第十二話 ペンギン、癒される(目的を間違えても気付かないアホの話)
詠唱が必要ない魔法であれば、精霊魔法はどうかな。
精霊、妖精、幻獣、などと呼び方は色々有るが、要はそうした超精神生命体と契約し、そいつらに魔力を与え代わりに魔法を行使してもらうのだ。
普通の魔法と違って使用者のレベル以上の強力な魔法を使えるし、精霊独特の変わった魔法も使えるのがメリットだ。
デメリットとしては、精霊と契約しないと魔法は使えないのだが、その精霊と契約するのが難しいのだ。
それでもオレは、以前は二十ほどの精霊と契約していた。
四大精霊の火のサラマンダー、風のシルフ、水のウンディーネ、土のノーム。さらに上位種だと炎の火の鳥、暴風のテンペスト、嵐のアプサラス、大地のホワイトタイガー。
その他に特殊な魔法を使うものとしては、イタズラ好きの精霊プーク、ニワトコの樹の守護者で富をもたらすエルダークイーン、幸福の妖精ザシキワラシ、相手の心を読むサトリ、変身能力のあるロビン・グッドフェロー、鍛冶屋の妖精ツベルクetc。
オレも色々契約したものだ。
・・・・・・あれ、格闘技とか剣とか槍とか戦いの妖精っていないな。そういうのと契約してればレベル百超えたのかもしれないな。いるなら今度探してみようかな。
とりあえず何か契約して魔法を試してみたいが、四大精霊やその上位種はプライドが高いのでレベルが低いうちは無理だ。
とりあえず、契約しやすくって、ちょっと便利な妖精って何がいるかな。
今言葉が通じなくて困ってるから、自動翻訳の精霊とか、足が短いから足を長くする妖精とか・・・・・・、なんていないよな。
ぐうううぅぅぅ~~。
腹からそんな音が聞こえてきた。
腹が減ったな。
ペンギンになってから本能に流されやすくなったような気がする。昔は寝食を犠牲にしても修行を優先させていたものだが・・・・・・。
ちょっと油断すればすぐメシの事を考えてしまう。これも野生の血なのかな。
そういえばデミの家では、木苺とか豆とかは食べさせてもらっているが、それ以外のメシは出されていないな。
たんぱく質食ってないなあ。
ステーキを出してくれる精霊とかいないかな。・・・・・・いないか。
そういえば、この間ウサギを狩ったのに、まだ食っていない。肉を持っているのに食えないって拷問だな。ウサギ料理してくれる妖精とかいないかな。せめて、獲物を解体して料理する精霊とかいるといいなあ、・・・・・・いるなあ。
狩りの妖精コロポックルなら狩りの手助けもするし、解体だってしてくれる。
家事好きのシルキーなら料理だってやってくれるはずだ。
まずは、コロポックルを呼び出して、ウサギを解体させよう。
「グエーグエーガー・・・略・・・(森と大地と湖の妖精にして、フキの葉の下の住人コロポックルよ。我声が聞こえたならば、その姿を現し我の願いを聞き入れたまえ)」
オレは両手を挙げて、宙に向かって語りかける。
暫くすると、オレのすぐ傍でカサカサっと葉が揺れるかすかな音がした。
視線を向けると、明らかにそこに無かった葉っぱ、フキの葉が揺れていた。
来た。フキの葉の下の住人コロポックルだ。
フキの葉を傘のように頭上に差している人型のその妖精は、異国風の服を着たおかっぱ頭の子供の姿をしていて、女の子にも男の子にも見える。
まあ妖精に性別があるのか知らんが。
「グエ~グエ~(良く来たね)」
オレは優しく語り掛ける。精霊や妖精は今のオレと同じで、人の言葉はしゃべれないが、言葉はわかるので、まずは契約したい意思を言葉で伝える必要が有る。
「ガァグエ~――(来てもらったのは――)」
『・・・・・・呼んだ? 』
オレが語りかけたその時、オレの声を遮ってコロポックルがオレに問いかけてきた。
なんだと、オレ、コロポックルの言葉がわかるぞ!
