救いの手
気が付いたら、僕は天井を見上げていた。ややあって理解できたが、どうやらベッドの上に寝かされているらしい。
身を起こしてみようとすると、全身がずきずきと痛む。
体はどこも包帯だらけだ。誰かが助けてくれたのだろうか。
僕は簡単な魔法はいくつか使えるけど、残念ながら体の傷を癒す神聖魔法は使えない……もし使えてたら盗賊になんてたぶんならなかったけど。
「ここは、どこなんだろう?」
幸い、口から言葉を紡ぐことはできたし耳も聞こえるようだ。もちろん両目も見えている。かろうじて動く首をめぐらし、出来る限り現状を把握しようと周囲にせわしなく視線を動かした。
僕が寝ているベッドを除くと、あとは小さな机や椅子といった家具しかないような、殺風景な場所だった。でも手入れは行き届いているのか、壁や天井にも目立つ汚れはない。
その時、ドアが開く音が聞こえた。そちらの方に目を向ける。
そこにいたのはいわゆるシスターの恰好をした、長い金色の髪を持つ綺麗な女の人だった。驚きの表情を浮かべ、大きな青い瞳で僕のことを見つめている。
「良かった。目が覚めたのですね……」
シスターは小走りにベッドの側へとやってきた。
本当はせめて半身だけでも起こしたかったけど、残念ながら今はそれすらできない。そんな僕に気付いたのか、シスターは慌てた様子で僕を布団の上から押しとどめた。
「まだ無理をしてはいけませんよ。あなたは深い傷を負ってずっと生死の境をさまよっていたのですから」
その言葉に僕は身を起こすのをあきらめ、大人しく横になったままシスターらしき人に話しかけた。
「あなたが僕を助けてくれたのですか?」
「ええ。あなたはこの近くの森で倒れていたのです……」
とても痛ましいものを見るような目で僕を見つめるシスター。生死の境をさまよっていたというのはおそらく事実だろう。あの罠が発動した部屋から抜け出せた時点で、僕はすでにいくつもの深い傷を負っていた。
「薬草を使って手当てをしておきました。時間はかかるでしょうが、傷もいつかふさがるでしょう……でもまだ無理をしてはいけませんよ」
その言葉に僕は深々と頭を下げる……もちろん体はほとんど動かなかったから、心の中で。
「はい……ありがとうございます。シスター……」
僕が休もうとする気配を感じたのか、シスターも安堵の表情を浮かべた。
「今はゆっくりとおやすみなさい。神様はいつも見ていらっしゃいますから……」
シスターの言葉を最後に僕はまぶたを閉じ、睡魔に身をゆだねた。