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第一話 ペンギン大地に立つ

第一話   ペンギン、森に立つ



 次に眼が覚めたのは、どこかの森の中だった。

 うっそうとした薄暗い森だ。なんだよこれ。

 どっかの神の子に生まれ変われるようにお願いしたのに、捨て子か?

 ああそっか、ここから湖の妖精とかに出合ってレベル百を超えられるように鍛えてもらえるのかな。

 えっと湖はどこかな。

 見回してみるとそこは、見た感じあまり手入れもされていない、人の入り込まないような深い森だ。巨木が茂り放題、コケは生え放題、倒木は倒れ放題、まさに自然のまんまだ。

 ゲーゲーと鳴きながら、巨大な鳥が木々の上を飛んでいく。

 とにかくここにいても始まらない。湖を探しに行こう。

 だけど倒木や木々が邪魔で周囲がよく分からない。

 後ろは直径四、五マイトルはある巨木があり、右はヒイラギのようなトゲトゲの葉っぱを持つ低木。右は触れたらかぶれるのが明らかなウルシ系の木々。

 目の前は、太さは四、五マイトルはあるだろう巨木が、雷に打たれでもしたのか倒れていて視界をふさぐ。ドッチかに行くならこの倒木を超えるしかないだろう。

 まあこんなのオレにかかれば軽くひとっ飛び・・・・・・。あれ飛べない。

 いくら力を入れてジャンプしようとしても、視界が十か二十センチマイトルほど上下に動くだけだ。

 レベル九十九のオレに飛び越せない高さではないのだが・・・・・・。そうか生まれ変わってオレはレベルゼロからやり直しって言われたっけ。

 仕方ない五歳児と同じ力でこの倒れた巨木をよじ登るか。

 と、倒木の枝に右手をかけたとき、オレはものすごい違和感を覚えた。


 何だこれ?

 オレの手が、素手で岩をも砕くオレの拳が、ない。無いっ、ナイッ!

 どんなに見てもそこには手がない。なんだか知らない三角っぽい細長いサメの背ビレのようなものしか見えない。

 オレの手で枝を掴んだと思ったら、その三角のサメのヒレが枝を掴んで(?)いた。

 オレが手を枝から離すと、そのヒレが枝を離す。

 左手を伸ばすと、左側でまた別のサメの背ビレが伸びてくる。

 ・・・・・・。

 えっと、つまりオレの手が進化して、より凶器に近い形に生まれ変わったということか? このヒレに見えるような手(?)は実はちょっと幅広でかなり短い片刃の剣だったとか、・・・・・・なわけはないよな。

 だって倒木の枝を握れるくらいくねくねだもん。

 ちなみに、念のため手刀で枝を切れるか試してみた。

 ドゴ――ッ!?

 イタイッ、痛いッ! 

 枝が切れるとか、折れるとかその様子は微塵もない。オレのサメの背ビレの手がメッチャ痛いだけだった。 

 ちょっと落ち着こう。ここは深呼吸だ。ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。

 たぶんまだ夢の途中、もしくは生き返り前でこの後、普通の人間に生まれ変わるはずだ。

 そうだ夢だ、これは夢だ。その証拠に頬をつねっても全然痛くない。

 ・・・・・・つねる指が無かった。

 殴ってみる。

 ・・・・・・手が届かなかった。

 っていうか、さっき手刀で枝を切ろうとしてメッチャ痛かったのを今思い出した。

 ズーンと落ち込んでその場にうずくまる。

 そこでまた違和感が。

 ・・・・・・あ、足がない。

 いや、足らしき物は有る。だがそれは人間の足以外のモノだ。あるのはアヒルや鴨みたいな水掻きのついた足だ。水鳥か?

 鶏は三歩歩くとモノを忘れるという。オレもなんか忘れっぽくなってような気がする。

 オレは鶏にでもなったのか・・・・・・イヤ、この手足は鶏じゃないよな。

 そして足をよく見てみる、鳥っぽい足先はあるが人間の脛に当たるものが無い。あるのは何だ良くワカランがオレの腹らしいものだ。全体的には白いが両脇は黒っぽい。

 そして足は・・・・・・足は無い、ほとんど無いッ! 超短足だった。

 ・・・・・・。

 いや、オレは足が短くたって気にしないぞ。たとえ女にモテなくってもレベルを百越せれば、・・・・・・こんな短足でレベル百を越せんのか?

 本日何度目かの落ち込みで膝をつく・・・・・・腹をつく?

