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第7話 ペンギン 薬を作る


 ジョアンに手を取られて家の奥に向かったオレだったが、それをこの家の娘軍団にさらわれた。

 長女デミに背後からガッツリ抱えられ、さらに双子の妹たちアニーとエニーがぶら下がったオレの手を左右から掴んでくる。

 なんだこの絵面?

 弟たちはうらやましそうに指をくわえている。

 オレはデミたちに抱えられ母親の部屋に入った。

 母親は青い顔をしてハアハアと苦しそうに息をして寝ている。ジョシュアが薬師からもらった薬を飲ませると、暫くして息使いが落ち着いたようで静かになった。が顔色は変わらなかった。起き上がる様子はない。

 隣で寝る祖母も変わらなかった。

「ふむ、もうちょっと効く薬が有ればいいんだが」

 父親が腕を組んでため息混じりに言った。みんな心配そうな顔をしていたが、今は薬を与えること意外に出来ることはなさそうだった。

「さあ食事にしよう」

 みんなゾロゾロと部屋を出て行った。

 オレもデミに抱えられて一緒に部屋を出たが、オレにはそれだけで判った。

 薬師はやはりろくでもないヤブだということが。

 確かあの森には二種類のヘビがいて、片方は噛まれても熱が出るだけなので、体力の有る男の大人だと一日で、女性でも二、三日で熱が下がって回復するので命に別状は無い。この場合解熱作用のある薬を飲ませていれば大丈夫だ。

 しかしもう片方のヘビに噛まれると、毒の成分によって熱が出るのに顔色は青くなり、遅効性の毒が心臓を痛め、半月から一ヶ月寝込んだ後に亡くなることが多い。自然治癒しないのだ。

 只の解熱の薬だけでは、その時は少し気分はよくなっても根本的な解決にはならない。毒のせいでまた熱が上がるからな。

 母親はまだ体力がありそうだが、婆さんは大分やつれてきている。早めに解毒作用のある薬を飲ませなければいけない。

 それさえ飲ませればそれほど危険な毒ではないんだけどね。

 さてどうするか、オレが摘んだ解毒作用のある薬草は、みんな麻袋に入れてジョシュアに渡したので、そのまま薬師のダメオヤジに捨てられてしまった。

 森に取り行くと、今のオレの足だと半日がかりになる。明日朝一で出かけても昼過ぎになる。それから煎じて煮詰めてクスリにするのに半日、出来るのは明日の夕方か夜になってしまう。少しでも早いほうがいいのだが。

 ・・・・・・そうか、奴の店には有るわけだ。捨てるといってたからな。

 ゴミをあさるのはちょっとどうかと思うし、生ゴミとかと一緒になってたら衛生上問題あるけど、状態によっては使えるかもしれない。

 オレはジョシュアたち家族と一緒に晩御飯を食べ(オレの食事は木苺のような木の実だった)、玄関に仮で作られた犬小屋のようなペンギン小屋で仮眠をとった。

 そして皆が寝静まった夜更けにジョシュアの家を抜け出した。

 満月に近い上弦の月が輝いていて、夜道でも歩きやすい。

 薬師の店はペンギンの足で歩いて十分ほどのところに有る。大人の人間の足なら二、三分で着くだろう。

 店の入り口でどうやって入ろうか考えていると、ちょうど薬師のオヤジが、店の裏からやってきた。

 今まで仕事をしていたのかな、意外と仕事熱心だな。

「いやあ、あの子のお陰で仕事が増えてかなわないな。でもお陰で儲かりそうだな」

 なんだ独り言か。

 あの子ってデミの事だろうな、多分。それで儲かるってのは、・・・・・・やっぱり薬草を安く買い叩いて、解熱剤を高く売ってるって事だろうな。 

「解毒薬を渡すのはもう二、三日後でも間に合うだろう。もう少し解熱剤を買ってほしいからな」

 何てことだ、このオヤジはあの母親と祖母が毒に犯されていることを知ってて、それでも解熱剤を買わせるために、解毒薬を売らなかったんだ。解毒薬を売ったらそれで終わりだからだな。

