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第8話 悪い奴ほどよく笑う


 母親と祖母の熱は下がった。

 いつもは薬を飲ませると一時的に熱が下がっても、また数時間もすると上がってしまったものだが、この日は朝の薬を飲ませた後、急激に熱が下がり顔色もよくなった。

 昼過ぎには意識も回復し、重湯くらい食べられるようになった。

 オレの作った解毒薬がバッチリ効いたようだ。もう大丈夫だろう。後はしっかり栄養の有るものを摂取して、ゆっくり体力を回復すればいい。

 オレは安心して、玄関先のペン小屋で徹夜明けの眠りをむさぼっている。

 ・・・・・・って、チョット待て!

 これじゃ、オレはこの家に飼われているペットみたいじゃないか。

 メシは夕べも、朝も、昼も三食出された、木の実だけだけど。肉が食いたいがそれは置いておく。

 それに寝床もある。玄関に犬小屋ならぬペン小屋だ。

 三食昼寝つきのカワイイ動物といえば完全にペットだ。

 ・・・・・・自分でカワイイとか言うのはちょっとどうかと思うが。

 いや、そんな事言って、こんなところで安穏と惰眠をむさぼってる場合じゃない。

 オレがなりたいのは、ペットじゃない。友達だ。

 一度ペット認定された動物はその後、友達になれるのか? どうすればいいのかな?

 難しい問題だな。・・・・・・腹減ったな。

 考えていたら腹が減った。

 夕メシまだかな、いい加減肉が食いたいな。

 いかん、考え方が人間から動物に変わってきた。なんだか本能に流されているような気がする。

 などと考えていると、ドンドンと玄関ドアを荒々しく叩く奴がいた。

「あれ、あんた薬師のスットロさんじゃないか。どうしたんだい」

 デミの父親がドアを開けると、そこにはあの詐欺薬師が立っていた。

「や、やあシルベスタ。い、いやあ実は今日はお宅の息子が薬を買いに来なかったから、どうしたかなと思ってね」

 デミの父親はシルベスタって名前らしい。初めて知った。

 そうか、もう少し解熱剤で稼げると思っていたのに、買いに来なかったから心配になったんだな。 

「ああ、そうか。ワザワザ来てくれたのか、すまないね。いやあウチのカミさんとバアさんがお宅の薬の世話になったね。今日の昼にようやく熱が下がってね、だから今日から薬はいらなくなったんだよ。いや~助かったよ」

 シルベスタは嬉しそうに説明する。それに引き換え薬師のオヤジは驚いた顔つきになっていく。

「へ? 熱が下がった? ホントに? ウチの薬で? 」

「ホントに? ってなんだよ、熱を下げる薬だろ。まさかニセモンの薬売ってたわけじゃないだろ」

 シルベスタ鋭い。筋肉は伊達じゃないな。

「あ、あははは、まさかそんなわけ無いだろ自慢の薬だよ。そうか熱が下がったのか、・・・・・・あれ、もしかしてウチの軒先に吊るしておいた薬草・・・・・・じゃなくって雑草が無くなったのって――」

「雑草? なんだそれ。雑草なんか吊るしてどうするんだ」

「い、いやあなんでもないよ」

 詐欺師の薬師オヤジはしどろもどろで答えている。

 病人の熱が下がったと聞いて、この家の人が毒消し効果の有るの薬草を盗んだんじゃ無いかと疑ったのか。残念だったな、この家の人じゃなくって、ペンギンの仕業だよ。

「ただいま、あっオジサンいらっしゃい」

 そこに用事で出かけていたデミが返ってきた。

 詐欺薬師はデミに、お母さん熱が下がってよかったね――、と言った。

「それでデミは、お母さんの熱が下がったらもう薬草は採って来てくれないのかな」

 なんか話題を変えてきた。

「そうだな、薬草採りは母さんが寝てる間だけって思ってたんだが・・・・・・」

 デミが父親の顔を覗き込んでいると、シルベスタが顎をなでながら答えた。

「そ、そうかね。いやデミはけっこう薬草を摘んできてくれてたから助かってたんだ。そうか難しそうだな」

 何を確かめてるのかと思ったら、薬草の入荷が心配だったのか?

「それじゃ、今度は自分で摘みに行くかな。それで何処で摘んでいたか教えてくれるかい」

 こいつ、薬師のくせに薬草が何処で生えているか知らないのか?