『言葉、分かる? 』
ああ、分かるぞ、分かりまくるぞ。ここまで分かると契約もしやすいってもんだ。
なんせ契約の時は、その妖精が求めていることを叶えてあげる必要が有るのだが、言葉が分からないので、何を求めてるのか理解するのが大変だったのだ。
「グエーグエー・・・略・・・(言葉は分かる。お前の望みを叶えるのでオレと契約してくれ)」
『契約? 』
コロポックルは、小首をかしげるように、オレよりもさらに小さい身体を横傾げて、頭にハテナマークを浮かべる。
フキの葉を担いだその小さな姿は、なんというか・・・・・・癒されるわ。
『望み?』
おっと、つい見とれて契約するのを忘れそうだった。
『ああ、何か望みがあるなら言ってくれ、何かして欲しいことは無いか』
『望み・・・・・・お腹すいた。ウサギ食べたい。丸ごと、できる? 』
コロポックルは身体を傾げて聞いてくる。ウッ、カワイイ。
『ウサギ? それならお安いご用だぜ。ちょうど一匹この間仕留めたものが――ッ!? 』
しまった。このウサギをあげたら、オレの食う分が・・・・・・。
なぜピンポイントにウサギなんだ? オレが持っていることを知ってるのか? しかも丸ごと一匹?
『ウサギ、ダメ? 』
コロポックルが悲しそうな顔をする。うう、こんな顔をされたら叶えないわけにはいかない。
ええい、コンチクショウめ、持ってけドロボー!
『ダメな訳があるかよ』
オレは空間拡張魔法が施された巾着袋から、先日仕留めた二本角ウサギを引っ張り出す。
『うわ~、大っきい。これ、食べていい? 』
はじめはビックリしていたコロポックルの表情が、次第に満面の笑みに変わった。
だけど、ウサギの方が倍以上大きいが、食えるのか?
だがそんな心配は皆無だった。
オレが食べていいというと、コロポックルは大きな口を開けて、ウサギを丸呑みにしたのだった。さすが精霊。
『お、美味しいか? 』
『・・・・・・(もぐもぐ、頷く)』
『お、オレと契約してくれるか? 』
『・・・・・・(もぐもぐごっくん、頷く)』
満面の笑みを浮かべて頷くコロポックル。癒されるわ~。
それに、これで魔法が使える。オレはさっそくコロポックルと契約を交わす。
「ガーグエガ~・・・略・・・(森と大地と湖の妖精にして、フキの葉の下の住人コロポックルよ。貴殿の願いを叶えし我の言葉に従い、我と契約をせよ。・・・・・・パクトゥム! )」
淡い光がオレとコロポックルを包んで、契約が成立した。
ちなみにこのときの言葉は、オレと契約者の双方が理解できれば、ガーガーいってても契約できるのだ。これで今後は面倒な詠唱とかしなくても呼び出せるのだ。
『よし契約成功だ。で、お前の名前は』
『ゴハンありがと。クー、ボクの名クー。・・・・・・で、何する? 』
クーと名乗ったコロポックルがニコニコしながら呼び出されて契約した理由、何をすればいいかを聞いてくる。
ウサギを解体して欲しかったが、・・・・・・そのウサギはもういない。
『狩りを手伝って欲しいんだが』
『狩り? わかった。・・・・・・獲物、来たら手伝う』
おお、手伝ってくれるのか。最初のウサギ狩りよりは簡単に出来そうだな。
『で、獲物はどこにいるんだ? 』
『獲物? ・・・・・・近く、いない』
『いない? 何処にいるんだ? 』
『知らない』
『知らない? ・・・・・・そうか。じゃあ呼び寄せるとか、おびき出すとか』
『無理』
『・・・・・・』
使えね~。こいつ使えねえよ。肉だけ食って役立た――ハッ!?
『・・・・・・ボク、役立たず? 』
何、泣きそうになってんだよ。泣きたいのはオレの方だよ。
だがオレは、精一杯の作り笑顔で言ってやった。
『そんなこと無いさ。これから一杯働いてもらうからな。じゃあ獲物が近くに来たら呼ぶから、それまで自由にしてていいぞ』
『ウン』
クーは満面の笑みでどこかへ居なくなった。
おお、あの笑顔だけで癒される。うん、契約した甲斐があったというものだ。




