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  作者: 888-878
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五 癇癪

 お祝いの日王様とお妃様は、各国からのお客様をもてなすために精一杯のなか、お二人の古くからの友人であるカラボス仙女がいつになっても現れないことに気をとどめておいででした。

 やがて一を数える春の仙女が訪れました。

 「まあ、なんて可愛らしいお姫さまのお誕生でしょう。

 私はお姫さまに、春のように寒さの中からふわりと生ずる暖かさを与えましょう」

 王様は尋ねました。

 「これはこれはありがたく、時に春の化生フル仙女、イバラの化生カラボス仙女をご存知ございませんか」

 「あいにくのことながら、存じておりません」

二を数える雲の仙女が訪れました。

 「まあ、なんて可愛らしいお姫さまのお誕生でしょう。

 私はお姫さまに、雲のように何者にも捕らわれないすこやかな心を与えましょう」

 お妃様は尋ねました。

 「これはこれは御過分な、時に雲の化生ヴォルケ仙女、イバラの化生カラボス仙女をご存知ございませんか」

 「あいにくのことながら、存じておりません」

 三を数える夏の仙女が訪れました。

 「まあ、なんて可愛らしいお姫さまのお誕生でしょう。

 私はお姫さまに、夏のように皆々を喜ばせるほがらかな声を与えましょう」

 王様は尋ねました。

 「これはこれはありがたく、時に夏の化生ゾン仙女、イバラの化生カラボス仙女をご存知ございませんか」

 「あいにくのことながら、存じておりません」

 四を数える雨の仙女が訪れました。

 「まあ、なんて可愛らしいお姫さまのお誕生でしょう。

 私はお姫さまに、雨のように知らず人々に潤いを与えるしとやかさのゆとりを与えましょう」

 お妃様は尋ねました。

 「これはこれは御過分な、時に雨の化生レグネト仙女、イバラの化生カラボス仙女をご存知ございませんか」

 「あいにくのことながら、存じておりません」

 五を数える秋の仙女が訪れました。

 「まあ、なんて可愛らしいお姫さまのお誕生でしょう。

 私はお姫さまに、秋のようにすべてを実らせる命あふるる恵みを与えましょう」

 王様は尋ねました。

 「これはこれはありがたく、時に秋の化生ヘル仙女、イバラの化生カラボス仙女をご存知ございませんか」

 「あいにくのことながら、存じておりません」

 六を数える虹の仙女が訪れました。

 「まあ、なんて可愛らしいお姫さまのお誕生でしょう。

 私はお姫さまに、虹のようにはざまにひととき現れる忘れられない華やかさを与えましょう」

 お妃様は尋ねました。

 「これはこれは御過分な、時に虹の化生ブント仙女、イバラの化生カラボス仙女をご存知ございませんか」

 「あいにくのことながら、存じておりません」

 王様とお妃様は期せずして長嘆息を漏らしました。

 その時城門を騒ぎがおそいました。

 なにごとかとおびえる二人が見たものは、汚らわしさの泥濘をその身にまとい、ありし日の痛ましい笑顔はその面影すら失った、醜い、やつれ正気を失ったカラボスのその姿でした。

 人々が恐れおののく中、ふれる者すべてをその鋭い棘で切り裂きながらカラボスは、お姫さまを抱えたお妃様の前に立ちはだかる王様の前に歩み出ました。

 カラボスはいながらにしてそのしなびた首をぐんぐん伸ばし、王様の後ろ、お妃様の両のかいなに護られた、大人しく眠る姫の頬にささやかに口づけをしました。

 しわがれたささやき声はしかしわれ鐘のように人々の耳を揺さぶりました。

 「これほど美しい姫はしかし十六の祝福をさずかることなく我が棘を持って死に至るだろう」

 げっげっげっげっ、と響くカラボスの笑声は皆々の心にいつまでもこびり付きました。

 王様は答えました。

 「イバラの化生カラボス仙女よ」

 「違わぬ。

 王よ私は森にいた。

 すべてが集まるこの日私は独り森にいたのだよ」

 お妃様は答えました。

 「ですが」

 カラボスはすべてをさえぎるように、げっげ、げっげと笑うばかりでした。

 お妃様は振るえる足で気丈にもカラボスに相対し、王はその聖剣に手を掛け、風の天王は胸の翼に流れをたくわえ、各々仙女は杖をかかげ、騎士は身構え僧侶は祈り、侍女が慌てふためき道化が体をよじり、次のまたたきを待たずしてすべて鋭さがカラボス自身に帰ろうとしたとき、八を数える冬の仙女が声高にこう宣言しました。

 「いとけだかきうるわしさの新たなる誕生に際し、冬の化生ヴィは、この小さなお姫さまに冬のように大人しく、ただ次の歳の訪れを待つばかりの、すべてを閉ざす眠りを与えよう」

 この凍て付くばかりの澄み渡る声に一同は我を取り戻しました。

 (はこ)の弛んだ心を引き締めたのは各々静かに訪れた虚無の白さでした。

 一人ひとりは改めてカラボスを見つめました。

 泣きじゃくる女の童(めのわらわ)は人々の瞳を引きつけながら、来た時と同じくただ独りで城を後にしました。

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