・・略・・・(二人が帰ったら、鹿肉を渡す約束をしたから。だから二人は先に帰ってくれ)」

「ええ? 一緒に帰ろうよ」

「グアーグエー・・・略・・・(いや二人の安全が優先だ。狼が約束を守るか分からないから)」

 ジョシュアが駄々をこねるが、オレは小声で反論して譲らない。

『聞こえてるぞ。我は一度した約束は破らない』

 黒狼はそう言うが、鹿肉を渡すのは二人の安全が担保されてからだ。先に渡して一緒に帰るというわけには行かない。

「ジョシュア、ここはペンペンの言うことを聞きこう。ペンペンだったら狼と友達みたいだし、大丈夫よ」

 暫く押し問答をしたが、最後はデミが折れてジョシュアを説得し、二人で村へ帰っていった。

 見えなくなって暫く待った。子供狼は『早く早く』と舌を出して待ちきれないようだ。

『待たせたな』

 オレは首から提げた巾着袋から、さっき仕留めたばかりの鹿を出して見せた。

 コロポックルのクーに解体してもらったので、毛皮は付いていないが鹿の形はそのままになっている。

 血の滴るうまそうな肉だ。っていうかさっき仕留めたばかりなのでホントに血が滴っている。

『えっと、母ちゃん。お腹空っぽ』

 子供狼は内臓のない鹿肉を見てがっかりしている。母親狼も驚いていた。

 筋肉も美味いが、内臓の方が美味いし栄養価が高いので、獣は真っ先に内臓から食べる。柔らかいしね。だがすでに解体されて内蔵がない肉を見て子供たちががっかりしていた。

『こっちに分けてある』

 オレは肉とは別に、一抱えはある壷を取り出す。

 仕留めた鹿は魔獣ではないので内臓も食べられるが、下処理が必要なので、クーに言って、肉と内臓は別にして取ってあった。

『ねえねえ』『食べていい』

『ねぐらに戻って、父ちゃんが食べてからね』

 灰色狼が、早く食べたそうにしている子供狼を嗜める。

 やれやれ今日のところはこれでなんとか済んだな。と思っているとなんだか父親の黒狼のようすがおかしい。

 オレを真上から見下ろすように睨んでいる。っていうか顔がメッチャ威嚇してくる。

『キサマ、その不思議な袋をどうやって手に入れたのだ』

 へ? 袋? 何? オレ、なんか知らん間に地雷踏んだ?




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