第9話 ペンギン VS 詐欺薬師
翌日オレは、デミとジョアンの姉弟と共に森で、解熱効果のある薬草と「雑草だから引っこ抜いてきて」と頼まれた解毒効果のある薬草を大量に採って、村に帰ってきた。
森で薬草を摘んでいた時はジョアンは、初め「なんで僕が・・・・・・」とぶつぶつ言っていたが、そのうちに「あ、この草は・・・・・・」とか「このキノコは食用になって・・・・・・」とかブツブツ言って夢中になっていった。
実は昨日ジョアンが教会から借りてきた本は、この地域に野山で自生している植物が載っている植物辞典で、オレがそれを持ち出したので仕方なくジョアンもついてきたのだ。
ジョアンはどちらかというと屋内で本を読むのが好きな子供だった。
本は貴重なので買うことはまず無い。村に一つだけあるので教会にあるのを見せてもらったり、誰も読まないような本は借りたりしている。
神父も本好きらしくジョアンと気が合うらしい。
いつもは本だけで満足していたジョアンだったが、本で見る植物の絵と、森で見る実物の相違に驚いていた。どんなに実物そっくりに描かれていても、大きさや匂い、質感など、想像とは違うものも多く、彼にとってはとても楽しかったらしい。
そのお陰でジョアンからデミも色々教わったようだ。
「さっそくおじさんの所に薬草を売りに行こうか」
そういってデミは、薬師の店へと向かう。
薬師は店にいて、解熱効果の有る薬草を買い取り、雑草と教え込んだ解毒効果の有る高級薬草をタダで引き取った。
それを見てジョアンは怪訝な表情をしたが何も言わなかった。
「まだ森には薬草はありそうかい? 」
薬師のオヤジが聞いてきた。
「う~ん、まだ有るんじゃないかな」
「そうかいそうかい。じゃまた採ってきてくれるかい、雑草むしりも頼むよ」
このオヤジまだまだデミからむしりとろうというのか。
オレは薬師の親父の脚を口ばしで突きたかったが、ジョアンが先手を打ってオレを抱えていたので身動きが取れなかった。
※
翌日、デミたち一家は村の広場にいた。
実はこの日は、久しぶりに近くの町や村を回る行商兼仲買の商人が村にやってくる日だった。村の特産品や近くの森などで取れた物を買い取り、逆に生活必需品などを売ってくれるのだ。そして子供向けの玩具やお菓子も少しだがあった。
小さな村にとっては、行商人が来て商いをするのは数少ない娯楽の一つらしく、多くの人たちが広場に集まっていた。
商人と一緒に回っている屋台も出ているようだ。
オレもデミやジョアンに連れられてやってきた。
オレは別に何か買いたい物が有るわけじゃないので、来なくてもよかったんだが、オレに拒否権は無かった。
オレを連れたデミはなんだか鼻高々でオレを連れまわす。
それを見かけた村の人たち、特に子供達が、
「あれナ~ニ? 」「シロクロ? 」「パンダの出来損ない? 」「リバーシ? 」「ペンギンじゃね? 」「ペンギンって? 」「なんでここに? 」とオレを指差している。
村人はオレたちを遠巻きにして、何か聞きたそうで、それでいてちょっと様子見しているといった感じだ。
コミュ症のオレとしてはなんとも居心地が悪いものだが、まあ人の言葉も話せないから何か言い訳をする必要もないので、もう無視することにした。
逆にオレよりも、デミの反対でオレの手を引いていたジョアンの方が少し恥ずかしそうだった。
オレの手を引くのが恥ずかしいのか?
コミュ症のオレでも地味に傷つくので止めて欲しい。まあ気持ちは判るが・・・・・・。
そんなに恥ずかしいなら手を繋がなくってもいいんだぜ。だってオレはいい大人なんだから。ってかオレ自身も恥ずかしい、この場にいたくない。拒否権は無いけど。
広場にはデミたちの家族が先に来ていて、オレは姉弟から取り上げられて、双子と従妹に手をつながれてしまった。
デミは仕方ないといった感じで苦笑いしているが、ジョアンはホッとしたような寂しそうな変な顔をしていた。
ここにはデミたちの家族の大半が来ていた。
一家揃ってというわけには行かないが、デミと、弟で長男のジョシュア、その下の弟メガネっ子のジョアン、双子の妹アニーとエニー、そしてデミの母親の妹メグ(デミの叔母)とその娘で双子と同い年のエマ(デミの従妹)、デミたちの父親のシルベスタと、その弟でシルベスタよりもでかい筋肉野郎アーノルド(デミの叔父)。の計九人が村の広場に集まっていた。
デミの母親のリースと祖母のアンはまだ大事をとって寝ている。祖父のジャンと、アーノルドの妻ジェシカは母と祖母の看護で留守番だ。
「デミ、薬草が売れたからって、本当に良いのか」
父親のシルベスタがニコニコしながらジョシュアに聞いてきた。
「うん、おじさんがチョットサービスしてくれたから、今日のあたしはお金持ちだよ。みんな欲しいものあったらあたしに言ってね」
デミが薬草を換金してもらったお金が入った小さな巾着袋を持って、みんなに宣言した。
デミ、ええ子やな。
「さっすが姉ちゃん、男前だな~! 」
「男じゃないッ、ジョアンだけ奢らない! ついでに夕飯抜き! 」
「何でだよっ」
「アニーもいい?」
「え~っと、エニーもいいの?」
「あたしは~?」
ジョアンは図に乗ってデミの不評を狩ったようだ。双子の娘アニーとエニー、母親の妹の娘エマが不安そうに聞いてくる。
「もちろんいいよ、あんまり高いのはダメだけどね」
おお~、と感想がもれ、家族みんながまるで崇めるようにデミを見つめる。
元々が安く買い叩かれているんだから、ちょっとサービスしてもらったとしても、たいして貰ってないだろうに、デミってば男前・・・・・・おっと、オレも気をつけなくっちゃ。
「それじゃオレは、屋台のエールと干し肉で・・・・・・」
「いいねえ」
シルベスタとアーノルドの大人二人は酒を奢ってもらうつもりのようだ。
だから子供に奢らせるな。
「あんた達いい加減にしなさい」
ジョシュアの母の妹メグがたしなめるように言う。この人はまともな様だ。
そんなやり取りを聞いたかどうか、メグはすぐに双子の妹に手を引かれて商人たちのところへ連れて行かれた。オレもジョアンと従姉妹に手を引かれてその後を追った。ジョシュアは口笛を吹いて後をついてくる。
生活必需品の塩や調味料をジャンが買い、子供向けのお菓子や、髪留めやブローチなど安い雑貨をデミが幼い双子と従姉妹のために買ってあげた。
オレにも棒についた飴を買ってくれた。
だが、ペンギンの口ばしで飴を舐めるのは至難の業だ。何の拷問?
デミは自分の物を決めかねているようで商品を見て「ウンウン」うなっている。ジョアンは何を買うでもなく本を読んでいる。
その後、オレ達は広場のはずれで妹達と飴を舐めながら(オレは舐めてないけどね)、デミの買い物が終わるのを待っていると、野生の第六感にピンと来るものがあった。
広場の反対側、仲買商の商人が村の特産品を買い取っている屋台に、大きな麻袋を三つほど抱えた男がやってきた。
キョロキョロと挙動不審な奴だ。
やっぱり来た。
オレは絶賛お悩み中のデミと、それに付き合わされている困り顔のジョシュアの元に向かうと、デミの膝を突いて知らせてやった。