 ・・・・・・。

 何を見るでもなく地面を見る。水たまりが出来ていた。

 昨日は雨でも降ったのだろうか、それともオレの心の汗がたまったのだろうか。

 覗きこんでまたまた違和感。

 これはだれだ。

 オレが手を上げると、水溜りの向こう側で口ばしを生やしたヤツがサメのヒレのようなものをあげる。

 オレが口を開けると口ばしを開ける。

 目元はつぶらな瞳だが、頭はくせっ毛なのか逆立っている。

 ふむ。

 超短足で、手がサメのヒレのように細長い三角で、水鳥のような足をしていて、胴体が白と黒、そして口ばしがある生き物。オレはこの生き物を知ってる。

 なぜ深い森の中にコイツがいるかワカランが、確かに知っている。

 なぜペンギンが森にいるんだ。

「グワッゴーギャーーーッ!(なぜオレがペンギンに生まれ変わったんだ~~~ッ!)」

 オレはなぜか身長五、六十センチマイトルのペンギンに生まれ変わっていた。


     ※


『も~、ちゃんと生まれ変わらせてあげたのに、なんでショックを受けるのじゃ~? 』

 地上でペンギンに生まれ変わった男の様子を見ていた女神が、ため息混じりに呟いた。

『ウシャスちゃんどうしたの?』

『ちょっと聞くのじゃラートリーちゃん、妾が担当した魂なんだけどの~』

 やってきた同僚の女神に、もう信じられないのじゃ~、とばかりに、ため息をついていた女神が愚痴をこぼす。

『輪廻転生で生まれ変わらせてあげたんじゃがの~、地上に降りたらなんか知らんけど、ショック受けてるんじゃ』

『どれどれ・・・うん・・・まあ、そりゃあ普通の人からしてみればショック受けるわよ』

『そういうもん? だって生まれ変わらせたんじゃよ』

『う~ん、たぶん違うんじゃない、だって・・・・・・あれペンギンでしょ』

『ペンギンじゃよ? 』

 ラートリーと呼ばれた同僚女神が首をかしげ、それを聞いてウシャスと呼ばれた女神も首をかしげる。話が食い違っていることに気がつかないようだ。

『・・・・・・? だってあれは元々人間でしょ』

『えっ? だってあれはペンギン。ってあれ、人間? ペンギン? ニンゲン? 伏せ字にしたら○ン○ン。同じじゃろ? 』

 女神が小首をかしげて本気でふしぎそうな顔をする。

『全然! ぜんぜんっ! ゼンッゼ~~~ッン! 違うから。貴女もしかしてペンギンとニンゲンで、生まれ変わらせる種族のボタン、押し間違えちゃったの? 』

『違うのか? 同じじゃろ? 両方とも直立二足歩行だし』

『確かにそうだけど・・・・・・』

『じゃあそういう事――デッ!?』

 そそくさとその場を逃げようとしたウシャスの頭を、ラートリーがひっぱたく。

『このアンポンタンッ! そういう事じゃないから。だって人間ってホモサピエンスで霊長類よ。で、ペンギンってトリよ、バード、鳥類。お肉で言ったらチキン、全然違うから』

『お肉で言う必要が――デッ!? 』

 再びウシャスの頭を、ラートリーがひっぱたく。

『このアンポンタン。例えば、ウシャスちゃんが仮に死んだとして、貴女は“メガミ”だけど、生まれ変わったのが“チリガミ”だったらどうする? “ハナガミ”だったらどうする? 』

『チリガミ? ハナガミって何じゃ? 』

『ハナをかむための紙、テッシュよテッシュペーパー。死んだ後、ボタン押し間違えてメガミじゃなくってハナガミだったとしたら? 生まれ変わった神生じんせいが鼻水まみれで終わったらどうかしらね。おなじガミだからまあいっか、ってなるかしら』

『――ッ!? そりゃダメに決まってるのじゃッ! それこそ自殺モノじゃ』

 ようやく、なぜ男がショックを受けたか女神は理解したようだ。

『まあでも・・・・・・、その死人も納得してペンギンになったならしょうがないか』

『・・・・・・』

 ウシャスは目をそらした。

『あと、人間のころの記憶は消したんでしょ』

『・・・・・・』

 ウシャスが汗をダラダラと流している。 

『何にもしてないのッ!? 』

『サーセンッシターッ! 』

 ウシャスは土下座しながら絶叫した。

 同僚女神曰く、輪廻転生で生き返らせる時には、本人に納得のいく説明(専門用語でインフォーム・ド・コンセントと言う)をして、他の女神とも話をさせて(専門用語でセカンド・オピニオンと言う)、さらに記憶を消してから地上に送るという。

『だってだってだって~、本人はレベル百にすっごく執着してたからの~、記憶あったほうが便利かなって。あと友情パワー得るために愛嬌のあるカッコの方がいいから、元々ペンギンなら好都合かなって思ったのじゃ』

『だからって・・・・・・』

『まあ、もうやっちゃったもんは仕方な――ッ!?』

『仕方ないですむわけないでしょッ! 』

 同僚があきれてため息をつくのを横目に、女神は仕方なく地上のペンギンに話しかけた。

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