二 嗜み
湖は澄んだ水を満々とたたえ、あるじなき夜空に輝く星をすべて映し出していました。
鏡のように透き通った水面を乱したものは、獣が森を踏み越えてくる音とは違う物音でした。
白は、黒が、節くれだった棒切れで水面を乱し湖底を荒らすのを痛々しいほど呆然と開いた二つのまなこで眺めていました。
白の目に映るのは天空の星々ばかりでした。
黒がその杖を取り上げると、よどんだ泥が清い湖面をにごしました。
やがてすべては思い出の中に消え去り、さらに幾年か重ねた新月の夜、お二人の間に玉のように可愛らしい赤ん坊が生まれました。
お二人はついにさずかった子宝に心から喜び、国を挙げて、盛大なお祝いを催させました。
諸国諸侯に隣国の王族、貴族名士に大商人、奇才道化に冒険王、果ては風の国の天王から国に住まう八を数える仙女まで、ありとあらゆる人々に使いを出しました。
イバラの化生カラボス仙女はこれといって目立つところのない、しかし大人しく、そしてものしずかなおもむき深い仙女でした。
カラボスはほかの仙女と語らうのが苦手で、いつも孤独におりました。
カラボスには昔、大切な話し相手がいました。
その相手と語らうときカラボスは、ほかと語らうときとは大きく違い、棘はなく、嘘も付かず、真摯で、そしてたおやかにほほえんでいました。
しかしついにカラボスは、唯一の相手に選ばれることはありませんでした。
ひかええめな性格は、それをよしとしました。
以来カラボスのほほえみには、薄い強さと淡く広がる悲しさが混ざりました。
ほかはそれを見て美しいと思いましたが、孤高のカラボスは気丈がまさり、すべてをその鋭い言葉でうとんじました。
独りのカラボスはしかし常に、話し相手を求めていました。