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第二十二話 ペンギン、魔法で狩りをする

 三人娘だけではなく、家族全員と友達になっていたオレはレベルアップしてレベル十四になった。

 ……はずだ、多分。

 レベル十四といえば、確か駆け出しの冒険者よりは強かったような気がする。

 だが、果たしてペンギンのレベル十四がどれほどの強さか、試してみないとわからない。

 デミの家事手伝いから開放されたオレは、翌日、魔力が回復したのを確認するとさっそく森へ移動する。

 うん、移動はやはりレベル四の時よりも早くなった。人間が歩くのよりも速く走れる。

 まあ逆に言えば、人間が走れば簡単に追い抜かれるということだが、それでも今までとぜんぜん違う。

 人間にとっては小さな一歩だが、ペンギンにとっては大いなる飛躍なのだ。

 では続いて戦闘能力の把握だ。

 まず剣術は……。

 そして手裏剣……。

 さらに格闘技は……。

 予想通りというかやはり全滅だった。剣は握れるようにはなったが、まだ筋力が足りないので振り回せない。振り回すというより振り回されている感じ。時々すっぽ抜ける。

 手裏剣も何処に飛んでいくやら判らない。

 手足が短いから殴る蹴るも、関節技も出来ない。

 ……。

 ショ、ショックじゃないぞ。ある程度予測できてたからな。ホントだぞ。

 では改めて、今度は魔法だ。こっちは期待している。

 無詠唱の魔法ができれば、ペンギンでも魔法が使えるはずだ。

 まずは基本の魔法、風、火、水、土、特に一番発動させやすい風の魔法から試すか。

 狙いは前方の立ち木の枝。

 あの枝を切り落とす。オレは頭の中でイメージを固めて念じる。

 風の魔法よ枝を切り落とせ。

 ……枝はピクリともしない。

 ま、まあ久しぶりの魔法だからな。たしか無詠唱の魔法といっても慣れない頃は、心の中で詠唱して魔法を発動させていたはず。

<響け響け風の音、照らせ照らせ命の火生きとし生ける全ての命の源、自然の摂理を書き換えて風よ起これ、あの枝を打ち払え>

 枝を切り落とすイメージを固めてから心で魔法を詠唱し、腕を振り下ろして風魔法を発動させる。

 ヒュッ。

 すると一陣の風が巻き起こり、ヒュッと音がすると同時に前方の枝が、小さな音を立てて断ち切られポトリと落ちた。

 い、い、いやった~~~ッ! ついに魔法が使えたぞ。

 言葉に出す必要は無いが、今はまだ心の中では詠唱は必要なようだ。

 オレは感動に打ち震え天を仰いだ。

 これで友達ができることでホントにレベルが上がることが実証できた。

 歩くのが早くなったのは、単にペンギンの身体に慣れただけかもしれなかったからな。

 オレはさっそくいくつか魔法を試してみる。

 まだ威力は低いが一通り魔法は使えた。

 手の動きは必要ないが、あったほうが魔法のイメージもしやすく威力も安定するようだ。

 レベルが上がれば威力も上がるかな。

 風は一番使いやすい。そこらじゅうに風が吹いているからな。

 水魔法もそれほど難しくない。バケツ一杯くらいの水は簡単に出た。

 これを遠くまで飛ばすことも出来た。威力はそれほどでもなかったが。レベルが上がれば色々使い道もあるだろう。

 土魔法は地面を隆起させたり、穴を開けたり物理的に土を移動させるので中々魔力を使う。だが発動自体は簡単だ。慣れれば動かせる量も多くできるだろう。

 火の魔法は一番難しかったが、出来なくはなかった。まあ慣れれば問題ないだろう。

 ってか、経験値は必要ないので、友達作ってレベルを上げれば、自然と威力も上がるだろう。

 続いて上級の聖、光、闇、雷、時空の魔法を試す。

 結果から言えば聖魔法、つまり回復魔法がかすかに使えただけだった。まだレベルが足りないのだろう。

 生前も基本魔法を覚えた後、回復魔法を覚え、暫くしてから闇、光、時空、雷の順に魔法を覚えて言ったような気がする

 まあ魔法も使える事はわかった。今はあせっても仕方ないだろう。友達が出来ればレベルも上がって、また使える魔法も増えるさ。

 ぐ~~~~ッ。

 魔法のテストも終わって、これからどうしようかと思ったら腹が鳴った。

 空を見上げると太陽は天頂をやや西に傾いている。

 朝から三時間以上魔法を試していたらしい。

 うむ、せっかく魔法が使えるんだ。魔法で何か獲物でも狩ってメシにするかな。

 と思っていると、前方に何やら獲物がいる気がする。

 近づいてみると、魔獣の二本角ウサギが木の実をせっせと食べているところだった。

