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  作者: 888-878
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七 潤い

 森の中で、お姫さまの白く透き通った指が枝にふれようとした正にその時、お城の上に俄に禍つ雲(まがつくも)が掛かりました。

 人皆人(ひとみなひと)はげっげ、げっげと響く笑声を改めて思い出しました。

 王様とお妃様は古き友の帰還を確信すると同時に各々が尤も信頼を置く大臣女官にお姫さまのおわすところを尋ねました。

 しかし尋ねられたいずれの者も首を横に振るばかりでした。

 霹靂が城を振るわせました。

 王様はもはや脇目も振らず厩へと急ぎました。

 お妃様は礼拝堂へと向かい一心な祈りを捧げました。

 古くからお城に詰める者は王様が来るのを待たずして馬の準備を終えていました。

 お妃様の祈りに応じて祭壇に春の化生フル仙女の御影が差しました。

 風は雨の匂いを運んできました。

 王様が馬にまたがると同時に、騎士の多くが騎乗しました。

 お妃様の祈りに応じて祭壇に雲の化生ヴォルケ仙女の御影が差しました。

 小粒が一つ王様の頬を打ちました。

 王様のお声を持って城門が厳かに開かれました。

 お妃様の祈りに応じて祭壇に夏の化生ゾン仙女の御影が差しました。

 いよいよ雨は降り始めました。

 王様と御一行様は銘々少なく別れ、お姫さまの姿を求めて森にかけ出しました。

 お妃様の祈りに応じて祭壇に雨の化生レグネト仙女の御影が差しました。

 雨は王様と御一行様のお姿とお心をみるみる冷やしてゆきました。

 王様はお姫さまの御名を一声高く呼ばれました。もう一声呼ばれました。

 お妃様の祈りに応じて祭壇に秋の化生ヘル仙女の御影が差しました。

 暗雲の中から雷鳴が不気味にとどろきました。

 そして土砂降りの雨の中、王様は森の中に横たわるお姫さまとそのそばで泣きじゃくる侍女を見い出したのでした。

 お妃様の祈りに応じて祭壇に虹の化生ブント仙女の御影が差しました。

 稲光が一閃し、森にたたずむ人達とお城で祈る人達を照らしました。


 ゆっくりとご帰還された王様の腕の中にはその温もりをみるみる失ってゆくお姫さまの姿がありました。

 お妃様のお祈りが力なく途絶えました。

 人々は皆静まり返り、なす術もなくたたずみました。

 激しさを失った雨はいつまでも降り続けました。

 一人一人のそれぞれの人はその時、己が心の支えを失ったことを悟りました。

 自分自身にとって自分自身の命が誰のためのものであるかを知りました。

 お姫さまを失った人々は虚無に独り放り出されたも同然でした。

 皆々にとって世界とは、お姫さまと共にあるものでした。

 誰もが思いました。

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