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シスターに狩猟を頼まれる

「リオ君リオ君、ちょっと良いですか?」


 ある日、昼食の後に一休みをしていると、シスターがやってきて僕の名を呼んだ。シスターの手には小ぶりの弓と矢筒が握られている。


「この弓矢を使って構いませんから、近場の森でウサギを狩ってきてくれませんか?」


「ウサギ……ですか?」


 シスターの口から意外な言葉が飛び出したと思った僕は、シスターの真意を求めて尋ね返していた。


「はい。最近ずっと野菜とパンばかりでしたから、リオ君のためにもお肉を使った料理を作ろうと思いまして。もちろん私も食べますけども」


「えっ? でもシスターはお肉を食べてもいいんですか?」


 それはいわゆる禁忌きんきではないのかと思って、僕は慌てて質問をする。


 先ほどシスターが口にしたように、ここの食卓に肉類が載ったことはまだ一度もなかった。だからてっきりシスターはお肉を食べないのだと思っていたのだけど。


 シスターは何のことはないと言いたげに、普段の柔らかい表情のまま頷いた。


「ええ、他の宗派では禁じているところもあるでしょうけど、私は問題ありません」


「そういうことなら、頑張ってってきます。血抜きもついでにやっておきますね」


「ありがとうございます。今夜はウサギ肉のシチューにしましょうか」


「シチューですか! 楽しみです!」


 僕もまだ育ち盛りだし、やっぱりお肉が食べられるのは嬉しい。


 シスターは僕に弓矢を渡し、それではお願いしますねと言い残して去っていった。一人で切り盛りしているだけあって、やっぱり忙しいんだろうな。僕もいろいろな形でシスターの力になろう。


 弓と矢筒を身に着け、僕は近場の森へと向かう。


 歩きながらシチューに思いをはせていたある瞬間、先ほどシスターと交わした会話が脳裏によみがえってきた。


 ……あれ? そういえばさっきシスターは宗派が違うって言ってたけど、ここの神様って大陸で広く信仰されているあの女神様だよね? その信徒がお肉を食べているイメージって、なんだか想像できないんだけど……まあいいか。僕もそこまで詳しくないし。


 実は以前、僕も女神様の信徒になるべきなのかをシスターにそれとなく問いかけたことがある。でもその必要はありませんよというのがシスターの答えだった。


 そういったこともあって、僕は今でも女神様に関する知識はほとんどない。でもシスターも気にしていないようだから、僕もそれでいいのだと思っている。少なくとも今のところは。


 歩く僕の足はやがて生い茂る雑草を踏むようになり、周囲は木々が多くなり始めた。狩場である森についたのだ。


 注意深く辺りを捜索すると、あっさりと目当てのウサギが見つかった。僕は気付かれないよう、離れた場所から弓に矢をつがえ、引き絞る。


 急所に狙いをつけて放った矢は少しそれてしまい、ウサギの足に当たった。突然の痛みと衝撃に暴れだすウサギ。足を引きずりながらもこの場から逃れようとしている。


 多少の罪悪感を覚えながらも、僕は次の矢をつがえ、逃げようとするウサギを目掛けてもう一度放った。


 今度の矢はウサギの頭部に命中し、その小さな体は地面の上に倒れ伏して間もなく一生を終えた。

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