 魔法は使えるのが分かったが実戦で使えるかはまだ試していない。やってみるか。

 落ち着け。狙いを定めろ。はずすなよ、はずせば逃げられるどころか反撃してくる。

 今のオレは剣も格闘技も何もないから、反撃されたら勝てる保証はない。

 オレは前方の二本角ウサギを狩るイメージをもって、心の中で風魔法を詠唱する。

 ドビシュッ。

 風魔法が発動して、ウサギを切った。狙い通りの位置は切れなかったが、ウサギはその一撃が致命傷となったようだ。

 フウ。やった。

 終わって初めて、ドキドキと心臓の音が聞こえてきた。

 久しぶりの魔法の狩りに、少し興奮していたのに今気がついた。

 最近はコロポックルのクーに狩ってもらってばかりだったからな。

 オレはピクピクと身体を痙攣させるウサギに近づく。

 ついさっきまで元気に木の実やらを食べていたものが、今はオレの足元で動かなくなっていき、その痙攣もとまった。

 まさかウサギはこうして命を落とすとは思ってもいなかっただろう。

 少し残酷だなと思った。

 だがすぐに俺は首を振る。こいつが死んだことで俺は生き延びられるのだ。

 オレがこいつを見つけなかった場合でも、誰かがこいつを見つけただろう。または、こいつがオレを見つけてオレを狩ったかもしれない。雑食の魔獣ウサギは見た目に反して共謀で、人間の幼児辺りなら平気で襲って食うから。

 弱肉強食、これが自然なのだ。

 木の実も意識があるなら、ウサギに食われるとは思っていなかったかも知れない。

 それを食べたウサギも、すぐにオレに殺されるとは思っていなかっただろう。

 そしてオレも、この後すぐ殺されて、魔獣か何かに食われるのかもしれない。

 こうして世の中は回っているのだ。

 目の前で冷たくなっていく獲物を見て、なぜか感傷的になったが、これも自分の手で久しぶりに獲物を狩った興奮の余韻なのかもしれない。

 干渉を捨てて俺は獲物を解体することにした。

 しかし……、相変わらずナイフはもてない。

 いや、持てるけどナイフを獲物に当てると、刃が食い込む前にオレの握力が負けてナイフを落としちゃうんだよね。

 仕方なく、オレはコロポックルのクーを呼び出した。

「この獲物、半分やるから、解体してくんない」

「うん、いいよ」

 クーはニコニコと上機嫌で獲物を即座に解体してくれた。

 肉と骨と内臓と皮と角にきれいに分けてくれる。やっぱりクーは便利だな。

 先日メグとジェシカが話をしていたのを聞くと、骨はスープや肉料理のソースのダシを取るのに使えるらしく、取っておくことにする。

 魔獣の内臓は、普通の人間が食べるのには浄化する必要があるらしいが、そんな魔法、滅多に使える人はいない。クーが欲しそうだったのであげた。

 あと皮と角も売れば多少は金になる。ためておいて、後で居候の食費と家賃代わりにまとめて支払おう。オレはペットじゃないから、ジョシュアやデミたちの友達で居候させてもらってるだけだから、家賃と食事代は払うのだ。

 生前ためた金貨はあるが、こんな田舎には金貨は出回らない。こっそり出すと後々面倒になるので、なるべく別の方法で恩返しをしたいのだ。

「クーありがとな。ほら、肉半分」

 肉を受け取ったクーが、ウサギ半分を一口で丸呑みした。自分の身体よりもでかい肉を丸のみって、どないやねん。まあ妖精だからな、と無理やり納得する。

 その横でオレも火をおこして食事にする。

 ふむ、淡白な味だな。塩気も足りない。

 昔はこれで充分美味いと思ったものだが、メグやジェシカたちの食事になれると味付けがだいぶ物足りない。

 ペンギンに転生してからの方がグルメになるなんて、おかしな話だ。

 しかたなく、今後は取った肉はすべて彼女達に料理をしてもらおう。

 ということで、もう少し狩りを続ける。

 その後、鹿を二頭、ウサギ三羽、ウサギと思って間違えたモグラ二匹を狩ったところでだいぶ日が傾いてきた。

 狩りをするなら風魔法が一番便利だな。炎の魔法だと威力の調整が出来なくて、ウサギを一羽丸こげの炭にしてしまったので調整が難しい。

 モグラは、解体を手伝ってくれたお駄賃としてクーにあげた。

 メッチャ喜んでくれる様子がとても癒される。

 この様子を見たくて呼んでいるといっても過言ではないかもしれない。

 さて、今日はもう帰ろうか――、と思い、鹿とウサギを空間拡張魔法の効いた巾着袋に仕舞ったその時、遠くからオレを呼ぶデミとその弟ジョシュアの声が聞こえた。


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