十二 顕現
お城のあらゆる者の目を覚ました光が集まり、冬の化生ヴィ仙女のすがたかたちが現れると、ようやく王様とお妃様もお気づきになられました。
一同は、背が高く、骨が強く、指が細く、ほほえみが柔らかな王子を見詰めていました。
冬の化生ヴィ仙女が語り出しました。
「百年を越える城の眠りを覚ましたのは、一人で在ることを強くと知る、王子、あなた様が必用でありました」
王子は答えました。
「しかし私をさそったのは、一人で在ることが美しい、赤い花を着けたイバラの茂みだったのです」
お姫さまが続けました。
「冬の化生ヴィ仙女よ。わ
たくしは、わたくし自身ともいえる気高いイバラの化生カラボス仙女にお目通り願わなくてはなりません」
その言葉に呼応するように、一を数える春の化生フル仙女、二を数える雲の化生ヴォルケ仙女、三を数える夏の化生ゾン仙女、四を数える雨の化生レグネト仙女、五を数える秋の化生ヘル仙女、六を数える虹の化生ブント仙女がお姿を表し、仙女様方に請われる様にして、七を数えるイバラの化生カラボス仙女がその素直なお姿を人々の前に表しました。
真っ赤にはらした眼と赤く色づいた鼻先を隠そうともせずに、カラボス仙女がほほえみを持って挨拶を済ますのは、誰の目にもいとおしく映りました。
イバラの化生カラボス仙女は天頂に向けてこう放ちました。
「我らが父なる碧こと風の国の天王よ、今こそ我に審判を請う」
すると人々の心に、胸の翼に流れを存分にたくわえた、緑の天王が現れました。
碧天王はしばし一同を眺めると厳かにこうのたまいました。
「イバラが枯れれば姫が斃れる。
姫が身罷ればイバラが消える。
晴の空位を二人で埋めよ」
この言葉を残して、風の国の天王は一同の心から消え去りました。
二を数える春の化生フル仙女と雲の化生ヴォルケ仙女は、一輪の花を残して消え去りました。
四を数える夏の化生ゾン仙女と雨の化生レグネト仙女は、一葉の蝶を残して消え去りました。
六を数える秋の化生ヘル仙女と虹の化生ブント仙女は、その花に種を実らせて消え去りました。
最後に八を数えるイバラの化生カラボス仙女と冬の化生ヴィ仙女はその種を小さな鉢に植えました。
お二方はお姫さまが止めるのも聞かず、ヴィ仙女がカラボス仙女をいだくようにして消え去りました。
涙ぐむお姫さまの肩を抱きながら王子はささやきました。
「お姫さま、人はいつか子供の自分と決別しなければならない時が来るのです」
お姫さまは小さくうなずくと王子の胸の中で、丸で子供のように涙で頬をぬらすのでした。