デルモンドの末路
――ドドドドドドド……!! という音がどこからともなく響いてくる。そしてたちまち部屋に侵入しはじめたのは大量の水だった。色は無色透明で毒々しさは微塵もない。しかし、その部屋の中にいる一人の男は顔色を変えた。
「なっ……いったいどこから出てくるんだこの水は!?」
押し寄せる水で埋まり始めた部屋のなかで慌てた声を出したのはデルモンド。エイブたちのパーティーにおいて、高貴な家の紋章が描かれた重厚な鎧を身に着け、仲間の盾となることを役割とした男であった。
シモーヌ、ベルガモといった離脱者が出たものの、エイブとデルモンドはまだ冒険者をやめてはいなかった。二人は情報屋から、お宝がまだある場所に残っているという迷宮の地図を買った。
その迷宮はすでにほとんどが探索されており、罠も解明されているはずだった。そのお宝があるはずの場所を除いて。
実際、そこに至るまでの過程には何も問題なかった。しかし、ここがお宝の場所かと不用意にある部屋に入り込んだところ、急に入口のドアが閉じ、周囲と隔絶されたのである。先に入ったデルモンドを閉じ込めたまま。
そして先ほどのように、水の音が彼に死を告げる魔笛として鳴り響いているというわけだ。
いずこかからあふれてくる水は、いつの間にかデルモンドのくるぶし部分をとっくに水底に沈め、水面はもう膝のあたりにまで達し始めている。
「くそっ……どうやったら止まるんだ! 抜け道はないのか抜け道は!?」
苦心して重い鎧を動かし、バシャバシャと水しぶきをあげながら、閉じた部屋の四方を探しまわるデルモンド。
しかしどこにも継ぎ目らしきものは存在しない。閉じたドアは何回も手に持つウォーハンマーで叩いてみたが、分厚い金属で出来ていてへこむ様子すら見えなかった。
デルモンドにはかつて迷宮でいくつもの抜け道を発見した仲間……いや、下僕のように扱う存在がいた。
もしその者がこの場にいたら、この危地を逃れる術を見つけ出していたかもしれない。
しかしデルモンドは己の家柄を鼻にかけ、出会った時からその者のことを盗賊ふぜいと下に見ていた。その者自身の人柄とその技術に最低限の敬意を持っていれば、今現在こんなことにはなっていなかったかもしれない。
いつの間にか水位が腰のあたりにまで来てしまっている。半狂乱になったデルモンドはもう一度閉じたドアへとすがりついた。
「エイブ! そこにいないのか! なんとかしてくれなんとか!!」
隙間なく閉ざされた厚いドアを必死に叩き、声を張り上げるデルモンド。
しかし彼の声は水の音にかき消されてろくに届かない。もし届いていたとしても、名を呼んだエイブがデルモンドのために危険を犯したかどうか。
ついに水の塊が、デルモンドの首まわりまでをその支配下にした。
こうなっては彼が頼りとする重厚な鎧も、彼が誇りとする高貴な家柄も何の役にも立たなかった。
「ま、待ってくれ! 私は、私は、私は私は私は私はあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
……。
…………。
唐突に悲鳴がやんでからしばらくは激しい水の音だけが響いた。それもいつしか止み、完全なる静寂があたりを支配する。
たっぷりとした沈黙が続いた後、ようやく部屋を埋め尽くす大量の水が引き始めた。
すっかり排水されたあと、もはや何も喋ることのない濡れそぼった死人が床に倒れていた……。
R.I.P




