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第二十四話 Saide シルベスタ一家

 シルベスタとジャンは足早に帰宅すると、家族全員を呼び集めた。

「アーノルド、ジェシカ、メグ。申し訳ないが三人は、明日からオレと一緒に森に行ってもらう」

 シルベスタは森で狼が目撃されたことを手短に伝え、三人に狼の調査をする事になったので武器と防具を用意しておけと言い、他の家族には森に入らないように言った。

「うわ、ヤッバ。昔の防具着られるかしら」

「あたしの方がやばいわ、エマを産んでから、腰の辺りが元に戻らなくって……」

 元女性冒険者たちは変なところを心配している。

「オレも鎧着られっかな」

「「あんたは筋肉つけすぎッ! 」」

「き、筋肉悪くないし、鎧が縮んだだけだし」

「「鎧が縮むかッ! 」」

 アーノルドも鎧が着られるか気にしているようだ。

「パパ、危ないところに行くの」

「エニーも行かないほうがいいと思う」

「はは、危ないかどうかは言ってみないと判からないよ。だけど、危なくなる前に逃げてくるから大丈夫さ。それよりも、お前達は爺様やお母さんの言うことをよく聞いて、森には入るなよ。親父、みんなを頼むよ」

 アニーとエニーに安心するように笑顔で語りかけ、最後はジャンに頭を下げた。

「まあ家の事は心配するな。お前は一緒に行くメグ達のことを心配するがいい」

 祖父のジャンが力強く言うのに、シルベスタは静かに頷いた。

 話はそれで終わって、みなそれぞれの行動に移った。食事の用意はリースとアンがすることになり、シルベスタ達偵察組みは明日の準備を始めた。ジャンは「塀の修理に木材がどのくらい必要になるかな」といって家の裏手に向かっていった。

 子供達はそれぞれ出来る範囲で大人の手伝いをするか自分の部屋に戻っていった。

「ねえ小従兄ちゃん(ちいにいちゃん)、ペンペン知らない?」

 それを複雑な表情で見ていたエマが、部屋に戻ろうとするジョアンの袖を引く。

 ジョアンは首をかしげる。そういえばペンペンは食堂の話し合いの時もいなかった。

「玄関の小屋にいるんじゃないのか」

 玄関を入った所にペンペン用の小さな部屋、ペン小屋がある。

「ん~ん。ペンペン朝からいなかった。ペンペンはオオカミの事知らないでしょ、教えてあげないと」

「別に大丈夫だと思うけど」

「そういえば、ペンペンってよく森に出かけているような……」

 ジョシュアが後ろから来て話しに加わって、「姉ちゃんが初めて会ったのも森だって言ってたし」と、いつも森にいるような事を言い出すので、エマは余計に不安な顔をした。

「呼んだ?」

 デミが来たのでペンペンの事を聞いたが、デミもペンペンが何処にいるか知らなかった。

 玄関に行ってペン小屋を見るが、やはりもぬけの殻だ。

「「「「今も森にいるかも……」」」」

 四人の意見が一致した。

「僕見てくるッ」

「バカ待て、僕が行く」

「ダメダメ、ペンペンの一番の友達はあたしなんだから、あたしが行くわ」

 結局デミとジョシュアが二人で森へ行くことになった。


 北と南にある村の出入り口は、門が閉められ堅く閂がかけられていた。さっそく狼が村に入って来られないように対策したようだ。

 馬よりも大きな狼が体当たりしたら直ぐに壊れそうな門だが、門の外側の空堀にかけられた跳ね橋は堅い樫の木で作られている。それを跳ね上げれば、門扉を外側からカバーできるため、結構な強度にはなる。

