一 祈り
「どうしていつもわたしなの」
「どうしていつもわたしばっかりなの」
「どうして」
「どうして」
「どうして」
むかしむかし、丸い山脈に囲まれた、緑ゆたかな森の奥に、大きくきらびやかなお城がありました。
お城に住まう王様とお妃様は、髭の立派な大臣や、たくましい騎士団、優しく洗練された侍女達、そして時には森から訪れる仙女達に囲まれて、なに一つ不自由のない暮らしを送っていました。
そんな王様とお妃様にもただ一つ叶わないことがありました。お二人はいつまで経っても子宝に恵まれませんでした。
ある時、旅の占い師がお城を訪ねました。
黒い老女の卜占があまりに騎士や侍女の素性を言い当てるのを聞きつけ、王様はたわむれに占い師に尋ねてみました。
「子宝がさずかる日が来るのだろうか」
しわがれた声はゆっくり、こう答えました。
「次の新月の夜、お妃様ただお一人で、森の果て、西の湖のほとりをお訪ねなさるが宜しいでしょう」
「無体をいう。おばあさんは、たわむれ言にも長けているようだ」
「たわむれではございませぬ」
占い師はそう笑うと、お城を後にしました。
王様からその話を聞いたとき、お妃様は笑い出しました。つられて、王様も笑いました。
しかしお二人の笑い声は、新月が近付くに連れ、次第に力のないものになりました。
新月の夜、王様は果実酒をたくさん飲み干すと、さっさと御寝所に向かいました。
お妃様は侍女に身をやつし、そっと城門に近付きました。