第十七話 三人娘と花と馬……とペンギン
「グエーグエー(さあ帰ろう)」
オレが三人娘に声を掛けると、なんとなくオレの言ったことがわかったのか、エマが「ダメ、まだお花が見つかってないの」と真剣な顔になって言い出した。
そうか探していたのは花だったのか。
ジョアンにと一緒に植物辞典を見ていたから、何か教わっていたのかな。
「グエーグエーガー(そんな事言ってもなあ)」
しかし、そうは言ってももう大分、日が傾いてきた。
『花か、どんな花が必要なんだ』
オレの心配をよそにユニコーンはエマに顔を寄せて、ブルルと声をかける。
んな事聞いても言葉通じないぞ――、と思っていたら、
「お婆ちゃんが大好きなお花」
なんかエマは普通に会話してるんですけど。
「えっと~フラウっていう白いお花探してるの」
「なんか、願い事がかなうんだって」
もはや三人全員、ユニコーンの言葉が分かるように話している。
しかし願い事がかなうなんて、そんな花あるのか?
と思っていたら、
『フラウの花か。分かった、乗れ』
そういってユニコーンが膝を折って座り込み、三人娘に背に乗るようにブルルとささやいた。
「「「知ってるの!? 」」」
だから、なんで言葉が通じるんだよ、と突っ込みを入れたいところをぐっと我慢する。
『いいから乗れ』
ユニコーンに催促され、三人は急いでその背中によじ登る。
ユニコーンはすぐに立ち上がって一声嘶くと、一目散に白い花が咲く場所へ向けて駆け出した。
・・・・・・オレを置いて。
「チョ、マッ! 」
乗り損ねたオレは、あわててユニコーンの後を追いかけた。
幸いオレの脚でも、五分も走らない所、山の中腹にユニコーンたちがいた。
その足元に白い花が五輪ほど咲いていた。
早速エマが、白い花を根っこごと採取しようとしている。
双子がそれを手伝っている。
『これが願い事をかなえる花なのか、ホントなのか? 』
『さあな』
ようやく追いついたオレが質問すると、ユニコーンはそっけなく答えた。
『さあなっておまえ』
『あの花がフラウって花なのは間違いない。そしてその花にはフラウという名の花の妖精が宿っている』
フラウ・・・・・・って花の妖精の名前なのか。
『フラウは、妖精の女王ティターニアの眷属。世界のさまざまな噂話や出来事を、ティターニアに伝えるのがフラウの役目なのさ』
そうか、願い事をフラウに言うとそれがティターニアに伝わり、ティターニアがその願いをかなえる、というわけか。
『ティタニーアが願いをかなえるかどうかは知らん。なんせ気まぐれで気が強い女王だからな』
まあ、それもそうだろうな。
そんなに簡単に願いがかなうなら、人は苦労はしない。
でも、できればかなってほしいな。デミに怒られるのを覚悟でこんな山まで採取しに来たんだから。
そんな話をしているうちに、三人娘は二輪の花を採取し終わったようだ。
「ガーグエーゴー・・・略・・・(いいのか、あと三つ残ってるけど? )」
「うん、リースお姉ちゃんとお婆ちゃんの分があればいいから。取り過ぎるといけないんだって小従兄ちゃん(ちいにいちゃん)が言ってたの」
小従兄ちゃんとはジョアンの事だ。・・・・・・ふうん、そんなもんか。
そうか・・・・・・願いがかなう花だったら、今度こそ神様の子供に――ッ!?
「あっ、なんかペンペンが悪い顔してる」
「あ~ホントだ」
「何考えてたの?」
三人娘に突っ込まれる。そんな顔に出てたかな。
「グオーグウー(いいからもうホントに帰らないとまずいだろ)」
オレがギャーギャー言い訳しながら空を仰ぎ見ると、日はかなり西に傾いてきている。このまま歩いて帰ると確実に日は沈んでしまうだろう。
「いっけない、ママのカイキイワイ? のパーティーに間に合わなくなる」
アニーが泣きそうな声で言った。
そうか、ヘビに噛まれて寝ていた、双子の母親のリースと祖母のアンが、今日床払いをして、家族でパーティをするのか。そのときに花をプレゼントしたかったんだな。
だけど、パーティに間に合わないというレベルじゃない、確実に心配をかけて、怒られるだろうな。
ユニコーンを見上げると、オレの考えと一緒だったのか、ユニコーンが再び三人の前で膝を突いた。
『お前たち、どうせ麓の村の者だろう、送って行ってやろう』
三人は素直にその背に乗った。だからなんで言葉がわかるんだよ。
と、突っ込む暇もなくユニコーンは立ち上がろうとするので、今度こそ乗り損ねないようにと、三人に続いてすぐにその背によじ登る。しかし、
『オスを乗せるユニコーンはいない』
といってオレをふるい落として走り出す。
「ガッグエーギョーギョー(ちょ、チョット待て)」
あわててオレはユニコーンの長い尻尾をつかんだ。
「イデデデデデデ」
オレはそのまま、村までずっと引きずられ続けることになった。
これだったら、素直に置いてけぼりになった方が良かったかな、と思わずにいられなかった。