 当然、デミやジョシュアが外に出るのは無理そうだった。

 それに門の傍で臨時の見張り用の櫓を作っている最中で、村人が絶えず常駐していた。

 姉弟は、村を半周回って壊れた塀から空堀に降りて泥だらけになりながら森へ向かった。

「ねえ姉ちゃん」

 走りながらジョシュアがデミ質問してきた。「ペンペンって、何なの」

「ん? 」何を言われているか分からず、デミは言葉少なに聞き返す。

「だって、ペンペンってペンギンでしょ? なのに普通の犬とかよりも、人の言葉がよく分かるみたいだし、トイレだって僕ら何も躾てないのに、人間用のトイレでしてるし」

「そういえばそうね」

「ジョアンが百科事典見てると、横からそれを覗き込んで見てた事もあるし」

「そういえば変なペンギンね、アニーやエニーたちの話だと白馬に乗ってたとか」

 そう考えてみると、ペンペンはタダのペンギンとは思えない。

「まるで、ペンギンの皮を被った人間みたいだなって思って……」

「はは、まさか……」

「か、もしくは前に姉ちゃんが言ってたあの神様の使いの謎生物? 」

「あの、森の魔獣を片っ端からやっつけたっていう……聖獣の事? まさか、そこまで強そうでもないけど」

 ジョシュアの考えをデミは一応は否定する。だが絶対違うとも思えない節がいくつもあり、頭が痛くなった。こんな時のデミの解決方法は単純明快だ。

「考えてもわかんないんだったら、本人に聞いてみればいいじゃん」

「本人って、ペンギンだよ? 」

「だって、人の言葉が分かるんなら話も出来るんじゃない」

 さすが筋肉親父シルベスタの長女だけあって、デミは深く考えるよりも直球で聞いてむるほうが好きなようだ。

「そうかな、……そうだね」

 長男のジョシュアの方も似たり寄ったりな考えのようだ。、本好きのメガネ男子、次男のジョアンの方は、あまり脳筋な考え方はしない。今この場にいたらなんと言うだろうか。だが今は脳筋な長女と長男しかいないので、突っ込む者がいなかった。

 森に入って、まずはペンペンと初めて出会った場所に向かう。森の中でもそれほど奥まった場所ではなかったと思う。

 薬草を探して歩き回っているときに、何か枯れ木を踏みつけて折ったような音がして振り向くとペンペンがいたのだ。

 転んだペンペンがこちらをじっと見ていたその顔が、泣きそうな恥ずかしそうな変な顔だと思ったのが、デミの第一印象だった。

 癒されると言うか、保護欲をくすぐられるような不思議な動物だった。

 初めて会った場所にペンペンはいなかった。

「薬草の群生地に行ってみよう」

 そこから少し移動した所に、木々の少ない開けた場所があり薬草が群生している原っぱがある。ペンペンが連れて来てくれたのだ。

 そういえば自分が薬草を探している時に、薬草の群生地に連れて来てくれるというのも不思議な話だった。 

 やはりペンペンは不思議な動物だな、とデミは思った。

 原っぱに向かう道の途中で、よく知っている、黒と白のリバーシのような物体を発見した。ペンペンだった。

 ペンペンは微動だにせず短い両手を上に向けてどこか一点を見つめている。

「ペンペ――フゴッ!?」

 ペンペンに声をかけようと声を出した瞬間、ジョシュアがその口をふさいだ。

「姉ちゃん、シッ。アレ見て」

 ジョシュアが目線でアレを見るよう促す。ペンペンの見つめる五十マイトル前方に、大きな角の鹿がいた。静かに木の若芽を食んでいる。

 祖父ジャンによると、鹿は若い苗木を食べてしまう害獣で、ある程度駆除しないといけないらしい。

 その鹿が、ふと何かに気がついて首をもたげた。その次の瞬間、ペンペンがシッ、と小さい気合声を上げ、同時に両腕を振り下ろす。

「「――ッ!? 」」

 その瞬間、ペンペンの視線の先にいた鹿が首から血しぶきを飛ばして、悲鳴を上げるまもなくドウッと崩れ落ちた。

「に、姉ちゃん、何があったの(ひそっ)」

「さ、さあ……(ひそひそ)」

「姉ちゃん、声かけなよ? (ひそひそ)」

「ちょ、ちょっと待って……(ひそひそ)」

 様子をみている姉弟には気がつかず、ペンペンは鹿に近づいていく。

 そして「グワグワー」鳴くと同時に手を頭上に上げる。するとなんと一瞬で鹿がいくつかの部位に解体されたのだ。

「「――ッ!? 」」

 しかも次の瞬間、その鹿は消えてなくなってしまったのだ。

 何が起こったのか理解が出来ない姉弟だったが、考えられるのはただ一つだけだった。

「姉ちゃんペンペンって魔法が使えるの? (ひそっ)」

「知らないわよ(ひそひそ)」

 その後もペンペンは、二人が見ているとも知らずに、モグラかウサギらしき獣を、謎の方法で首を切って、不思議な方法で解体して、いつの間にか消し去っていたのだった。

 姉弟が理解したのは、なんだかさっぱり分からないが、ペンペンはどうやら魔法を使っているらしいという事だけだった。

「よし」

 デミが意を決して隠れた茂みから出た。「声をかけようか」

「だけど、何て聞くのさ」

「ん……まあ、別に聞かなくってもいいんじゃない。何か秘密はあるかもしれないけどペンペンは友達だからね。言いたくなればそのうち言うだろ。狼の事があるからそれだけ言えばいいわ」

 深く考えるのは苦手なデミはさっそくペンペンに声をかけた。

「ペンペーン」

 それを見てジョシュアもため息をつきながら後を追う。

「言いたくなったら言うって、ペンギンはしゃべれないと思うけどなあ……。でもペンペンならしゃべれるのかな? 」

 疑問に思いながらも、もう成り行きに任せようと思うジョシュアだった。


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