 しかもそれを子供に聞くか? せっかくの小遣いのタネだ、企業秘密で教えるわけ無いだろ。

「いやぁデミは、けっこう薬草をいっぱい積んできてくれたんだけど、雑草も多かっただろ、あの雑草は薬草に寄生する草で、薬草の成長を妨げるから、無い方がいいんだ。だから今度、全部取っちゃおうかと思ってね」

 そんな言い訳通用するか? いや、デミは薬草と思ってないから教えちゃうかな。少し注意しとくかな、と思ったその時。

「そんなおじさん悪いですよ、もしよかったら、薬草もまた摘んできてあげるし、雑草も抜いてあげるよ。ねえ父ちゃん、そのくらいしてもいいでしょ。どうせキノコとか山菜とか採りに森まで行くんだから。あたしもちょっとお小遣い欲しいし」

「う~ん、そうだな。ウチももうしばらくは母さんも婆さんも寝てるだろうから、少しは現金収入あったほうがいいか? よしデミ、いっぱい薬草採って金になったら父ちゃんに酒を奢ってくれよ。母さんに内緒でな」

「ダメに決まってんでしょ」

 お前、現金収入が欲しいとか言って、結局酒かよ。父親のくせに子供に酒せびるなよ。

 デミが騙されてるんだぞ、父親だったらもっと気をつけろよ。

 世の中ダメな大人が多くて困る。

 人を騙して金儲けしようなんてのは悪いことだ。だが、知識も無くその悪いことを見抜けない事も、やはり悪いことだとオレは思う。

 面倒くさいから、難しいから、専門家に任せておけば楽だから。そうした無関心は犯罪者をのさばらせる。

 だから、こうして悪いことに気が付かないで放って置くのも悪いことなのだ。

 まあ、どうしても気が付かないで騙される事は有るだろうし、ずるい奴らは、気付かせないように上手く隠そうとするかもしれない。

 だが少なくとも、様々な事を知ろうとする努力をする事、騙されないよう工夫をする事で、悪いことをしようとする者を減らすことは出来るはずだ。

 犯罪を増やすのは、人々の無知ではなく、無知でも良いやと思う無関心なのだ。

 だからシルベスタよ、酒が飲めそうだからってそんなにニコニコしてないで、この薬師のオヤジがなんでここまで来たのかちっとは考えろ!

「グオーゲーガー」

「ウオッ、イテテテテテッ、何すんだよペンペン! 」

 オレはシルベスタの脛を思い切り口ばしでつついてやる。

 ・・・・・・だが、生前のオレは世の中の全てに無関心で、自分を鍛えてレベル百を超えることしか頭に無かったダメ人間だった。今はメシしか考えないダメペンギンだ。

 こんなオレに言われたくないか。

「ははははっ、このペンギンは遊んで欲しそうですな」

 薬師のオヤジが知ったかで笑う。

 別に遊んで欲しいわけじゃねえんだよ。

「それじゃ、このペンギン君と遊びながらでも雑草摘んできてくれるとおじさん嬉しいな。で、いつ行く? あ、明日? そうかいそうかい、それは好都合、あいやこっちの話だ。あ、もちろん解熱の薬草もね。それで大事なことなんだけど、雑草はその場で捨てないで持って帰ってきた方がいいよ、その場で捨てるとまたそこで繁殖しちゃうから。なんせ生命力が強いからね。おじさんが後で焼却処分してあげるから」

 テメエも子供を騙して薬草取り上げようとするなよな。

 やっぱ悪いことをする奴、この薬師が一番悪い。

 オレは詐欺薬師の脛も思い切り口ばしでつついてやる。

「アイタタタタタタタッ。シルベスタ、この凶暴ペンギン、絞めて肉にするとか、本村のギルドに言って駆除するとか何とかしたほうが良いようですぞ」

 薬師のオヤジはそう言いながらジョシュアの家を後にした。

 ふざけんな、お前の方こそ駆除してやる。

 ・・・・・・とは言ったもののどうすれば良いかな。

 オレの言葉がコイツらに伝わればいいんだが・・・・・・。

「グエーグオー(おい、あの薬師は詐欺師だぞ)」

「なんだ? ペンペンは何怒ってるんだ? 」

「お腹減ってるんじゃない? 」

 やっぱ通じない。ペンギンって楽じゃねえなあ。

「ただいま~、ってビックリした。二人でそこで何してるの」

 そこにジョアンが帰ってきて、玄関で姉と父親とオレが出迎えたので驚いていた。

 今日もジョアンは分厚い本を抱えている。聞いた話によるとこいつは本が好きで、教会の神父のところに遊びに行って、いつも本を読んでいたり借りてきたりするそうだ。

 眼鏡男子に似合いの趣味だな。

 そこでオレは、ジョアンの手にしている本が、昨日の本とは違う本だと気がついた。

 あ、この本は――。

「ああ、お帰り、いや別になんでもないさ。さあもうじき晩御飯だから手を洗ってこいよ」

 筋肉オヤジがオレを見て苦い顔をしながら、家の奥へと行った。

 アレ? なんかオレが悪者? 不本意だ。

 せっかく、あの詐欺師オヤジの悪事を暴いてやろうというのに。

 だけど、人を騙そうとしているのをだまし返すのはちょっと楽しそうだな。どうやってあの詐欺薬師の企みを暴いてやろうか――。と、オレが考えていると、残った姉弟がヒソヒソと小声で話し合っていた。

「お姉ちゃん、なんだかペンペンがニヤニヤ笑ってる気がする」

「そうね、なんか悪巧みする奴って感じね」

「ペンギンでも笑うんだね」

「悪い奴ほど良く笑うって言うからね」

 聞こえてるぞ。お前らのために、あいつを罠に落としてやろうと思ってるのに、なんて言い草だ。

 まあ、否定は出来ないが。


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