 やっぱりデミはカモにされてたんだ。

「明日は、タダで巻き上げた薬草を解毒薬にして、それから町に売りに行くかな。高級品だから結構高くなるだろうな。・・・・・・いや、あと少ししたら仲買商が来るんだったな、確か薬草も買い取ってくれるから町まで行かなくってもいいか、それだったら薬にしなくてもいいか・・・・・・」

 ふむ、解毒効果のある薬草はまだ薬には加工していないようだ。店の中に有るのかな。

 このオヤジ、やっぱりオレが採った薬草が解毒作用のある薬草(しかも高級らしい)と知ってたんだな。

 何も知らない子供をだますのは大人として最低な奴だ。しかもこいつは薬師。弱い立場にいる病人を騙すのも許せない。

 どうしてくれようか。

 そう考えているうちに薬師のオヤジは、そのまま店に入ってしまった。

 少しして、店の中が静かになったところで、オレは店のドアに手を掛ける。・・・・・・いくら田舎でも、そりゃ鍵くらいかかってるよね。

 予想どおり入れないので裏口を探す。

 すると裏口のそば、軒先で薬草がヒモに吊るされていた。解毒効果のあるあの薬草だ。

 洗って乾かしている所なのだろう。

 そうかさっき薬師の親父が裏にいたのは薬草を洗っていたからなんだ。

 店内に入って物を取るのは泥棒の所業だが、軒に吊るされているのを取るのは問題ないだろう。なぜならこれは、“捨てる”と言っていた、オレが渡した薬草なのだから。

 多分、乾いてから捨てるのだろうな、だったらその手間を省いてあげようかな。

 オレって親切だな。

 というわけでオレは、何の遠慮もせずにそこに吊るされた薬草を全て、空間魔法を施した巾着袋に“捨てて”あげた。

 ちょっと高いところに吊るされていたので、取るのがえらい大変だったが・・・・・・。


          ※


 少年の家に戻ったオレは、取ってきた薬草を包丁でみじん切りにして、大きめの鍋に入れてそれを煮詰める。

 オレは生前、山篭りをしながら修行をした際、簡単な薬なら自分で作っていたものだ。回復魔法を覚えた後はもう作らなくなったが。

 その当時の記憶を頼りに薬草を煎じる。

 本当は薬草をカラカラに乾燥させて薬草成分を凝縮させ、薬研ですりつぶしてエキスが煮出されやすいようにしてから煮た方がいいのだが、そんな事している時間は無い。

 まあ、薬草は麻袋半分ほどの量は有る。これだけ贅沢に使えば二人分の薬くらい余裕で作れるだろう。

 そう思って作業を始めたのだが、以外にもその作業は難航した。

 まず包丁を持つ手の握力が無く、包丁がすっぽんすっぽん飛んでいく。壁に突き刺さった包丁はオレの力では抜けないので、新しいものを探して使うがまた飛んでいく。

 葉をみじん切りにするのに五本の包丁が天井や壁に突き刺さった。

 さらに鍋を火に掛けるのに一苦労。

 竈の灰の奥に種火が残されていたので火をつける事はできたが、薪をくべた後、火力が強すぎたり弱すぎたり、火力の調整が難しい。

 さらに何度も吹き零れたり、鍋を掴み損ねて頭から熱湯をかぶったりして、火傷をしながら、なんとか明け方に、ギリギリ小瓶二本分の解毒薬が完成した。

 これを夕べ母親達に飲ませた薬の空き瓶に入れて、薬置き場に置いてある詐欺薬師からもらった未開封の解熱剤と入れ替える。

 後は母親達に飲ませるのを待てばいいだろう。

 ちょっと一眠りしようかとオレは玄関の犬小屋ならぬペン小屋に入った。

 デミの父親がリンゴの木箱を二つくっつけて作ってくれたオレ専用の家だ。

 まあ粗末だけど・・・・・・、でも、ありがたいな。

 友達を増やすまで暫くここにいさせてもらおう。せいぜい中身がおっさんだとばれないようにしないとな。

 奥の台所から「キャー、何これッ! 包丁が天井に! 鍋がッ、緑の液体がッ! 」というデミの叫び声が聞こえた。だが、もうそこまで面倒は見きれない。

 第一眠い。

 何か事を成し遂げるのには、犠牲はつき物なのだよ。何を成し遂げられたかは彼女は知らないだろうけど・・・・・・。

 そんなことを思いながら、オレは夢の中に逃避した。



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